大石麻紀子Oishi Makiko

作品写真:キミのスレスレ
作品写真:キミのスレスレ

キミのスレスレThe Crisis of Yolk

映像|2分30秒Movie|2min 30sec

BookH210 × W297mm

黄身は薄い皮膜の内側にオレンジ色の粘液を内包している。傷つきやすく繊細で、普段は白身と殻によって守られている。制作を通して、黄身はある時は高所から落とされ、ある時はアクリル板で押さえつけられ、またある時は糸によって吊るされた。外界からの刺激に健気に耐える姿は、世界の軋轢に耐える人間と重なって見える。黄身は「私」のメタファーであり、それは誰もが身体という殻の内側に内包する無力で繊細な心の姿である。

大石麻紀子

卵の「黄身」を人間の身体のメタファとして用い、環境へのアフォーダブルな視点を喚起する作品である。黄身は柔らかく可変性に富んだ物体である。粘性の高い液体が薄く強靭な皮膜で覆われている。これを斜面から滑らせたり、落としたり、四角い箱に収めたり、糸をくぐらせて持ち上げたり、平面を押し付けたりと、多様な圧力やストレスを加えてみせる。それに応え適応していく黄身の姿に、宇宙の摂理の中で生を繋いで生る人間の健気な存在を写し出している。キミは「黄身」であるとともに「君」でもあるのだ。

基礎デザイン学科教授 原研哉

北原聡一郎Kitahara Soichiro

作品写真:NOISE

NOISE

オブジェ|紙Object|PaperH160 × W140 × D100mm ~ H470 × W450 × D360mm ×8点

直径2mmの穴を規則的にパンチした黒い紙で、宝石、鉱物をモチーフとしたオブジェをつくり、その内側にモアレを誘発するグラフィックを印刷し閉じ込める。私はそれらを「NOISE」と名付けた。数学的で硬質な形態の中で、素材とグラフィックが干渉し合い濁流のように混ざり合う。かたちが成立し、私の手を離れたその時から彼らの内側には独自の時間が流れ始めているようだ。

北原聡一郎

止まっているはず物体の中にうごめく正体はなんだろう。規則正しく開けられた細かな穴から表れるモアレと、内壁を埋める図像がシンクロしてノイズのような有機的な表情を生み出す、それがうごめきの仕掛けだ。その現象を内包する多角形の物体の質量は、ノイズとフォルムによって不明瞭となり独特の物質感を放ち、見る側に能動的な洞察を促す。表現の精妙さが秀逸で、冷やかな独自の世界観を創出した作品である。

基礎デザイン学科教授 柴田文江

齊藤大介Saito Daisuke

作品写真:キネティック・ポエトリー
作品写真:キネティック・ポエトリー
作品写真:キネティック・ポエトリー
作品写真:キネティック・ポエトリー

キネティック・ポエトリーKinetic Poetry

映像|ディスプレイ|12分15秒Movie|Display monitor|12min 15sec

じっくりと向き合いたい。人間の複雑さについて。
自分のことを解らなくなることがある。他人のことを解らなくなることがある。
昨日まで気にもしなかったことに悩まされる。ある人のふとした言動がいつまでも忘れられない。
喜びも悲しみも、決意も葛藤も、 本音も建前も、誠実も欺瞞も。そして希望も絶望も。
目まぐるしく移り変わる感情や人間関係の中で私たちが忘れてしまったこと。
混沌を抱えたまま生きたっていい。秩序に逆らえず流されたっていい。
これは、私たちの大いなる難解さを肯定し、礼讃するために生まれた。

齊藤大介

作者は精緻の極みである小さな歯車や部品が、薄い隙間にぎっしりと集積している時計に魅了され、その運動にそそられるという。そのような構造を、文字でできている「小説」の再現に運用してみせている。ここでは村上春樹訳のスコット・フィッツジェラルド『華麗なるギャツビー』の一節を、バラバラに解体された文字の集積として丁寧に制御しながら、あたかも精密機械にように、テキストが生成、変化、解体していく様を、キネティックに描いて見せている。

基礎デザイン学科教授 原研哉

谷口敦紀Taniguchi Atsuki

作品写真:へきれき
作品写真:へきれき

へきれきhekireki

インスタレーション|ミクストメディアInstallation art|Mixed media

自然は美しい。自然は圧倒的な感動を与えてくれる。美しいものは数多くあるが、自然はその次元を超えて、人類に共通して美しいと感じさせる何かが潜んでいる。この自然の中に潜むものは何か。私はこの作品を通してそこに近付こうと考えた。
自然の中で雷をモチーフに選んだ。真っ暗な何もない空間に一瞬にして閃光が現れ、気付いた時には何もなかったかのように消えてしまう。ただの雷の再現ではなく、雷の美しさに潜む言葉では表せない何かを、形、感覚として表現したかった。

