令和4年度入学式

日時 2022年4月4日(月)
10:00開式/13:00開式 *所属学科・コースにより開始時間が異なりますのでご注意ください
場所 武蔵野美術大学 鷹の台キャンパス 体育館アリーナ

式次第

  • 開式の辞
  • 校歌斉唱
  • 学長式辞 学長 長澤忠徳
  • 理事長祝辞 理事長 白賀洋平
  • 教員祝辞(午前の部) 教授 高橋理子
  • 教員祝辞(午後の部) 専任講師 長谷川さち
  • 閉式の辞

会場風景

学長式辞

写真:長澤忠徳

武蔵野美術大学学長
長澤忠徳

本年、令和4年度、武蔵野美術大学に入学された学生諸君は、造形学部895名、造形構想学部166名、大学院造形研究科、博士後期課程5名、修士課程104名、造形構想研究科、博士後期課程4名、修士課程50名、そして、編入生39名、合わせて1,263名の令和4年度新入生の皆さんをお迎えすることができましたことは、武蔵野美術大学の大きな喜びです。この中には、数ある日本の美術系大学の中から本学を選び、難関を突破して入学された215名の留学生の皆さんが、含まれています。

新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。今日から、武蔵野美術大学が、皆さんの母校になります。
またご家族の皆さまのお慶びもひとしおかと存じます。おめでとうございます。そして、本学に御子弟を進学させていただきましたことに、厚く御礼を申し上げます。

今回の入学式は、新型コロナウイルス感染症の感染防止対策上、午前と午後の二部制とし、念願の対面型で開催していますが、世界規模での感染拡大による政府の感染防止水際対策の影響によって、今年度入学の多くの留学生諸君の入国が遅れ、本日、この会場で全員が一堂に会することが叶いませんでした。また、感染防止対策上、ご家族の皆さまにも、来校をご遠慮いただきましたが、映像配信で参加していただいておりますこと、どうかご了承いただきたく思います。

ここで、ひとつ重要な事を話しておきたいと思います。
本年4月1日より、法律施行によって、成人年齢が18歳となりました。つまり、本学の学生諸君は、全員が「成人」であるということです。飲酒や喫煙は、20歳まで許されませんが、これまで保護の対象であった「未成年」ではなく、法的に自立した「成人」として、新たな権利を得ると同時に、社会的責任を負うことになります。学生諸君は、どうか、その事をしっかり自覚して、自分の行動に責任を持っていただきたいと思います。

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さて、武蔵野美術大学(ムサビ)は、その前身となる1929年創立の帝国美術学校創立以来、「教養を有する美術家養成」を建学の理念とし、「真に人間的自由に達するような美術教育」という教育の目標を守り、我が国を代表する私立の総合美術系大学として発展してまいりました。国内はもとより、世界で活躍する数多くの卒業生を輩出してきていることは、みなさんもご存知のことと思います。

全国の都道府県のみならず、海外にも支部を有する、卒業生が加盟する本学校友会は、美術大学では、我が国最大規模の7万名を超える会員数を誇ります。
また、本学は、我が国で最初に「造形学部」、そして、これも我が国で最初に「デザイン」を冠する学科を創設し、美術・デザイン教育を常にリードしてきました。

優秀な多くのクリエイティブ人材を国内外に輩出してきた伝統ある本学の「造形学部」、「大学院造形研究科」の造形教育の実績を基盤として、創立以来培ってきた造形言語リテラシー能力と、自然言語リテラシーとのハイブリッドな能力を有する新しいタイプの人材の育成を目指して、創立90周年の年・2019年度、従来の美術大学の固定観念を超えた「造形構想学部」と「大学院造形構想研究科」を創設し、都心に新たな「市ヶ谷キャンパス」を開設して活動を開始し、国内外からも注目を集めているところです。
こうして、本学は、未来社会に貢献する「創造的思考力」を育む、我が国を代表する最大規模の総合美術系大学として、二学部からなるUniversityとしてのカタチを整え、2029年度に迎える創立100周年に向けた、新しい歴史の一歩を踏み出しています。

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全世界がまる2年以上も、新型コロナウイルス感染症の感染拡大と闘っている最中(さなか)、2月下旬、ロシア軍のウクライナ侵攻によって、戦闘が勃発し、ウクライナの都市への爆撃によって、街は破壊され、多くの市民にも犠牲者が増え続け、膨大な数の市民が、戦禍を逃れて隣国に避難する悲惨な事態が、今なお続いています。
生きることへの安全・安心が脅かされ、世界の平和が崩壊の危険にさらされる地球規模での問題となっていることは、連日、報道されている通りです。

