vol.2 増山士郎 Shiro MASUYAMA

●2011年5月21日(土)~6月25日(土) 
12:00~17:00 日月祝休 入場無料

アーティストトーク 5月21日(土)15時~16時

●助成:野村財団



●迷い犬の流儀  

鈴木勝雄

世界の紛争地帯についての漠然とした知識を持っていても、その緊迫した状況を我が身のこととして想い描くことは難しい。日本と直接関わりのないどこか遠い場所の出来事として聞き流してしまいがちだ。
増山士郎は、現在北アイルランドのベルファストに暮らしている。周知のとおり北アイルランドは、カトリックとプロテスタント、あるいはイギリスからの分離、アイルランド島全島独立を主張する「ナショナリスト」とイギリスとの連合維持を唱える「ユニオニスト」の根深い対立によって分断された紛争地帯のひとつである。
増山は、アーティスト・イン・レジデンスで滞在しているわけではない。フィールドワークの対象として自らすすんでこの地を選択したわけでもない。たまたま、縁あってここでの生活が始まったにすぎないのである。当初は、噴出する暴力に神経が強張り、作品を制作する余裕などなかったはずだ。増山にできたのは、ベルファストを彷徨いながら、街中を走る分断線を知らずに踏み越え、その度に身体を貫く緊張をひとつひとつ覚えこむことだけだった。
二つのコミュニティーの深い溝を目の当たりにすればするほど、増山は自分自身が第三者的立場にあることを強く自覚したことだろう。と同時に、こうした二項対立的に硬直した状況を相対化する視点を提示できるのもまた、第三者の特権であると気づいたのではないか。その時増山は、ベルファストに暮らす異邦人アーティストとしての社会的な役割を引き受ける覚悟を決めたのだ。衝突の現場から距離をとって冷静に観察するアイロニカルな態度を武器に、二項対立的な発想にズレを生み出し、亀裂を入れるという、ほとんど不可能とも思われる賭けに打って出たのである。
北アイルランドのような分断された社会においては、そぞろ歩き自体が、既存の境界線に対する密やかな撹乱行為となりうるだろう。双方のテリトリーを無化することを狙って、不躾な第三のテリトリーを、いわば虫食い状に広げていくこと。それが増山という迷い犬の戦術なのだ。


●増山士郎 ますやま・しろう
1971年東京都生まれ。1997年明治大学理工学部建築学科大学院修士課程修了。2002年よりポーラ、2004年に文化庁、2009年にポロック財団等の助成を受け、海外主要都市のアーティスト・イン・レジデンスに複数参加。2006年から2007年にかけて日本と香港双方向のレジデンスプロジェクトを企画するなど、オーガナイザーとしての活動も多い。近年の主な個展に2010年「Borderlin」(Tenderpixel Gallery、ロンドン)、「Intervention」(市原市水と彫刻の丘美術館、千葉)、「増山士郎作品集2004-2010」(現代美術製作所、東京)など国内外で多数。一貫して社会に介入する様々なプロジェクトを行っている。
http://shiromasuyama.net/

 

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(左)アーティスト難民   第一回所沢ビエンナーレ-引込線、2009 撮影:山本糾
(右)crossing the border  スキポール空港、アムステルダム、2010 撮影:Sinead O'Donnell