谷口敦紀

雷のカタチには二つと同じものがない刹那の美しさがある。真っ暗な室内を使ってその閃光の緊張感と儚さとを体感する装置、それが谷口の作品だ。光がランダムに現れる間合いを緻密に設計し、自然の畏怖と無限の空間を見るものに感じさせる。足元の明かりや静けさを誘うかすかな放電を模した音など、へきれきと対峙する状況の全てが巧緻を極めた作品であり、その構成力と完成度が高く評価された。

基礎デザイン学科教授 柴田文江

バク ドンウォンPark Dongwon

作品写真:Liquid
作品写真:Liquid
作品写真:Liquid
作品写真:Liquid
作品写真:Liquid
作品写真:Liquid

Liquid

アニメーション|ディスプレイ|3分40秒Animation|Display monitor|3min 40sec

タイトルである「Liquid」は名詞の「液体」の意味より、形容 の「流れるような」または「流動性」という意味に近いかもしれない。
窓に着く雨の雫の流れを観察した。ここからルールを抽出し、アニメーションに適用した。映像は3章に分けて編成した。第1章は窓の雨の雫を真似したアニメーションを配置し、第2章では強調したいところを拡大、第3章では液体が私たちが思う動きを裏切る映像を入れた。

バク ドンウォン

窓に付着した雨粒が、重力によってガラス表面をつたい落ちる。粒と粒が融合しながら、アメーバのように運動する光景は、誰もが目にし、そして記憶しているものである。作者はこれを精密な動画として再現した。その次に、その運動ルールを抽出し、それを他のアニメーションの運動原理に適用して見せた。それは図像、文字、日常の風景や都市の景観のような多様な動画に適用されており、いずれも意外性のある感動を生み出している。誰もが記憶している事象を、表現の原理として運用できている点が秀逸である。

基礎デザイン学科教授 原研哉

守本悠一郎Morimoto Yuichiro

作品写真:スカーフチェア
作品写真:スカーフチェア
作品写真:スカーフチェア

スカーフチェアSCARF CHAIR

ビニールVinylH800 × W600 × D650mm(組立前:H900 × W1600mm)×5点

世の中にはたくさんのイスがある。見た目の美しさを追求したイスや、座り心地を極めたイス。しかし、このイスはそれらのイスとはちょっと違う。このイスは、1枚の平面が立体になることで完成する。つまり「作り方」に新しさがあるイスだ。
欠けた半円のような形の平面に1本のカットを施し、五角形を切り抜く。その五角形が座面となり、切り抜かれた残りの円をくるりと巻くと土台になる。
そのような仕組みでイスを作ったら、必然的にこのカタチになった。平面から生まれた軽やかなこのイスを「スカーフチェア」と呼ぶことにした。

守本悠一郎

椅子はこれまでも数え切れないほどのデザインが生み出された対象だが、守本は平面から立体を立ち上げる「変形」というアイデアを制作の軸とし独創的な構成を探りあてた。素材の張力と形の張りが構造の要であり、ビニール素材はそれを明示するのにも適切だ。エッジに溜まった素材の色がアウトラインの美しさを際立たせ透明という存在感を放っている。平らな時のカタチと椅子になった状態の二つの美しさを併せ持った作品である。

基礎デザイン学科教授 柴田文江

吉田大成Yoshida Taisei

作品写真:明朝体「はくれい」の制作
作品写真:明朝体「はくれい」の制作
作品写真:明朝体「はくれい」の制作
作品写真:明朝体「はくれい」の制作
作品写真:明朝体「はくれい」の制作
作品写真:明朝体「はくれい」の制作

明朝体「はくれい」の制作Mincho style typeface “Hakurei”

タイプフェイスデザイン|本|紙Typeface design|Book|PaperH280 × W250mm、H180 × W125mm

「はくれい」は情緒的な言葉や文章を組むことを想定した明朝体である。岡倉天心『茶の本』(訳:村岡博)第六章「花」の文中の「日本の花は散る時さえも誇らしく、はかなく美しい」という表現から着想を得た。日本の文字が持つ筆の質感や、しなやかな曲線を生かしたエレメントで制作した。
文章の中には様々な書き手の思いが介在し、その言葉を伝えたいイメージに近い形で読み手に伝えるのがフォントの役目の一つである。言葉に添えられた「はくれい」とともに物語に没頭してもらえたら嬉しい。

吉田大成

本文書体をつくること、それはタイポグラフィへの敬意と膨大な作業量、そしてなによりも気の遠くなるような一貫した緻密な制作時間をともなう。グラフィックデザインがアプリケーションづくりだとすると、その根幹、OS(オペレーションシステム)を生成・構築することに近い。吉田君はこのタイポグラフィの本質に迫る大テーマに真正面から取り組み、ひらがな、片仮名、漢字、なんと5500字にものぼる、そこはかとない流麗な明朝書体とそのファミリー展開を見事に描きあげたのだった。

基礎デザイン学科教授 板東孝明