北林みどりKitabayashi Midori

作品写真:水文様二十一景
作品写真:水文様二十一景
作品写真:水文様二十一景

水文様二十一景Mizumonyounizyuuikkei

MDF、スチレンボード、OHPフィルム、紙Styrene board, OHP film, paperH420 × W297mm ×21点


H252 × W183mm

水に特定の形はない。
しかし、一瞬を形として切り取った文様はある。私は波の形をとどめた文様を、自然の中に存在する波をイメージしてゆすり、回し、スライドしてみた。するとそれは本物の水のように流れ、光り、揺らいだのだ。
水文様は動きを加えることで、自然界の生きた水のような表情を生み出すのである。本作品では、そんな水文様の不思議を、自らの手で動かすことによって体験し、発見するものである。
活き活きと目覚める水の表情・風情を自分の手で感じながら楽しんでもらいたい。

北林みどり

北林さんの作品はとても完成度が高い。ものとしての完成度もさることながら、その内部に組み込まれたしくみや思惑など、とても熟考されたものである。これは例えばデザインセンスがあるなどという簡単な言葉だけでは言い表せない。北林さんはとにかく真摯である。ゼミはほぼ全回出席した。その真面目さの第一の結果として、夏のゼミ旅行の際のゼミにて「私は大発明をしました」という言葉とともに披露された今回の卒業制作のアイデアにみんなが驚愕した。しかし北林さんはそのアイデアのすごさだけでは止まらず、それを今回の見事な作品まで持っていくという第二の結果を出したすごさがある。

視覚伝達デザイン学科教授 古堅真彦

國本菫Kunimoto Sumire

作品写真:間の画家 月岡耕漁
作品写真:間の画家 月岡耕漁

間の画家 月岡耕漁Artist of HAZAMA
Kogyo Tsukioka

年表、本|紙Chronology, book|PaperH1456 × W4120mm、H297 × W420mm ×2点

生活や文化が絶えず変化し流動する明治時代に生きた月岡耕漁。彼は能楽を題材とした絵画【能画】というジャンルの作品を残しているが、その画業の時代との関係、能画以外の作品に着目した研究は今日まで殆どされてこなかった。今まで語られる事なく忘れ去られていたが、紛れもなく重要な日本芸術界の間の画家である。意味、関係性、価値を新たに発見する為、事実を年表で俯瞰し、自らの言葉で思考し作り上げた本を纏めて形とする試みである。

國本菫

今回の卒業制作において國本さんは「月岡耕魚」という忘れられた作家を発見したと言っても過言ではない。そう言いたくなるほどこの明治2年生まれの画家に関する情報、研究は皆無と言って良いほどであった。唯一彼の名が歴史に刻まれているのは『能楽図絵』という美しい木版の能画集であった。彼女が2年がかりで作り上げた耕魚の年表には能画のみではなく、日本で最初のグラフ・マガジン『風俗画報』への寄稿も加えられ耕魚の全貌が明らかになった。そこに社会の諸事象や同時代画家などを布置、俯瞰することで、単なる個人作家の探求に止まらず今後私たちが探求すべき19世紀後半から20世紀前半の埋もれた日本のグラフィックデザイン史が浮かび上がってきたのである。

視覚伝達デザイン学科教授 寺山祐策

佐々木彩Sasaki Aya

作品写真:書の空間とTypography
作品写真:書の空間とTypography
作品写真:書の空間とTypography
作品写真:書の空間とTypography
作品写真:書の空間とTypography

書の空間とTypographySpace of writing and Typography

巻物、本|和紙、針金Scroll, book|Washi, wireH340 × W13560mm、H340 × W760mm、H340 × W340mm

カラーコントロールによって、紙面の中での奥行きが生まれることをタイポグラフィ的視点としたとき、それは印刷物だけでなく、筆によって記された書にも言える。筆文字の特徴として、文全体はもちろん一字一字の中にも強弱がある。今回は光悦筆だろうと言われる「鶴図下絵和歌巻」の文字を使用し、奥行きの広がりがどのように在るのかを立体で表現した。奥行きの表現の基準には、私自身が視覚調整した10段階の明度を使用している。この作品で、ただ文字が連なったように見える書がどんな奥行きを持っているのかを感じてもらいたい。

