大寺史紗Ohtera Misa

作品写真:生まれ落ちる

生まれ落ちるbe born

雲肌麻紙、墨、胡粉、インクKumohada washi, ink, chalkH2350 × W1905mm

この世に生を受けることを「生まれ落ちる」というが、人間は生まれた瞬間が最も無垢な状態であり、年月を重ねる度に汚れていくものである。「落ちる」という言葉の中に 音や光のない、えもいわれぬ恐怖を感じる。それでも尚生きていく意味とは何か、描きながら自らに問い、地を這う様に生き続ける執念を表現したかった。

大寺史紗

女性とも男性とも見分けのつかない人形のような顔立ち、片方の瞳はこちらをじっと凝視している。体の一部とも思える異形なフォルムはリズミカルに躍動をしながら生を産み、それらは美しい線描で描かれている。中央の赤児の手は薔薇の根を持ち、これから始まる生の祝祭を予感させる。作品は日本画のクラシックな技法である線描や隈取りを用いた墨による表現であり、丹念に何度も墨を重ねることでモノクロームの色相が増し、墨色は豊饒なる色彩の海へと変容する。狂おしいまでに生きることへの希求を、この作品は私たちに問いかけている。

日本画学科教授 内田あぐり

都築良恵Tsuzuki Yoshie

作品写真:ケモノ道

ケモノ道Animal Trail

高知麻紙、岩絵具Kochi mashi hemp paper, mineral pigmentsH2590 × W1940mm

私の焦りと力。この勢いでどこへでも行けるような気がしています。

都築良恵

むき出しの手足には血が滲み、爪はささくれている。棘のある枝葉に覆われ行く手を阻まれつつも、潜みて、周囲の気配に耳を澄ましながら、野生に満ちた彼女の眼光は、唯一点、前方を凝視している。
綿密に描き込んだ墨のモノクロームの階調の響きと共に、張りつめた緊張感が画面に漲っている。
自画像でもある作者自身、臆病で弱き者であることを自覚している。
しかし、背後の道を引き返せば脱出可能な空間の存在を用意しながらも、敢えて答えのない混沌とした世界へと、ケモノ道を前進する姿は、自身の卒業を迎えての並々成らぬ決意が伺われる。

日本画学科教授 西田俊英

安村真澄Yasumura Masumi

作品写真:夢幻

夢幻mugen

高知麻紙、岩絵具、水干Kochi mashi hemp paper, mineral pigments, dyed mud pigmentH2730 × W1820mm

見たいのに、もう見えない。行ったことがあるはずなのに、もう行くことはできない。
小さな頃でしか感じることができなくて、とても強烈な記憶のはずなのに大人になると忘れてしまう。
出会うことができるのは一瞬だけど、今もどこか知らない場所で、永遠に在り続ける世界。

本当にその時間が在ったのか曖昧になってしまうような儚さをもつ祭りから、わたしを通り過ぎていったある一瞬の時間を描きました。

安村真澄

画面からあふれる熱気、暖かな色彩で描き出された賑わいや華やぎ。作者自身の言葉によれば「ある時期やある年代でしか感じることができなくて、とても強烈な記憶のはずなのに、大人になると忘れてしまう。切ないような儚いような一瞬の世界」を描きたかったという。
作者が表現しようとしているものは、心の中に有り、行きたいのにもう行くことのできない場所である。作者が今までに出会った祭りの楽しい想い出があふれて、画面からは祭り囃子の音までが聞こえてきそうである。作者の心に浮かんだ想い出をもとに、祭りの様々な形態やエネルギーを画面に再構築し描ききった。熱気を感じさせる秀作である。

日本画学科教授 三浦耐子