平成30年度 武蔵野美術大学入学式典

日時 2018年4月4日(水)9:00開場予定 10:00開式
場所 武蔵野美術大学 体育館アリーナ
詳細

式次第

  • 開式の辞
  • 校歌斉唱
  • 学長式辞 学長 長澤忠徳
  • 理事長祝辞 理事長 天坊昭彦
  • 教員祝辞 教授 津村耕佑
  • 卒業生代表祝辞 横山裕一
  • 学生パフォーマンス
  • 閉式の辞

会場風景

式典スタッフ

監修 牧野良三(通信教育課程教授)
照明 杉本孝夫(通信教育課程講師)
音響 瀬谷正夫/秀島正一(株式会社エス・シー・アライアンス)
映像配信 渡辺真太郎(デザイン情報学科講師)
パフォーマンス(学生) Modern Jazz Society
ラテン音楽研究会
モノクロウィンドアンサンブル
彩−sai−
校歌斉唱(学生) MAUコーラス
装置制作(学生) 浅野明子/北村彩子/長塚信之/平戸淳正/三谷佐紀/安達真琴/田野倉由佳/長谷川葉平/武田薫子/田中光
司会 澤野誠人(学生支援グループキャリアチームリーダー)
協力 白石学(デザイン情報学科教授)
連絡・調整 大蔵沙也/秋山千穂(通信教育課程助手)
美術・デザイン 愛甲佳世(総合美術研究所)
リーフレットデザイン 平野昌太郎(基礎デザイン学科講師)

学長式辞

写真:長澤忠徳

武蔵野美術大学学長
長澤忠徳

1,224名の入学生の皆さん、ご入学おめでとうございます。また、ご臨席の保護者の皆さまのお慶びも、ひとしおかと存じます。おめでとうございます。

本年度は、海外からの180名の留学生の皆さんが、数ある日本の美術系大学の中から本学を選び、難関を突破して入学してくださいました。私たちは、このことを、とても嬉しく思っています。

武蔵野美術大学は、皆さんのご入学を心から歓迎し、私たち教職員も、胸躍る嬉しさいっぱいで、今日の日を迎えています。
今日から、ここ、武蔵野美術大学が、皆さんの母校になります。

武蔵野美術大学(ムサビ)は、その前身となる1929年の帝国美術学校創立以来、「教養を有する美術家養成」を理念とし、「真に人間的自由に達するような美術教育」を掲げた建学の精神を守り、我が国を代表する私立の美術系総合大学として、国内はもとより、世界で活躍する数多く卒業生を輩出してきていることは、みなさんもご存知のことと思います。

また、創立当初より、世界に眼差しを開き、積極的かつ先駆的に国際化に取り組んで来た本学は、2012年、美術系大学では初めて文部科学省のグローバル人材育成を推進する大学として採択され、語学教育はもとより、多彩な専門教育プログラムを精力的に国際展開して大きな成果を挙げてきています。

今日入学された皆さんが活躍される未来社会は、グローバル社会です。世界という視座と、日本という視座と知見をあわせ持ち、日本の美大では最大規模の7万人近い会員数を誇る校友会の先輩がそうであったように、皆さんも、この伝統ある「世界のムサビ」の学生であることを自覚して、大いに学んでください。

いまや、武蔵野美術大学は、日本の一私立美術大学としての存在を超えて、我が国の文化、芸術、クリエイティブ産業を支え、リードし、ますます広がるグローバルな世界で活躍する人材育成を使命として担っているのです。

さて、「あの水平線の上に立てるか…」と題する私が贈ったメッセージを、本学のwebサイトでご覧になった諸君もおられるかと思います。40数年前、私が本学を志願し、入学以来、今日まで持ち続けている、自分への大切なメッセージでもあります。もう一度、このメッセージを皆さんに贈りたいと思います。

「あの遥か彼方に見える水平線の上に立つ」ことを信じて、凪いでいても大嵐でも、私は、もう45年間も、大海原を水平線に向かって漕ぎ続けているのです。「水平線の上に立つ」ことができるかどうか、私にもまだわかりません。でも、ひたすら「いつかきっと水平線に立てる」と信じているのです。常識や理屈を超えて、「わからないことを、わかろうとする」ことに挑むことと同様に、信じることが、自分を励まし、奮い立たせてくれるのです。私は、「クリエイティブ、創造的である」ということは、そういうことだと思っています。

クリエイティブであるためには、それに挑む強い「意志」が必要です。この「意志」という言葉の「意」という文字は、「音」と「心」という部分で成り立っています。つまり、胸に秘めた熱い思いというのは、自分にしか聴こえない「心の音」のことなのです。それが、みなさんそれぞれの「個性」なのだと思います。