今、私たちを取り巻く環境、そして国際情勢は、世界的規模で、大きく激震しています。この長引く困難は、人々の生活観もライフスタイルも、地域社会と世界のあり方にも、大きな変化を生むことは間違いありません。
生命の尊さを第一義に、私たちは、世界の平和と安全を希求し、一日も早い戦乱の終結を祈ると同時に、傷ついてしまった世界を、望ましい姿に再生していかなければなりません。美術・デザインの分野の私たちも、これから、その再生に貢献できるよう尽力すべきだと思います。

新入生の皆さんが活躍されるこれからの時代は、我が国も世界も、文明潮流の大きな変化の中にあります。入学された皆さんが活躍される未来社会は、SDGsという言葉で知られるように、「地球と人類の永続性を守る社会」です。同時にまた、世界に平和を取り戻し、私たち人類の望ましい未来社会をしっかりと実現するために、「創造的思考力」を身につけたイノベーションを推進するクリエイティブな人材を、時代は、世界は、求めています。

私たちの武蔵野美術大学は、いまや、日本の私立の一美術大学としての存在を超えて、我が国のみならず、世界の文化、芸術、クリエイティブ産業を支え、リードし、ますます広がるイノベーティブな世界構築に貢献する人材育成を使命として担っているということを、皆さんには、しっかり自覚して、ここムサビで学んでいただきたいと思います。

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さて、私は学長に就任以来、「あの遥か彼方に見える水平線の上に立てるか…」というメッセージを、毎年、新入生の皆さんに問いかけて来ました。今回は、私にとって、二期8年間の学長任期の最後の年度の入学式となりますが、今回もまた、このメッセージを皆さんに贈りたいと思います。
「あの遥か彼方に見える水平線の上に立つ…」ことを信じて、凪いでいても、難破するほどの大嵐でも、いつかきっと「水平線の上に立てる…!」とひたすら信じ続けるチカラこそ、未来を切り拓く力になります。

理屈で不可能だと決め込んで、やらずに諦めるのではなく、足下を遠望すれば見えている「水平線」に立とう…と信じて進むことが重要だと、私は思います。「クリエイティブ、創造的である」ということは、そういうことだと私は信じています。
私たちの「水平線に立つことを目指した航海」は、今だに、いつ止むのかも見通せないコロナ禍の大嵐のまっただ中にありますが、昨年度も、皆さんの先輩たちは、その苦難を乗り越えて優秀な成果を残し、先月、ムサビを巣立って行きました。

私は、余儀なくされたコロナ禍という負荷をものともせずに挑んだ彼らの奮闘ぶりから、「創造の持久力」ということに気づかされました。
信じ続けるチカラ、そして、挑み続けるチカラ、それらは「持久力」です。「持久力」を鍛えること。すなわち、ここムサビは、「創造の持久力」を鍛える場である…ということに、思い至りました。

「創造の持久力」を鍛えるためには、あえて苦難に挑む「堅い意志」が必要です。
この「意志」という言葉の「意」という漢字は、「音」と「心」という部分で成り立っています。つまり、胸に秘めた熱い思いというのは、自分にしか聴こえない「心の音」のことなのです。それが、みなさんそれぞれの「個性」なのだと思います。そして、「表現」とは、そんな自分の「心の音」を聞き、その「心の音」を、あらゆる可能な方法で、自分の身体の外に出すことではないか…と思うのです。

これまであなたを突き動かしてきた「心の音」を、どのように聴き、どうやって自分の外に表出するか…については、あなた自身が一生懸命に悩み、考え、試行錯誤して、実現していただきたいと思います。
個性豊かな仲間が、そして先生方が、あなたを応援してくれると思います。皆さんの大学生活は、多くの体験によって多彩で多様な可能性を拓く、人生の大切な時間なのです。

言うまでもなく、美術大学の教育には、アトリエやスタジオ等での制作や対面での講評、演習・実習などの実技型の授業が欠かせません。本学は、「ムサビ生の学びを止めない」ことを誓って、全国の美大でもいち早く、コロナ禍が始まった二年前から、感染防止対策をしっかり講じた上で、制作等の時間を確保し、少しでも多く、先生方や友人とコミュニケーションができるように努めてきています。もちろん、対面授業とオンライン授業を併用するハイブリッドで対応することは、学生諸君にとっても、私たち教職員にとっても、大変なことですが、皆さんは、すでに、「あの水平線の上に立つ」ことを目指して、大海原に漕ぎ出しているのです。そして、私たちの思いも同じです。

