石川真奎Ishikawa Masaki

作品写真:中へ出て外に入る
作品写真:中へ出て外に入る
作品写真:中へ出て外に入る
作品写真:中へ出て外に入る

中へ出て外に入るGo out into the inside, come in outside

インスタレーション|油絵具、ジュート繊維、鉄パイプ、金網フェンス、石、麻紐、糸Installation art | Oil paint, juto, metal pipe, wire mesh fence, pebble, linen string, sewing thread

向こう側の世界はとても綺麗です。それは私が見ることでしかそちらを認識できないからですか?
こちら側の世界は少し物足りなくてあっけらかんとしています。それは私の身体がこの場に実在しているからですか?
そちらに行ったらきっと私は後悔するでしょう。振り返って、こちら側を綺麗だと感じるでしょうね。
向こうもこちらもあんまり変わらないのに、なんて私は視覚に振り回されているんでしょうか。

石川真奎

無骨な単管パイプで仕切られた空間を主に構成するのは、モダニズム絵画の常套句と言っていいストライプと色面である。しかしその空間がここまで鑑賞者を混乱させるのは、荒い麻布やそこに擦り付けられたような絵具の異様な物質感だけでなく、つくりながら壊すような倒錯した制作方法によるのだろう。
以前、政治的な問題を直接扱うコンセプチュアルな作品を模索していた作者がつくり出した物質と色彩によるアナーキーな空間、それを読み解くキーになるのは「半透明」という概念である。不完全に仕切られ閉じながら開くような空間、メッシュの麻布の裏に溢れ出した濃厚な絵具など、それらが指し示すのは合理性や言葉に回収されない「半透明」という野性である。ストライプや色面などのモダニズム絵画のエレメントが解体され、「見える/見えない」「内と外」と言った対立要素がエラーや矛盾を呼び込むようにして、血が滴るような呪術的な場をつくり出した。

油絵学科教授 袴田京太朗

合田陸Goda Riku

作品写真:The Runner
作品写真:The Runner
作品写真:The Runner
作品写真:The Runner
作品写真:The Runner
作品写真:The Runner
作品写真:The Runner

The Runner

コマ撮りアニメーション|段ボール、針金Stop motion animation | Cardboard, wireH285 × W855 × D370mm H150 × W490 × D500mm H190 × W705 × D330mm H288 × W845 × D503mm H305 × W327 × D292mm H96 × W330 × D367mm

映像Video | 4min 30sec4分30秒

ダンボールで作った模型を使ったコマ撮り映像作品です。物語や設定は古いSF映画などを元に考えました。映画を見ていて「逃げる」というストーリーは単純だけれど面白いと考えていて、それがアイデアの起点になりました。

合田陸

アニメーション作品において、模型にこれほど手をかけ、作り込んだ作品を観た事がないのは、私がその分野に疎いからだろうか。素材はダンボールや針金くらいだろうと思われるが、彩色されたそれらは実にいい味となって、何種類ものトタンや外装材へと変化している。いくつかある建物も日頃の観察と想像力によるのだろう、妙な懐かしさを感じる模型建造物であり、映像に映らないかもしれない細部にいたるまで、それらは妥協がなく、ものを作る喜びに溢れているように感じる。
物語は当たり障りのない近未来活劇だが、そのアングルの多様さやコマ撮りによって繰り広げられるロボット同士の戦いは臨場感や緊迫感があり、背景となる模型の見事さも手伝って、映された世界に見るものを引き込んでいく。人間がいなくなった想像の世界だが、人間の面白さや愛おしさを充分に感じる作品となっている。

油絵学科教授 水上泰財

田岡智美Taoka Tomomi

作品写真:Coodineito_1など
作品写真:Coodineito_1など

Coodineito_1

厚口綿布、膠、油絵具、オイルパステルThick-walled cotton cloth, glue, oil paint, oil pastelH1620 × W1300mm

Coodineito_2

パネル、膠、寒冷紗、白亜、油絵具、オイルパステル、炭酸カルシウム、ジェルメディウムPanel, glue, cheesecloth, chalk, oil paint, oil pastel, calcium carbonate, gel mediumH1818 × W2273mm

Coodineito_3

パネル、ペンキ、油絵具、オイルパステルPanel, paint, oil paint, oil pastelH1820 × W910mm

Coode_1

発泡スチロール、ポリエステル樹脂、油粘土、アクリル絵具、石膏Styrofoam, polyester resin, oil clay, acrylic paint, plasterH1200 × W200 × D200mm

Coode_2

発泡スチロール、ポリエステル樹脂、油粘土、アクリル絵具、石膏、テープ、ビニールチューブStyrofoam, polyester resin, oil clay, acrylic paint, plaster, tape, vinyl tubeH400 × W600 × D300mm

Coode_3

発泡スチロール、ポリエステル樹脂、油粘土、アクリル絵具、石膏、テープ、ビニールチューブ、金網Styrofoam, polyester resin, oil clay, acrylic paint, plaster, tape, vinyl tubeH1100 × W400 × D400mm