そして、「表現」とは、そんな自分の「心の音」に耳を傾け、その「心の音」を自分の身体(からだ)の外に出すことではないかと思うのです。

あなたが、これまで感じ、受け止め、経験して来た「何か」が鳴らす「心の音」を、どのように聴き、どうやって自分の外に表出するかについては、あなた自身で一生懸命に悩み、考え、工夫して、実現しなければなりません。「表現」つまり「心の音」を表出する行為とは、正解のない世界、むしろ、あなた自身が、自ら信じる正解を生み出す世界なのです。

入学早々、厳しい話に聞こえるかもしれません。けれど、美術やデザインという「表現」の世界に進んだ勇気ある皆さんは、すでに、その第一歩を踏み出しているのです。だから、今日、ここに居るのです。そして、私たちの思いも同じです。皆さんのひたむきな創造へのチャレンジを、私たち教職員は、武蔵野美術大学は、寛容さと勇気をもって、しっかり支えて行く覚悟です。

本日入学された皆さんが活躍されるこれからの時代は、我が国も世界も、文明潮流の大きな変革の中にありますが、現状に安住しているだけでは、積み上げてきた伝統を守り、継承していくことも難しいでしょう。過去と今を起点に予想して未来を描く、従来からの「フォアキャスティング」の思考法だけでは、次代を拓くことはできません。実現すべき「未来」に起点を置き、そこから逆に現在を振り返って、今どうあるべきかを構想する「バックキャスティング」というもうひとつの発想法が、とても重要になって来ていると思います。

皆さんの在学中、元号が変わる来年度、2019年度に、本学は創立90周年を迎えます。我が国で最初に「造形学部」を創設し、美術・デザイン教育を常にリードして新しい教育の端緒を拓き、次世代に活躍する人材を輩出してきた本学の伝統ある「造形学部」、「大学院造形研究科」に加え、新たに、「造形構想学部」と「大学院造形構想研究科」が誕生します。

都心・市ヶ谷の地に新たなキャンパスも整備し、鷹の台キャンパスとの連携によって、従来の発想法に「バックキャスティング思考」を加え、双方向から現在と過去を重ね合わせ、皆さんと一緒になって、望ましき未来社会実現へと世界をリードしていくことが私たち武蔵野美術大学の願いです。

また、2020年には、東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。11万人のボランティアが活躍するといわれています。文化・芸術の分野も活況を呈することとなりますので、皆さんの大学生活は、多彩なチャンスに巡り合う絶好の時間となるはずです。

さあ、今日から、ムサビでの大学生活が始まりました。時に、辛いこともあるかもしれませんが、辛さの何倍も何十倍も、きっと、きっと、楽しく胸躍る「はつらつとした青春の日々」となることと信じています。

最後に、もう一度、今日、この日からムサビ生となった皆さんに、心からの祝福を贈ります。
武蔵野美術大学、入学、おめでとう!

理事長祝辞

写真:天坊昭彦

学校法人武蔵野美術大学理事長
天坊昭彦

ご紹介頂きました理事長の天坊です。
新入生の皆さん、武蔵野美術大学へ入学おめでとう。
皆さんの入学を心から歓迎します。
また、ご列席のご家族の皆様、本日は誠におめでとうございます。ご家族の皆様にとっても、お喜びもひとしおのことと思います。

晴れて武蔵野美術大学へ入学された新入生の皆さんは、これから美術に関する知識を深め、技術を磨き、腕を上げようと考えていると思います。しかし、ムサビでは同時にもう一つ大事なことを学ぶことになるという事をご存知ですか?
それは創作活動を通して、技術力を磨くと同時に考える力を鍛え、コミュニケーション能力を高めるということです。
創作をするためには、先ずモノづくりを始める前に、自分の想い、自分が訴えたいことは何か、何をもってそれを表現するのか、どういう形にするのか等について、自分の考えを整理する必要があります。そして、それを同僚や先生に発表し、議論し、批判や指導を仰ぎ、さらにまた考えを尽くす。その上で作品を作り、その作品を見る人に考えが伝わっているか、先生たちの批判を踏まえ自分の考えを伝え、さらにいい作品に仕上げていくというやり方で、モノづくり教育を4年間繰り返し何度も何度も経験することになります。これはすごいことなのです。この教育の本質は、考える力をつけ、対話や説得する力、即ちコミュニケーション能力を高める教育だからなのです。

