はじめに佐野寛林利昭佐藤康三原研哉深澤直人中島信也近藤康夫佐藤卓中西元男
略歴
1955年 東京に生まれる
1979年 東京藝術大学デザイン科卒業
1981年 同大学院修了、電通入社
1984年 佐藤卓デザイン事務所設立


主な受賞:
「デザインの解剖」ニューヨークADC銀賞、「にほんごであそぼ」TDC会員賞、東京ADC賞、毎日デザイン賞、JAGDA新人賞、日本パッケージデザイン大賞金賞、Gマーク金賞、デザインフォーラム金賞、東京ADC・原弘賞など

特別講義第8講
見えないものを引き出すデザイン
自分をマネージメントする
 世の中に出ると、デザイナーである以前に社会人として求められる能力がある。まず人の話を聞いて理解する能力、なぜそうしなければならないのか疑問を投げかける能力、問題を発見する能力である。すべての物事の裏側には理由がある。そこに疑問を投げかけていくことで隠れていた情報が引き出され、その中から問題が見つかり始めるのである。それを問題と捉えられるかどうかも能力である。それから当然ながら技術と体力も求められる。その中でどんな仕事においても重要なのが、自分と他者の関係をどう築いていくかという、自分をマネージメントする能力である。他人に自分がどう映っているのかを意識しなくてはならない。
 ひとつひとつの仕事をコマとして考えたときに、ある1つの場所にそのコマを積み上げていくと、いち早く目立つので他者からも早く認識される。しかし、同じことばかりをやっていくだけがデザイナーの仕事の仕方なのかという疑問を感じ、自分にはどうしてもそれができなかった。コマを増やしていくときに、一点が突出していく生き方もあれば、時間がかかるけれどもいろいろなところにコマを置いて、全体を少しずつ底上げしていくという生き方もあるのではないだろうか。そのどちらがいいというわけではないが、自分は色々な可能性を試したいと思い、様々な仕事を続けてきた。

行為を導くデザイン
 ニッカウヰスキーの広告を担当した時、競合メーカーに対抗するために問題なのは広告ではないと考えた。そこで「ピュアモルト」では、商品全体を企画し、インテリアとしてのボトルデザインを考案した。単純に身の回りに置いておきたいボトルとは何かと考えたとき、それはなんでもないボトルであった。それまでは生活空間の中で必要以上にデザインを主張しているものが多かったが、個性を抑え、語らないことによって、いろいろなインテリアになじむのではないかと考えた。ウィスキーが生活の主役なわけではない。ならば、置いておいて心地良い、なんでもないものがいい。
 中身が消費されるパッケージは、役割を終えると捨てられるものとしてデザインされがちだが、ここにも疑問を感じた。そこで、飲んだ後に容器として使えるようにコルク栓をつけた。また何かに使えそうだと感じた瞬間まずラベルを剥がすだろうと考え、剥がしやすい水性のりを使用した。こうしたことをシミュレーションしながら、行為を自然に導くようにデザインしている。

人の持つエネルギー
 「ピュアモルト」の開発時に、テレビコマーシャルはしないほうがいいというプレゼンをした。宣伝には、最低限世の中に告知するだけの媒体を使用し、商品のデザインに少しでもお金をかける。商品に接した人に、なんだろうと思わせさえすれば、その人がそれをほかの人に伝えてくれるだろう。人には、おもしろい情報がインプットされるとそれをアウトプットしたいという欲求がどこかに生まれるからだ。そういった人間の持つポテンシャルにはとても強いエネルギーがあると思う。このような人の持つ自然な能力を利用すれば、大量の広告費を使って世の中に広める必要はないのである。

経験を引き出す 
 次にニッカから51.4度の強いウィスキーのボトルを依頼された。濃いウィスキーはどうあるべきかと考えたとき、「小さな塊」というコンセプトが浮かんだ。チョコレートのように、味の濃いものは小さな塊のほうがおいしそうに見える。このような自分達の日常生活のなかでの経験や体験を引き出しながらデザインを存在させる。
 瓶を「小さな塊」に見せるために、首をできるだけ短くする必要があった。しかし短い首では注ぎにくい。そこで考えたのが日本酒のお猪口と徳利の関係である。こぼれそうなものをこぼれないように注ぐというやり取りには、日本酒の食文化における素晴らしいインタラクションがある。また、人には柔軟な能力があり、使ううちにコツを身につけていくことができる。なんでもかんでも便利にすることが世の中をよくするとは限らない。人がもともと持っている能力をどうやって引き出して機能させるかということも重要なデザインなのである。
 世の中からはパッケージデザイナーと定義されることが多かったが、自分はパッケージのデザインをしているのではなく、中身を届ける時にどうあるべきかという、人と人とのコミュニケーション全体をデザインしていると考えていた。

お菓子にできることは何か
 最初にお菓子のパッケージを依頼された時、お菓子のデザインで何ができるのかと考えた。それまで携わったウィスキーや化粧品などは、少なくともある程度の期間残るものであり、インテリアや雑貨のような要素があった。しかしお菓子は、開けてから5分でゴミ箱へいくようなメディアのデザインである。そこで一体何ができるのか。思いついたのが「ブランド」である。物自体は捨てられていくけれど、人にはそれを見たという記憶が残る。その記憶をどうやって先へとつなげていくかを考えてはどうだろうか。デザインは、残しながら進化させることができると気づいたのである。たとえば、チョコレートの「m&m's」や「Kit Kat」。言われただけで、なんとなく頭に描けるものがあるだろう。これらはずっとマイナーチェンジしながらデザインを残して記憶を次につなげている。それがブランディングにおいて重要なのである。


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2Q&A

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