吉富ゆい

造形学部視覚伝達デザイン学科 2015年3月卒業 MA Typeface Design、University of Reading 2016年9月入学

昨年の9月に英国レディング大学の書体デザインコースに入学してから早くも3ヶ月以上が経ちました。長いクリスマス休暇もあっという間に終わり、現在は2学期目に突入しています。

レディング大学と書体デザインコースについて

レディング大学は総合大学で美術大学ではありませんが、数多くある学科の中に私の所属しているタイポグラフィ&グラフィックコミュニケーション学科があり、修士課程は書体デザイン、ブックデザイン、情報デザインの3コースに分かれています。書体デザインコースは私を含め全14人で、それぞれが異なる14か国から集まってきており、国際色豊かなクラスです。

授業は講義とセミナー、実技課題(書体デザイン)のフィードバック、ワークショップなどがあり、卒業制作と論文の両方を1年で制作する為、他の学科に比べて過密なスケジュールになっています。
通常授業に加えて個人での研究や資料収集がある為計画性と自主性が求められますが、ワークショップや講義で多方面の技術や知識を吸収すると同時に、個人課題を通じて自身のデザインの方向性を探る、というようにインプット・アウトプットのバランスが良く充実したカリキュラムです。

実技課題(書体デザイン)のフィードバック
実技課題(書体デザイン)のフィードバック

実際にコースが始まって最も印象的だったのは、それぞれの分野の専門家をゲストに招いて行われるワークショップの数々です。カリグラフィーやストーンカッティング(石に文字を彫刻する作業)などのアナログ作業から、デジタル作業に至るまでバラエティに富んだ内容で、週に1つのペースでスケジュールに組み込まれています。様々なツールに触れ、実際に自分の手を動かしながら体験できるワークショプは、書体デザイン・タイポグラフィを異なる視点で捉え直すとても貴重な機会です。

ストーンカッティングのワークショップの授業風景
ストーンカッティングのワークショップの授業風景

また、資料の豊富さも魅力の1つです。学科や大学の図書館が所有する貴重な資料を自由に閲覧することができるのに加え、週に1度学科のコレクションを見ながらのデザイン史の講義があります。これらの機会を通して、図録の中の写真ではなく実物を間近で見ることの重要性、そこから発見・考察できることの多さを実感しています。

卒業制作でもある書体デザインは、1学期最も頭を悩ませた課題の一つです。実際の市場でどのようなデザインが求められているのかというリサーチに加え、既存の書体と差別化を図るため「個性」を持ったデザインをする事が求められます。自分にしかできない個性的なデザインを探っていく作業は、奇抜なことに挑戦するよりもルールに従い安全な道を選ぶことの多かった私にとって、これまでの自分のやり方を大きく変える必要があり、とても勇気のいるものでした。悩んでいた時期にとても大きな助けとなったのがクラスメイト達との意見交換です。様々な国から集まり、全く異なるバックグラウンドを持つ彼らからのアドバイスは発想や問題の捉え方も様々で良い刺激になり、時には彼らの悩みを聞く事で自分の課題を違った方向から考え直すこともできました。こういった経験は、国際色豊かなクラスで学んでいるからこそ体験できるものだと感じています。

レディングの街と大学外の生活について

レディングはロンドンから電車で30分ほどの所にある小さな街で、大学周辺は静かな住宅地で自然も多く、キャンパス内ではリスやウサギなど野生の動物たちも多く見かけます。
私はキャンパスの直ぐ隣の寮に住んでいますが、そこからレディングの駅がある街の中心まではバスで約20分とそれ程遠くなく、どことなく武蔵美周辺の雰囲気に似たものを感じ、とても過ごし易い環境です。
寮でキッチンを共用している学生達は皆違った分野について学んでいるため、一緒に食事をしながらそれぞれの専攻などについて話す時間は、クラスメイト達と過ごしている時とは違った楽しさを感じられる時間です。

12月中旬から始まったクリスマス休暇は、ほとんどのクラスメイトが帰省してしまった為、一人寂しく過ごすことになるのではと不安もありました。ですが、寮にはレディングに残っていた友人も数人おり、一緒にクリスマスマーケットを訪れたり料理をしたりと、彼らとの親睦を深めるとても良い機会になりました。
レディングのクリスマスはロンドンなどの大きな街に比べると小規模ではありますが、街中は家族連れで賑わい、ツリーやイルミネーションも多く見かけました。クリスマスイヴの夜は近くの教会のミサに参加し、夜中にもかかわらずほぼ満員の教会に驚きつつも日本とは違った年末の雰囲気を楽しむことができました。
大晦日には、実家から戻ってきたクラスメイト達と、それぞれの国の料理を持ち寄った年越しパーティーで賑やかに新年を迎え、予想以上に充実した楽しい休暇となりました。

これから

今学期はこれまでの課題に加え、ノンラテンと呼ばれるラテンアルファベット以外の別の言語に使われる文字のデザインや、卒業論文などの課題が待ち受けています。
それらのほとんどが初挑戦のもので不安と期待が入り混じっていますが、残りの留学生活も充実したものにできるよう、興味を持った事には躊躇わず進んで挑戦していきたいと思っています。