ムサビは美大なので、モノづくりの面だけが注目されていたのだと思いますが、万人にとって必要なコミュニケーション能力を鍛える教育はもっと注目されて然るべき視点だと思います。
世の中で今求められている人材というのは、コミュニケーション能力の高い人材です。もちろん、企業や社会の組織に入り、力を発揮していくためには、そこで必要な専門的な知識を身につけなければなりませんが、自分の考えを持ち、周囲の人と対話をして、意見を集約していく力はそう簡単に身につくものではありません。特別な専門領域は別として、ムサビの卒業生が企業や社会の組織に入っても、他大学を卒業した文系あるいは理系の人に比べて、基礎的な能力としては考える力とコミュニケーション能力を鍛えてきたムサビの卒業生に充分優位性があると思います。そういう意味では企業経営者としての私の経験から、ムサビは今、社会が求めている人材の宝庫のように思えます。

21世紀に入り、今や世界も日本もいろんな意味で従来のシステムがそのままではうまくいかなくなってきており、あらゆる分野で大きな改革(イノベーション)が必要になってきています。行き詰った社会のイノベーションにヒントを与える先進性は、芸術にあると言われています。そして、イノベーションには知恵と創造力が必要です。だからこそ、今のような時代には、芸術を学び、美や文化を追求してみることが必要なのではないでしょうか。ということは、言い換えれば、いまや社会のいろんな分野で美術系の人材が必要とされているのです。

私は今ここで、美術を志してムサビに入学した皆さんに、企業に就職しろというつもりでこの話をしているわけではありません。この大学で美術を学ぶということは、同時にコミュニケーション能力を高める教育を4年間も学ぶということになります。だから結果として、社会がいま求めている立派な人材になれるのだ、といことを新入生の皆さんだけでなく、ご家族の皆様にも是非知っておいて頂きたいと思って、紹介させて頂きました。

要は、新入生の皆さんがこれからムサビで一所懸命勉強すれば、皆さんの将来にはいろんなチャンスがある、ということです。

結びにあたり、新入生の皆さんにこれから是非心がけてもらいたいと思うことを一つ言っておきます。
永い人生の中で、これから始まる大学4年間の学生生活は、あとで振り返ってみれば、あっという間の短い期間です。できるだけ多くの教養を身につけるべく積極的に勉強し、一方ではいろんな経験も積めるように、健康に留意し是非とも時間を大切に使って欲しいということをお願いし、私の祝辞とします。
ご清聴ありがとうございました。

教員祝辞

写真:津村耕佑

武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授
津村耕佑

新入生の皆さんご入学おめでとうございます。並びにご父兄の皆様おめでとうございます。
只今ご紹介にあずかりました、空間演出デザイン学科研究室の津村です。
誠に僭越ではございますが教員を代表してお祝いの言葉をのべさせていただきます。

皆さんは武蔵野美術大学に入学し今この会場にいてきっとワクワクしていると思います。
それと同時に少し不安かもしれません。
ところが、 このワクワク、 ドキドキが何日位続くのか? 4年間か、それとも1時間後には消えてしまうのか、 皆さんが高校3年生の時期を振り返って見てください。
下級生の天真爛漫な姿を見て、私達年取ったよね!なんて言い合っていたのではないでしょうか。ところが、今は武蔵野美術大学の1年生、再び天真爛漫な時がやってきたのです。環境が変わると新鮮な気分になるという事をまさに今、 体験中という事です。

では、このワクワクが、時の経過と共にすり減る事なく長く続かせるにはどうしたら良いでしょうか、入学祝いに特別に一つ教えます。
それは、他人をワクワクさせる事です。自分が感動した時、その気持ちを他人にも分かって欲しいと思うのではないでしょうか。そして、それを聞いた人も同じように感動する筈です。
お互いにワクワクを交換し会っていれば永遠に楽しい筈ですよね。

ところが、 自分の思いが伝わらない事もあります。原因の一つとしてその時の臨場感が薄まってしまうという問題です。
皆さんは料理を美味しくするには薬味が大切だという事は知っていると思います。
薬味自体は決して美味しいものではありません。むしろ苦くて不味いものだったりします。
しかし、その薬味が臨場感を呼び起こすのです。