Coode_4

発泡スチロール、ポリエステル樹脂、油粘土、アクリル絵具、木材Styrofoam, polyester resin, oil clay, acrylic paint, woodH400 × W300 × D300mm

色々な服を着るのは楽しい。
気になった服を選び、とりあえず着てみる。
着てみた新しい服に合わせてまた別の新しい服を着てみたり、自分が今まで持っている服に合わせて着たり。もしくは全然着もしない服をあえて選んで着てみたり。
そして、いつどこでそれらの服を着るのか考える。
そうして色々なモノとモノが結び付いてが別のモノが生まれる気がする。

田岡智美

「物語を描きたい」と一見ざっくりと大雑把に制作されたかのように思えてしまう絵画と彫刻作品だが、その作品群をゆっくりみていくと、その印象は少しずつ変わっていく。支持体のサイズに比べると異様に幅の広いストロークや即興的に引かれたかのようでいて、その実、不自然に均一な筆圧を感じさせる線はどのような方法で引かれたのか興味をそそる。また発泡スチロールを使った立体作品に於いても、その表面を白く塗り、微妙に素材の質感を変えてみせる。それらの仕掛けは、描かれた形や質を巧みに裏切りながら不思議なリズムを作品全体に奏でている。
彼女はストリートファッションに興味を持ち、そのロジックを美術制作に取り入れているようである。高価な素材や有名ブランド品の仕立ての良さではなく、チープさを装いながら、意外な質の組み合わせや色彩の配置やグラデーションを楽しみ、自身が洋服を着るように絵画や彫刻をコーディネイトして行く。それは絵画や彫刻を美術の世界から外へ連れだそうとしているかのようである。

油絵学科教授 丸山直文

中島由加里Nakashima Yukari

作品写真:あなたをつかまえる方法

あなたをつかまえる方法How to fascinate

キャンバス、油絵具Canvas, oil paintH1620 × W1303mm ×4点

Temptation

キャンバス、油絵具Canvas, oil paintH1167 × W1167mm

果実は遠くの方にいる鳥に食べられるために赤くなるという話を聞いて描きました。

中島由加里

絵画はイリュージョンであり物質である。形があり色があり質がある。抽象性と具象性を併せ持つ。そのような絵画の属性を自然に際立たせ、素直に感じさせることは簡単ではないが、中島の絵画はそれらを見事なバランスで見せてくれる。具体的な物の存在が見えてくると思ったら、純粋に形や線や色が見えてくる。画面を耕すように描いた好ましい絵の具の表情が感じられるとともに絵画的な空間が現れる。モチーフは果物、穀物、植物と様々だ。それらは絵の中で触られ、切られ、ちぎられ、温められ、料理され、芳醇な味と香りを発している。見る者の感覚はリズミカルに発動し、心の真ん中がゆっくりと温かくなってゆく。そして熟れた果実のような絵画をたっぷりと味わうのである。それはとても幸福な時間である。

油絵学科教授 樺山祐和

新野伽留那Niino Karuna

作品写真:あなたはミー わたしはユー
作品写真:あなたはミー わたしはユー

あなたはミー わたしはユーYou are Me, I am You

インスタレーション|綿布、アクリルインクInstallation art | Cotton, acrylic inkH2000 × W5400mm H700 × W1200mm H1200 × W2000mm

「絵の絵を描く」ということが文字の思考としてずっと頭の中にある気がします。今回は、それに加えて絵の表面、表と裏、ということについて考えていました。やり方は、きっと一つではないはずだから、これからも頑張ってやっていこうと思います。

新野伽留那

《あなたはミー わたしはユー》は3つの作品で構成されており、鑑賞者の主体の位置を「折り返す」ことによって問うことに成功している。1つめは展示空間をふたつに分断する巨大な布に描かれた絵。その布には切り込みがあり、同時に絵の中も分断する。鑑賞者の位置を表から裏、裏から表へと鑑賞者の身体を伴いながらイメージを折り返す。2つめの作品は窓を覆うように展示されており、絵は自然光と室内照明の2つの光源によって浮かびあがる。3つめは床に置いた皺だらけの布に、皺の形状を利用しながら何かが描かれている。皺の裏側には鑑賞者は入り込むことはできないが、そこにもこの絵を鑑賞するための空間が在ることを示している。

油絵学科准教授 小林耕平

塗師瑛Nushi Akira

作品写真:夏の夜/一家団欒
作品写真:夏の夜/一家団欒

夏の夜Summer night

油絵具、キャンバスOil paint, canvasH1940 × W1303mm

一家団欒Family gathering

油絵具、キャンバスOil paint, canvasH1940 × W2590mm

2年前、僕は精神を病んでいた。
不安感や強迫観念から食事を制限していた。
体重は大学入学時から大きく落ちてしまい医者からも危険信号を出された。
この当時、家族にも大変迷惑をかけてしまった。
全員で一家団欒をとることを頭では望んでいた。
しかし心ではできなかった。
一家団欒は当時の自分にとって願いだったのである。