「創造の持久力」を鍛えた私たちに息づく「創造性は死滅しない!」

この未曾有の世界的な困難の中、皆さんのひたむきな「創造へのチャレンジ」を、私たち教職員は、武蔵野美術大学の伝統とも言える「寛容さ」と「自在性」を「勇気」をもって、しっかり支えて行く覚悟です。

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さあ、今日から、ムサビでの大学生活が始まりました。

しかし、今なお、余儀なくされたコロナ禍の真っ只中です。不自由なこと、不安なこと、辛いこともあると思います。皆さんは、このコロナ禍の困難さえも学びの資源として、「創造の持久力」を鍛えてください。標榜する「真に人間的自由に達するような美術教育」の真髄を体得してください。

ムサビには、「ムサビ菌」が棲みついています。ムサビらしさ、ムサビの校風は、いわば「ムサビ菌」のしわざでしょう。ムサビ教育を発酵・熟成させる善玉菌である「ムサビ菌」を存分に浴びて、困難を跳ねのける「クリエイティブなチカラ=抗体」を身につけ、強靭なクリエーターになってください。

繰り返しになりますが、辛さの何倍も何十倍も、きっと、胸躍る「はつらつとした青春の若いチカラ」は、雌伏に耐え、多くの困難を乗り越える日々の中で、「創造の持久力」を鍛え上げて、皆さんを「人=人間」として、強く、たくましく、成長させてくれると信じています。

最後にもう一度、ムサビ生となった皆さんに、心からの祝福を贈ります。
武蔵野美術大学、ご入学、おめでとう!

理事長祝辞

写真:白賀洋平

学校法人武蔵野美術大学理事長
白賀洋平

造形学部・造形構想学部入学、修士課程・博士後期課程進学の皆さん、本日はおめでとうございます。
そして、これまで長年にわたり成長を見守り、ご支援を続けて来られたご家族の皆様、おめでとうございます。心よりお喜び申し上げます。
特に三年に及ぶコロナ禍を乗り越えて、入学・進学を果たされました皆さんの真摯なご努力に対し深く敬意を表します。
本来なら一堂に会して行うべきところ、コロナ禍で、ご家族の方々のご出席もご遠慮願っての入学式を余儀なくされたことは、極めて残念で心から申し訳なく存じます。
さて、今、ここに皆さんのような前途洋々たる俊秀をお迎えすることが出来、まことに心強く嬉しい限りであります。

今、世の中は、先行きが見通せないヴーカの時代と言われています。
この混迷状態を乗り越えるヒントを、アートやデザインが持つ創造性や問題解決力に求める動きが世界的な潮流になっています。大学院を例にとっても、海外では近年、論理的思考のMBA(経営学修士)より、柔軟で創造的思考のMFA(美術学修士)の方が高く評価されていると言われています。そういう意味でも「創作系人材」の質・量の厚みは、今後の国の競争力やブランド力につながると言っても過言ではありません。
今、官民あげて未来創造型人材の育成に力を入れています。その拠点として期待されているのが美大であり、その先端に立つのがムサビであります。そして皆さんはそのムサビの舞台に立ったのであります。

そこで、これからの大学生活を送る上で、役に立てばと思う事を少しばかり申し上げたいと思います。
これまで、サイエンスといわず、実業界といわず、芸術の世界といわず、その道で名を成した人に共通していると思われることを3つ挙げますと、
一つ目は「Be ambitious」であります。ライフワークにつながるような大きな夢、ビジョンを描いて頂きたいと思います。
これから大学で創作活動、研究活動を続けていくに当たって、何を目指すか、何を目標とするか(どんな作家になるか、何の権威になるか、実業界でどんな道を歩むか・起業するか等)、先生ともよく相談し、必死になって本当にやりたいテーマを見つけ、これを深化させることです。
二つ目は「Passion」であります。テーマを決めたら「挑戦し続ける」ことです。恐らく試行錯誤の連続でしょう。そういう時も、諦めずに粘り強く考え抜く事、信念を以てやり抜く事が大事です。
どんな道であれ、頂点を極めるためには全身全霊を傾ける情熱が必要です。

そして三つ目は「Originality」であります。芸術家、パイオニアの核心的部分です。人真似では人を超えることは出来ない、人と違う事、今までに無いものを創るという気概を以て独創的な世界の表現・実現に挑戦してください。

さて、本学の建学の精神は「教養を有する芸術家の養成」であり、「幅広い教養」、「高い技能」を身に付け、様々な分野で社会に貢献できる人材を育成することであります。これに関し、3点付言します。

一つ目は、教養についてであります。創作活動や研究活動の上で基礎となる歴史とか哲学とか文学、それに加えて語学或いは情報リテラシーなども時間を作って勉強して頂きたいと思います。
また、自分の殻を破り、視野を広げる為にも、旅をしたり、美術館・図書館に足を運んでください。