佐々木彩

優れた書の空間感を読み解き、その美の有り様を実際の三次元空間に置き換えることを試みた作品だ。和歌を主題に揮毫された書の空間は、筆圧や墨付きなど瞬時の感覚によって画面全体が構成される。この空間は二次元的な空間美で終わらず三次元的な奥行きの美しさを持っている。この空間美を佐々木さんは、文字を平面から切り離す事で表現しようとした。自らの視感覚を鍛える為のスタディを同時に行いながら鶴下絵から文字を切り出し、三次元の空間に再構成していった。無謀ともとれる卒業制作だが、言葉では説明しきれない書の空間美を、鍛あげた視感覚と忍耐力によって視覚化を試みた斬新な作品である。

視覚伝達デザイン学科教授 新島実

寺町美代子(美代マチ子)Teramachi Miyoko (Miyo Machiko)

作品写真:書店漫画を通して見る エンタメと非エンタメ
作品写真:書店漫画を通して見る エンタメと非エンタメ
作品写真:書店漫画を通して見る エンタメと非エンタメ
作品写真:書店漫画を通して見る エンタメと非エンタメ
作品写真:書店漫画を通して見る エンタメと非エンタメ

書店漫画を通して見る エンタメと非エンタメEntertainment and non-entertainment to watch through bookstore comics

漫画冊子|紙、インクComics|Paper, inkH257 × W182mm × 3点、H182 × W128mm × 3点

ドラマ、映画、漫画、アニメのような「エンターテイメント」と呼ばれるものの脚本には共通して「人の心を動かす法則」がある。「ぶっきんぐ!!」は主人公かの子が持ち前の根性と絵の才能を生かして光林堂を立て直していく話だ。
この作品のモデルとなった光進堂という書店は私が大学2年生の夏に閉店した。

「地元の小さな書店が潰れた」という一つの事実を元に、エンタメ作品として昇華させた「ぶっきんぐ!!」と、お店と私の関係をありのまま描いた「光進堂メランコリー」という二つの物語が生まれた。

寺町美代子(美代マチ子)

寺町さんの作品は自分が幼い頃から通い、アルバイトもしていた近所の書店が経営難で閉じたという経験をもとに描いた2冊の漫画『ぶっきんぐ!!』と『光進堂メランコリー』から成る。一方はあくまでもエンターテインメントを目指し、本年1月に実際に出版されたものであり、もう一冊はリアルな経験を綴ったいわば「私小説的」なものだ。彼女はこの二つを通して自らにとって漫画を描くとはどういうことか(現実の経験と表現までの距離)を問う実験的な試みを行った。この野心的な試みが可能になったのは彼女の筆力、努力も勿論あるが、現実の出来事に対する彼女の持つ繊細で豊かな感受性あってのものだろうと思う。

視覚伝達デザイン学科教授 寺山祐策

畑沙織Hata Saori

作品写真:吉祥、山羊の詩 テキスタイル
作品写真:吉祥、山羊の詩 テキスタイル
作品写真:吉祥、山羊の詩 テキスタイル
作品写真:吉祥、山羊の詩 テキスタイル
作品写真:吉祥、山羊の詩 テキスタイル
作品写真:吉祥、山羊の詩 テキスタイル

吉祥、山羊の詩
テキスタイルThe Swastika, a poetry of the goats
textiles

本|紙Book|PaperH420 × W320mm × 2点

木版画|紙、インクwoodcut|Paper, inkH225 × W225mm × 8点、H250 × W180mm × 2点

テキスタイル|布Textile|ClothH2000 × W1000mm × 4点

父の膨大なアルバムの中には、地球のどこかにいる動物達の写真が私たち家族写真と共に並べられている。恵まれた日本の地で暮らして来た23年間、1度も足を運んだことはないけれど、私の世界の延長線上には、タンザニアのヤギがいた。
父の写真を見返し、遠い国の動物達に想いを馳せながら制作した版画と、父が教えてくれた途上国での動物と人々のお話を編集した詩集。そして画家ラウルデュフィの技法に習い、木版画を展開し、テキスタイルパターンを製作した。