今、皆さんが感じているワクワクと少しだけの不安、その不安が薬味に使えるという事です。悲しい事や辛い事、 怖い経験に潜んでいる、あの嫌な感じが実は感動のエッセンスなのです。それなら逃げる事はありません。むしろ不安ハンターです。リスクを冒して感動を届ける冒険家の心構え、それは芸術家もデザイナーも同じです。クリエーションとはそういう事だと思います。現代は便利なツールが普及し、そして学びも合理的に進化してきました。しかし、様々な事が同質化し、違いが生まれにくくなってもいます。私は、むしろ無駄に思える経験にこそヒントがあると思っています。未来という不確実な出来事にフィットしていくには柔軟性や遊びが必要なのです。
その為に多様な視点をもち、多くの偶然に出会い、ワクワク、ドキドキする4年間を送って下さい。

本日は誠におめでとうございました。

卒業生代表祝辞

写真:横山裕一

卒業生代表
横山裕一

油絵学科卒業

皆様、合格おめでとうございます。
横山といいます、28年前油絵学科を卒業しました。現在漫画家をしています。
久しぶりにこの体育館に入り昔を思い出しています。

今日は4分間頂いています。
おしゃべりは苦手ですが、思い出話と激励を4分話します。僕は卒業した時まだ漫画でなく普通に絵をかいてました。その時3つの目標がありました。
一つ目は最高の、ものすごい絵を描くことです。
二つ目は作品で金を稼ぐことです。
三つ目は作品を五百年のこす事。
という3つでした。

その一つ目の目標であるすごい絵というのはどういう絵かというと、これが発表されたら誰も私をほおっておけないような衝撃的な作品のことです。
世界中のあらゆる機関が私に頭を下げ、スカウトされ、社会的地位と栄光が約束される、と本気で予想しました。
で、そんな作品はさほどの年月かからずに出来そうだから、それが完成してから初めて世間に発表すればよかろうと計画しました。

でも実際にはいくら描いても五百年残す衝撃的な作品はできませんでした。卒業から7年くらいそうしていて、やがて追い詰められた私は絵画から敗退しました。それで漫画を描くようになり今日に至ります。
五百年ではないけど、五百人程度読者がいるらしいことが出版社からの報告から推定されます。あとから考えて、ものすごいものができるのを待たないでつまらない絵でも早くから全部世間に見せたほうが良かったといま思っています。
みなさんも作ったものを隠さないでどんどん人に見せてください。見せることは作るのと同じくらい大事です。このコンクールに来月出そう、とかいうようなもっと下世話な小さな目標を目指すべきだったとも思います。皆さんは五百年とか、全世界とか、非現実的に壮大な目標設定はやめましょう。

武蔵美の学生は良くも悪くも真面目で大人しい傾向があるのですが、できるだけ強いエゴを発揮して図々しくふるまって下さい。美術は運が大きく影響する環境だと思います。

運をつかむコツはですね、とにかくしゃべるときの声を大きくしましょう。小さな声だと運が逃げちゃいます。それと不吉なセリフを言わないようにしましょう。つまりどちらも言葉遣いで幸運をつかむことになります。

本当でしょうか。

それからみなさん、作ったものは捨てないでとっておいて下さい。私は若いときに描いたけど今は現存しない、とある絵を未だに残念に思い出しています。
工事現場を描いた、それはもう今から思うとすばらしい絵画でしたけど、五百年は残らないと思ったのか、画材を買う金がなくてその絵の上からぬりつぶして別の絵を描いてしまいました。皆さんはこういうことをしてはいけません。

今日皆さんに見せるためにもってきました。これが唯一残っているその絵の写真です(普通サイズの写真をかざす)。見えますか?

見えないかもしれないですね。

小平のアパートにいた時に窓から見える景色をペンキで描いたものでした。この写真を見ながらのちに何枚も書き直しましたが、二度と同じように描けませんでした。
あたりまえです。描けるはずがない。だから皆さんも作品は残らず全て保存してください。
実は一番本当のことをいいますけど、絵画の人もデザインの人もみなさん全員漫画をかいたほうがいいです。できればそちらを目指して頂きたい。特に日本人は漫画なら簡単に世界一になれます。
沖縄に住む、僕の熱狂的な読者が那覇市の大きな書店で店員をしているそうです。ある時店長を説得して、僕の漫画を3ヶ月間目立つ場所に並べたブックフェアをしたそうです。しかし明るい南国にそうした異様な文化は必要ないようで、それらの本はブックフェアが終了するまでの3ヶ月間で1冊も売れずに終わった、と報告がありました。
つまり僕はこの分野の商業的成功者とはいえないんですが、それでもなぜかこの沖縄の話は僕の自慢です。これを思い出すと明るい気持ちになります。つまり芸術には、商業的成功よりも大きな何かが存在するわけです。

4分経つのでこれでおわります。皆さんはすごい人になって世間を驚かして下さい。またどこかで会いましょう、御静聴有難うございます。