二つ目は「人との交流」であります。
大学は人と人の交流を提供する場であります。価値観、人生観、美意識の違う色々な人との交流を通して、自分を高め、共感性・寛容性を身に付けて頂きたいと思います。これからの多様性社会を生き抜く為に必須だからです。

三つ目は、これから始まる実技授業の後の「講評」という授業についてであります。
自分の仕上げた作品や論文等の研究成果を、先生や同僚の前で発表し、厳しい評価・批評を受けます。このプロセスを通して、技能の習得は勿論ですが、プレゼンテーション能力、コミュニケーション能力を磨いてください。「伝える力、聞く力、意思疎通を図る力」等は今後の社会生活に必須の素養だからです。

ところで、世の中では出る杭は打たれると言われますが、ムサビは則を超えない限り自由が尊重され、出る杭は伸ばす大学です。
むしろ、出過ぎた杭になって頂きたいと思います。
どうか健康に留意され、当分の間は、コロナ感染防止(三密回避、マスク、手洗い等)に気を付けながら、充実したムサビ生活を謳歌してください。
人類への挑戦ともいうべき新型コロナウィルス、ウクライナ暴挙の早期収束と恒久的な世界平和の実現を念じつつ、私の話を終わります。

あらためて、本日はまことにおめでとうございます。

教員祝辞(午前の部)

写真:高橋理子

武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科教授
高橋理子

新入生の皆さま。そしてご家族、保護者の皆さま。
ご入学おめでとうございます。
教員を代表し、心からお祝い申し上げます。

もう長らく続いているコロナ禍の中、それに屈することなく、ここに到達した皆さんのパワーが、今もしっかりと感じられます。
実は私もこのような状況の中、昨年4月に着任し、教員として武蔵美に通い始めたばかりの新人です。
今年度からようやく2年生です。

新しい道、新しい場所、新しい出会い。
目に映る物すべてが眩しく、新鮮で、心の中も頭の中も、たくさんの刺激で満ち溢れる日々。
そんな毎日が、皆さんにも始まろうとしています。

もうずっと昔のことですが、入学式という大きな節目に感じた気持ちを、今でも思い出すことがあります。
新たな学びを得ることができることへの期待感と、この世界で生きていくことが、本当に正しいのか、適しているのかどうか、人と比べてしまうことができる環境で、その結論が出てしまうのではないかという不安な気持ちが、交互に押し寄せてきて心が忙しかったことを覚えています。

ところで、なぜ「不安」になるのか、考えたことはありますか?
不安とは、危険や脅威に備えて防御するための行動のきっかけともなる、人間に備わった生きのびるための重要な機能として働いているそうです。

ちなみに、私は極度の心配性です。いつも不安と共に生きてきました。
できる限り「不安」を消すために、いっさい手が抜けず、自分にプレッシャーをかけ続けた学生時代。
何事にも前のめりで、先生や家族にまで、迷惑をかけていたと思います。
ですが、今思えば「不安」というものが、日々の原動力になっていたと確信しています。

要するに、私がお伝えしたいことは、「不安」は、決して悪いものではなく、むしろ活動の源にもなるということです。

さて、話は変わりますが、
皆さんの将来の夢、想像するゴールは、どれくらいの大きさですか?
武蔵美に合格するという目標を達成した今、ここで学びながら、目指すゴールを見定めようと考えている人も多いかもしれません。

私が目指すゴールは「世界平和」です。
人があらゆることに対して自ら深く考え、当たり前のように他人や自然環境を思いやる世界を生み出すということ。
このゴールに向かって日々表現活動を続けています。

「夢は大きく持て」とは、よく聞く言葉ですが、世界平和だなんて、人としてこれ以上ないほどに大きなゴールだということは、もちろん自覚しています。

自分では到達する方法がわからないくらい大きなゴールを設定すると、そこまでの道のりは長く険しくなります。
当然「不安」も生まれますが、先ほど申し上げた通り、原動力になると思えばむしろポジティブです。
ゴールまでの世界が広く、道のりが遠いほど、そこには多くの出会いとチャンスが生まれると信じています。

そして、そのチャンスは、実は、いつもすぐそばにたくさん存在しています。
それに気づけるか、気付けないか、だけなのです。
人によって、見えるもの、見えないものは異なります。
より多くのことに目が留まり、より多くのことに触れるために。
自分の取り巻く世界を広げるためにも、ぜひ、地図のない、自分の知らない遠い場所に、ゴールを設定してほしいと思います。