畑沙織

アポリネールの動物寓話詩にラウル・デュフィが挿絵を描いた『動物詩集』に大きな影響を受け、3年次からデュフィのテキスタイルの造形視覚言語の分析を行ってきた彼女は、卒業制作において自らの「動物詩集」を作ることにした。その素材は水資源開発のためアジア、アフリカなど過酷な土地で仕事をしてきた彼女の父親が、幼い頃から手紙やメールで送ってくれた現地の動物たちの膨大な写真であった。図像は全て手彫りの木版であり、そこに彼女の父親から送られたテキストが編集され構成されている。英語と日本語の2つのヴァージョンがあり木版ならではの強いイメージとモノクロームが美しい書物となった。

視覚伝達デザイン学科教授 寺山祐策

濱元拓Hamamoto Taku

作品写真:眼とモルフェー
作品写真:眼とモルフェー
作品写真:眼とモルフェー
作品写真:眼とモルフェー
作品写真:眼とモルフェー

眼とモルフェーEyes and Morphe

インスタレーション|プログラミング、プロジェクション|ディスプレイ、プロジェクタ、PCInstallation art|Programming, projection|Display monitor, projector, PCH2300 × W4000 × D4000mm

プロジェクションProjectionH910 × W1500 × D1800mm

アニメーションAnimationH270 × W470mm × 5点

この作品はジェームズ・ギブソンの視覚論をベースにしている。彼の著書『生態学的視覚論』に「眼が抽出するのは形態ではなくて連続的な変形なのだ」という言葉が出てくる。この作品は、彼のこの発想を見る人に経験させる為の作品である。作品の中では要素がランダムに配置されているが、要素の動きには規則性がある。人の眼は規則によって生じる形を知覚する。私たちは刺激自体を見ているのではなく、刺激の関係から生じるパターンの連続を見ている。

濱元拓

濱元君の主題はずっと一貫していた。それは私たちの視覚的経験とは何か、その根本的な原理を突き止める事であった。その過程の中で彼はC.S.パースの『現象学』や、J.ギブソンの『生態学的視覚論』などを読み込んできた。彼が現時点で導き出した結論は「情報は各要素が生む個別の刺激ではなく、その刺激の関係から生じている。私たちは刺激自体を見ているのではなく、刺激の関係から生じるパターンの連続を見ている」というものであった。彼の作品が素晴らしいのはその理屈をシンプルで鮮やかな視覚経験に置き換えて見せてくれた事である。私たちは流動の中にかたちを見、流動が止まればそれを見失う。彼はそれを世界の比喩だと述べている。

視覚伝達デザイン学科教授 寺山祐策

二俣宏歌Futamata Hiroka

作品写真:物語るもの
作品写真:物語るもの

物語るものA storyteller

着物|染色、刺繍|絹布、植物染料、糸、スチレンボードKimono|Dyeing, embroidery|Silk cloth, natural dyes, thread, styrene boardH1670 × W1640mm

着物地Kimono clothH250 × W250mm × 40点

私の家には祖父母が作った庭がある。今は母が手入れをし、父が剪定をし、私が愛でるなどしている庭だ。そんな愛する庭の今の姿を記録したいと考え、本作品を制作した。
庭は家を映す鏡だと思う。植物を植える人がいて、手入れをする人がいて、咲いた花を家に飾る人がいる。新しい家族が増え、新しい植物が植えられ、そうして受け継がれていく。家と共にあり、家人と共に時を重ねる。庭は家族の物語を映し出しているのではないだろうか。この、物語という点で庭と着物は共通している。着物の模様には一つ一つ意味があり、着る人の思いや祈りが込められている。親から子に贈られ、また受け継がれていく。着物とは、家族の愛情や歴史という情報を物語る衣服なのだ。だから私は家の庭を着物に記録することにした。私の家の物語を、物語るものとして。
祖父は3年前に亡くなり、祖母も(長生きしてほしいが)いつか亡くなるだろう。両親は年老い、兄夫婦には家族が増えることだろう。私は…どうなるか分からないが、そうして形を変えて行く家族の姿は、どんな形であれこの庭に映え咲くのだろう。それを見て私はやはり、美しいと思うに違いない。

