武蔵野美術大学入学式典

本年は新入生全体での式典がやむなく中止となり、4月11日(月)10時より学科ごとに入学式が行われました。

冒頭、学内放送において、今回の東日本大震災で犠牲となられた方々に哀悼の意を表し、1分間の黙祷が捧げられ、続いて高井邦彦理事長、甲田洋二学長より、新入生に対しそれぞれメッセージが贈られました。

理事長挨拶

学校法人武蔵野美術大学理事長 高井邦彦

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。そして、ご家族の皆様にも、心からお祝い申し上げます。また、このたびの東日本大震災と原発事故から早くも一ヶ月が経ちましたが、今お話している皆さんの中にもこの災害に遭遇された方もおられるかと思います。心からお見舞い申し上げます。この気持ちを込めて、皆さんの安全を最優先に考えた結果が、このような形での入学式になりました。大変残念ですが、どうぞご理解ください。

今度の大震災では、多くの大切な命が失われ、美しい東日本の自然も根こそぎ破壊されるという不幸に見舞われました。原発による災害も、まだ深刻かと思われます。こうした状況の中で「美術とは何か」、そしてまた「美術の果たす役割とは何か」を考え、話し合うことは、容易ではありませんが、重要です。美術こそ、人間の存在に関わる大切な課題だからです。これから、いよいよ始まる大学生活を十分に活用して、先生方、また学友とともに、存分に語り合ってください。

わが大学建学の精神は、「教養を有する美術家の養成」と「真に人間的自由に達するような美術教育」です。単なる美術家を養成する大学ではなく、十分な教養を有し、真に人間性溢れる美術人を育てる教育を目指してきました。皆さん、ムサビ生となった今、「美術で何ができるか」はもとより、「人間として何ができるか」を課題として、正面から取り組んで欲しいと思います。

さらに、わが国を取り巻く、世界の激しい動きにも注目しなければなりません。これまでの日本を含む米欧の先進国を核とした世界に代わり、中国を筆頭に韓国・インド・ブラジルなどアジア・中南米の国々が、政治・経済両面にわたり存在感を高めています。

こうした状況下、われわれは力を合わせて、一日も早い復活・再生に向けてしっかりと立ち上がらねばなりません。世界の多くの国々も、大きな関心と期待をもって見守っています。

最後にわが大学にとって、嬉しいことを一つ、昨年5月の新図書館のオープンに引き続き、旧美術館の改修改装工事を行ってきましたが、予定どおり工事を終了し、この6月には新しい美術館・図書館となって正式に誕生します。皆さんの美術館・図書館です。存分に利用してください。以上をもって、お祝いの言葉といたします。

学長挨拶

武蔵野美術大学学長 甲田洋二

平成23年度入学の皆さん、入学おめでとう!

武蔵野美術大学全教職員は在学生一同と共に皆さんの入学を心から歓迎致します。ご参加出来ぬ御父兄・御家族のお喜びもひとしおと拝察致します。そして被災地からの新入生の皆さん、諸々の苦難を乗り越えて、本日ここで入学を迎えたことに特別な思いを禁じえません。御家族のお子様に対する思いの深さに心震えます。

3月11日の東日本大震災及び東京電力福島原発事故による影響を配慮し学事を変更し、本日の入学式が学科別、分散方式になったことは、苦渋の決断とはいえ皆さんに対して申し訳なく思っております。何よりも皆さんの身の安全と、これから展開する本学の授業がスムースに受講出来るようにするべき事が第一と考えたためと理解してください。

本日造形学部、大学院修士課程、大学院博士後期課程、留学生の合計1,190名の新入生を迎えることが出来ましたのは、本学の大きな喜びであります。本学の入試は一般試験、センター試験、公募制推薦など多様な入学試験を行っております。少子化とまだ先行き不透明な社会状況の下でも本学の入試倍率はかなりの難関でありました。これをクリアーし、合格を果たした皆さんは、どうか自分自身を信じ、自信を持って今日から始まる本学の学生生活を実りあるものにして下さい。

本学の沿革についてはオリエンテーションの中に自校教育として組み入れられていますので、その折に学んで欲しいと思いますが、ここで概略を少し話します。本学は1929年(昭和4年)、まさに世界恐慌の最中、現在の武蔵野市吉祥寺に設立されました帝国美術学校に始まります。当時の保守的・形式的な官学美術教育に異を唱え、在野精神を基軸に「教養ある美術家養成」、「真に人間的自由に達する美術教育」を理念とした清新な想像力を持った美術家・デザイナーの養成に努めて来ました。敗戦による激しい社会変化も乗り越え、武蔵野美術大学の名の下に発展してまいりました。更に1962年(昭和37年)に小平市小川のこの地に施設の大半を移転し、以後日本有数の美術系総合大学として今日に至っております。

今年で創立82年になります。80周年記念事業として建設した新しい施設の利用については今週行われるオリエンテーションに託します。

本日は皆さんの姿が見えない、マイクを通しての挨拶ですので、よく伝わらないかもしれませんが、私の皆さんに対する思いを少し申し上げます。まだまだ底が見えぬこの大災害は、多くのことを私たちに投げかけていると思います。しかし中心になるのは、未来に向けて地球的スケールを持った真の自然との共生による新しい国造り・町造りでありましょう。その中心になって動くのは何よりも若き人達の参加が必然です。

少なくとも向こう半世紀以上活力ある生き方が可能な人々に限ります。それは皆さんです。成人であり、成人にならんとしている今日の皆さんなのです。造形に勤しみ既成概念にとらわれず、未来を思考し実行出来得るのです。子供ではなく、壮年・老人ではない皆さんの世代が、この大災害が今後に及ぼす諸々に対して真の証人でありうると思います。歴史の中心になるのです。大震災の大きな負を近き将来、プラスに転化せねばなりません。この大事件を歴史にどのように位置付けるか。皆さんが主役にならざるを得ないのです。今は本学においてじっくりとそして懸命に努力を重ね、実力を付けて世に大きく羽撃いて下さい。がんばりましょう。