塗師瑛

素朴なちぎり絵のようだが、本作は堅牢な油彩画だ。作者はマスキングテープを一定の幅でちぎり、この大きな画面を完全に埋め尽くした後、ひとつひとつテープを剥がしながら、キャンバスへの窓のように開けられた隙間に、熟考の末の一手として絵の具を置いていく。
並外れた仕事量と集中を強いる作業を積み重ねて、画面は色彩の鮮度を保ちつつ、モザイク画や点描画のような視覚的混色を可能にした。しかし本作で扱われているものは、視覚効果の実験にとどまらない。
日本の典型を示す風景となった核家族の食卓だが、ここには団欒には程遠い、不穏な緊張感が満ちている。右下に座る作者はこのとき精神的な危機にあった。創作への不安がその根源だったが、そこから彼を救済したものは、自己分析の果てに編み出したオリジナルの画法と、そしてそれを駆使して描き切り、乗り越えたという体験ではなかったか。

油絵学科教授 諏訪敦

樋口舞Higuchi Mai

作品写真:インタースペース−捻出された間隔−
作品写真:インタースペース−捻出された間隔−
作品写真:インタースペース−捻出された間隔−
作品写真:インタースペース−捻出された間隔−

インタースペース
−捻出された間隔−Interspace

インスタレーション、パフォーマンス|ミクストメディアInstallation art, performance art | Mixed media

今を過去に近づけることは出来るのか。
型どりしたレコードはオリジナルとは逆に回転する。針も内側から外側へと動く。平面的な家具は舞台のように擬似的な空間を作り出す。
60年代の熱気が戻ることはないが異なる世界線を生み出すことは出来る。

樋口舞

樋口さんは1960年代の音楽や風俗の持つ明るさに惹かれてそこに取材し、絵画作品や立体作品を作ってきた。卒業制作では部屋一つにそのテーマを丸ごと取り込んだインスタレーションを制作した。
玄関のようなスペースには小窓がくりぬいてあり、奥の部屋の様子が覗ける。ここでは一枚の静止画として60年代を覗き見る仕掛けになっている。その奥の部屋は舞台の書き割りのような60年代のモダンなリビングとなっていて、彼女はそこで時代物の二つのレコードプレーヤーに60年代当時のビートルズの曲をかけるパフォーマンスを行っている。一つのプレイヤーからは正しい音楽、もう一つからは樋口さんがレコードから型取りしたシリコン製のコピー盤の逆回転音が流される。それらは雑音の絡まった様な不思議な音となって会場に響き渡り、新たな仮想空間を構成する。樋口さんが、彼女の大好きな60年代という過去の時代を取材することによって生まれた不思議な空間だ。

油絵学科教授 赤塚祐二

平子暖Hirako Dan

作品写真:でかい
作品写真:でかい
作品写真:スカート

でかいBig

キャンバス、油絵具、鉛筆Canvas, oil paint, pencilH1818 × W2273mm

でかいBig

キャンバス、油絵具Canvas, oil paintH1818 × W2273mm

スカートSkirt

キャンバス、油絵具、鉛筆Canvas, oil paint, pencilH1350 × W3340mm

今、自分は何をしている?
本当にやりたいことは何なのか?
今目に見えているものは真実か?
何がどう見えている?
これは一体何なのか?
無限に続く押し問答。
曖昧で不確かな感覚世界。
相対化させていく出来事の中で、
絶対的な実感を抉り出す。

そいつを確かに自覚して、
高らかに心躍らせて、
強固な興奮を覚えたのなら、
圧倒的な存在感を以ってして、
感覚の声を聴きながら、
徹頭徹尾奔放に、
傲慢とさえ言える程までに、
囲まれた矩形の中で、
暴れ倒すだけ。

平子暖

平子暖が描く、風景をもとにしたペインティングはどれも抽象的で、画面下方の地平線によってかろうじて風景だと感じられる。画面のほとんどを占める空は、覆いかぶさるようにじんわりと大地に迫ってきて、静けさの中にとてつもなく大きな力を感じる。
当初、平子は本やネットで集めた風景をもとに制作していた。しかしその方法では何かが欠如していると感じ、実際に現場でドローイングをするようになった。それは単に見た風景の再現ではなく、現場での実感を絵に定着させたいという思いからだった。
瑞々しさを感じるドローイングに対して、それをもとにアトリエで制作するペインティングは、形の捉え方がやや観念的で強引な印象は否めない。しかし、形を抽象化し画面をシンプルにすることで、筆触による画面の密度が際立ち、平子独自の表現になろうとしてもいる。両者のバランスをどう解決していくのかが今後の課題だと思うが、小さくまとめるのではなく、平子の絵に内在する静謐さと力強さをさらに磨きあげてほしい。

油絵学科教授 小林孝亘