二俣宏歌

家族の記憶といった概念的なテーマを、着物の模様によって表現しようとした意欲的な作品だ。描かれた山野草は、故人となった祖父を象徴すると同時に家族の物語を象徴している。二俣さんは3年生の頃から着物に描かれた模様の背後に込められた思いを読み解くことに夢中になっていた。卒業制作ではその経験を基に、逆に模様を通して思いを込める構成を試みた。丁寧に記録し構成しそして美しい色彩で庭の山野草を描いた。個人的な思いをデザインの表現にまで追い込めるほどの造形力によって、伝統的な技術による表現とは異なる表現が見えてきている。美しく説得力を有する作品に仕上がっている。

視覚伝達デザイン学科教授 新島実

茂木美桜Motegi Mio

作品写真:水仙月の四日
作品写真:水仙月の四日
作品写真:水仙月の四日
作品写真:水仙月の四日
作品写真:水仙月の四日
作品写真:水仙月の四日
作品写真:水仙月の四日

水仙月の四日The Fourth of the Narcissus Month

絵本|紙、パネル、アクリル絵具、銀粉、漆Picture book|Paper, acrylic paint, silver powder, urushiH300 × W300mm

「水仙月の四日」は、宮沢賢治が書いた童話である。宮沢賢治の作品には、目には見えない存在、風や雪などの自然現象を擬人化することにより、彼らの声を描いた童話がある。雪をテーマとしたこの作品も、その中の一つだ。
岩手県の四月の景色、美しく磨き上げられたような群青の空、そして時に荒々しくその表情を見せる雪童子達。
文章の中に込められた風景を想いながら、私はこの物語をもとに1冊の絵本を制作した。

茂木美桜

茂木さんはこれまでも何度か宮沢賢治の童話に基づいて絵本を制作してきた。彼女は取材のため花巻に幾度も通い、硬質で説明を排した、必ずしもわかりやすいとは言えない賢治の文章を深く読み込んできた。その上で言葉とイメージを衝突させ、単なる説明や挿絵ではない対等な関係まで作り上げてきた。それがこの絵本の持つ、静けさと荒々しさというコントラスト、雪童子の繊細な感情の変化、ダイナミックな時間経過の描写など、全体の構成の素晴らしい緊張感の所以である。また彼女が最も力を注いだのは輝く群青の空色と水仙月の4月を象徴する千変万化する雪の白さであり、それは素晴らしい効果を上げている。

視覚伝達デザイン学科教授 寺山祐策

山市彩Yamaichi Aya

作品写真:日本のかみ
作品写真:日本のかみ
作品写真:日本のかみ
作品写真:日本のかみ

日本のかみJapanese paper

本|和紙Book|Japanese paper (Washi)H265 × W380mm、H210 × W210mm × 2点

和紙タペストリー|和紙Japanese paper (Washi) tapestry|Japanese paper (Washi)H2700 × W1800mm

壁面ディスプレイ|植物Wall display|Dried plantH2500 × W3600mm

和紙とは何か。寿岳文章著「紙漉村旅日記」を参考に和紙の産地を巡り、実際に紙を漉いた。その日々の記録と経験から、和紙とは何か自分なりに考えた。清らかな水を用い、植物から作られる和紙。日本の自然と人々の文化をつなぐ、いわば素材という名の「間」な訳だが、実はそれ自体がとても美しい。そのことを知ってもらうために自分で漉いた紙自体を作品とした。日本の紙とは。日本の美とは。私の気づきとこれからの挑戦、そのはじめの一歩である。

山市彩

山市さんは以前から書物の形や構造に興味を持ち、特に和本の歴史について相当な知識と実践的な造本経験を積んでいた。その上での彼女のテーマは「和紙」であった。普通、表現とは媒体(例えば和紙)の上に展開されるものであり、媒体はいわば黒子である。しかし彼女は今回徹底的にその媒体に向き合った。寿岳の『紙漉村旅日記』さながら可能な限り日本の紙里を巡り、漉き、記録した。また本来美術大学においてこそ、学生自ら紙を漉くべきと考え実行した。恐らく彼女のこの情熱の背後には現代デザインの状況への鋭く深い批評があった。しかし彼女は声高にそれを語らず、見るものに紙という自然と人との美しい関係を提示するのみである。

視覚伝達デザイン学科教授 寺山祐策