皆さんがこれからここで学ぶことは、ゴールに到達するための手段の一つです。
上手な絵を描くとか、美しいものをデザインするとか、たくさん売れるものを作るとか、それはもちろん必要なことですが、それ以上に、その先に何を見るか、何を想像するかが大切だと思います。

アートやデザインという分野を越えた、社会を構成するひとりの人間として、どのような未来を描き歩んでいくのか。

新たなスタートラインに立ったみなさんのサポートができることを心から嬉しく思います。
一緒に進んでいきましょう。

ようこそ。武蔵野美術大学へ。
おめでとうございます。

教員祝辞(午後の部)

写真:長谷川さち

武蔵野美術大学共通彫塑研究室専任講師
長谷川さち

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。そしてサポートしてくださったご親族の皆さま、おめでとうございます。教職員一同、この日を迎えることができ、大変嬉しく思います。
コロナ禍で、誰も正解がわからない不安な状況の中、皆さんは、やりたいことを見つけ、行動し、今ここにいます。まず、この状況を乗り越えた自分を褒めてください。

今現在、教員でもあり石彫家として活動して、このように皆さんの前でお話ししていますが、22年前、私も皆さんと同じように、この体育館で入学式を迎えました。今日は、自分の経験から、大学でのことを少しだけ、お話ししたいと思います。

私は、彫刻学科の学生として入学し、初めのうちは課題や一人暮らしに精一杯でしたが、半年くらい経つと、同級生の造型力や美術の知識に圧倒されてしまい、周りが気になり始めました。講評のたびに、同級生との差を感じ、気持ちが萎縮していきました。授業はこなしていましたが、大学の外に面白さを感じ、自分の居場所だとは思えませんでした。もちろんその時間も後々、制作の糧にはなっていますが、当時は悶々としながら、過ごしていました。大学がつまらない、何々が、こうだったらいいのに、と全て周りのせい、環境のせいにしていました。
そんな時、授業で石に出合います。7週間で座像の人物モデルを石で彫る課題でした。石用のハンマーを作るところから始まり、ほぼノミで制作をする方法で、手は豆だらけ、何度も、もう今日は休もうと思いました。しかし、ずっとこれでは駄目だ、と思っていたこともあり、自分には造形力もテクニックもない、とにかく出来ることは、人よりも時間をかけること、と毎日制作だけは行くようにしました。初めは、力一杯ハンマーを振り下ろし、量を落とそうとしていましたが、全然かたちになりません。しかし、毎日やることで、今日よりも明日、明日より明後日、と今度はこうしてみよう、と試していき、いつの間にか体力や集中力が石に慣れていきました。最後の1週間くらいで、体の力を抜き、ハンマーの重さだけで、量が落ちると掴め、少しずつ人物のかたちにはなりました。知識としては理解できるけれど、経験することで、体の使い方、材料とのやりとりなどは、7週間かけてじわじわと体に染み込んでくる物でした。漫画や小説ならドラマティックに、これで最高の作品ができた!となるのでしょうが、出来た作品は酷いものでしたし、講評も散々でした。

しかし、何かが変わりました。つまらない、できない、という意識は、可能性を閉ざし、自分で自分の力を奪っていたのです。他の誰かの作品を目標とするのではなく、作品の答えは自分の中にしかなく、すぐには結果が出るものではないということ。一生かけて作品をつくっていく中で、ゆっくりと分かること、出来ることもある、ということでした。少しずつ意識が変わると、取り巻く世界が変わっていきました。やっていることを理解し、応援してくれる人も増えてきます。当時は専門外だと思っていた授業や、好きだけど意味がないこと、人や場所が後になって、パズルがはまるように繋がっていきます。形にならない、よく分からないということも、すぐ答えを出そうとせず、後々の大きなパズルをつくるためのピースだと思って沢山集めて欲しいと思います。
起こること全てに無駄な物はなく、表現するための糧になっていくのだと今も思います。

長々と少し格好悪い話をしてしまいましたが、皆さんは何か表現すること、作品をつくることを選んだ人たちです。表現することは、その人の一部分が作品として現れます。結局は思考を広げ、感じること、人が豊かになることが、唯一無二の表現の強さ、幅になっていくのかも知れません。結果を出すことも大事ですが、焦らず、もっと長い期間で表現することを考えてみてください。

皆さんは、これから何でも出来るし、何にでもなれる可能性の塊です。どうか、リラックスし、心を開いて、様々な体験をしてみてください。今すぐには分からなくても、無駄だと思えることも、必ず何かに繋がります。そのために、大学を使い倒してください。これから、また授業で皆さんとお会いできることを楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします。