*所属は取材当時のものです。

戸井李名 Toi Rina

美術専攻油絵コース2年 武蔵野美術大学 造形学部 油絵学科油絵専攻卒業

写真:戸井李名

視野が狭く、人に観てもらうことを意識していなかった学部生の頃と比べて、展示の機会が増えた今は、どうやって世の中に作品を送り出すかを考えるようになりました。私なりの世界観を描き切り、鑑賞者を引っ張っていくくらいの感覚で制作に臨むことで、自分自身と鑑賞者が共鳴できるような作品に変化していると感じます。

こうした気付きを得られたのも、指導教員の遠藤彰子先生と、学部生のとき以上に深い対話を重ねられているからです。遠藤先生のもとで学びたいと高校生で思い立ち、ムサビの油絵学科に進学した私は、学部、大学院を通して、人並み外れた創作意欲を持つ先生から常に刺激をいただいています。

ムサビの大学院は、充実した制作環境も魅力のひとつです。ほかの美大と比べて学生一人に与えられるアトリエがとても広く、利用できる時間が長いのもメリットだと思います。

訪問教授として来日していた中国のアーティストとのご縁をきっかけに、現在は上海を中心に海外で定期的に展示を行い、日本のアーティストを現地に紹介する企画にも携わっています。アートに対する考え方もマーケットの仕組みも日本と異なり、良い作品をつくってもそれが売れなければプロフェッショナルとして評価されない中国では、制作以外のさまざまな場面で行動力や柔軟性が求められます。

学生の頃から作品を売買するなど、自分自身をプロデュースする機会が少ない日本では、私のようなケースは珍しいかもしれません。そういう意味でも、修了後は上海を拠点にして、世界と日本の架け橋となるようなアーティストを目指しています。

戸井李名

海と地球もプロローグ
H3000 × W7000mm

戸井李名

中国での展示風景

細井えみか Hosoi Emika

美術専攻彫刻コース2年 武蔵野美術大学 造形学部 彫刻学科卒業

写真:細井えみか

ムサビの彫刻学科は学部3年から自由課題となり、素材もテーマも自分で選択します。そこで彫刻の面白さに改めて気付き、残された2年間ではとても追求できないと思ったことが進学のきっかけです。私の作品を知っている先生や友人が周りにいて、使い勝手の良い施設・設備が整えられているムサビの大学院に進んだのは、自然な選択でした。

普段から心がけているのが、展示をたくさん行ったり、彫刻以外の分野の仕事を引き受けたりと、毎日を忙しく過ごすということ。大学院は学部と比べて授業数こそ少ないものの、「作家・作品研究」「近現代美術史」「現代都市論」など内容の濃い講義が多く、学ぶ楽しさを学部生の頃以上に感じています。

鉄を素材に、時間とかたちへの興味を作品にしていた中、大きな転機となったのが、院1年の夏にシンガポールで開催された国際アートキャンプ「Tropical Lab」への参加です。海外への憧れが漠然とあり、さまざまなことを吸収しようと臨んだアートキャンプでしたが、異なる環境や文化で育った学生たちとの交流は、自分の常識がすべてひっくり返るような刺激に満ちていました。

私の中でまだ消化しきれていないその体験を咀嚼しながら、自分自身のルーツを振り返り、軸のあるテーマを探していくことが今後の課題です。

将来的には作家として生計を立てていきたいと思っています。そのためにも、常に自分を更新していくことを忘れずに、地道に作品を制作し、コンペに応募するなど、恵まれた環境を生かして制作を続けていきたいです。

細井えみか

The Empty(2016)
H1600 × W1500 × D1500mm

細井えみか

clip-clop(2017)
H40 × W40 × D40mm / H80 × W40 × D20mmのブロックによる構成

細井えみか

A Grave(2017)
H1000 × W1000 × D400mm

レティシア ガルシア ロブレス
Leticia Garcia Robles

デザイン専攻工芸工業デザインコース(インテリアデザインコース)2年 Instituto Tecnologico de Santo Domingo卒業

写真:レティシア ガルシア ロブレス

母国・ドミニカ共和国の大学では、インダストリアルデザインを専攻していました。木材やファイバーグラスを用いた家具を制作する中で、ドミニカで身近な資源である「竹」を有効活用したいと思い、世界的にも優れた竹製品を送り出している日本への留学を志望しました。

ムサビは過去に、開発途上国の自律的な経済支援を目的にして、竹を用いた家具や日用品を開発する「EDS竹デザイン・プロジェクト」を行っています。こうした実績を知り、ムサビなら私の研究テーマに取り組めると感じました。

大学院では竹を使ったベンチやスツールなどを制作しながら、指導教員の伊藤真一先生が主催する国際プロジェクトに参加しています。昨年夏にはフィリピンで、竹やラタンの新しい可能性を現地の学生と考えるデザインワークショップに参加。今年(2017年)の春にも同様のワークショップをインドネシアで行う予定です。

日本の地方を訪ね、この国で竹製品がどのように根付いているかのリサーチも重ねています。ムサビは何かをやりたいと思ったときに、それを実際に取り組むことが許される自由な校風が魅力です。先生や助手、国際チームのスタッフも手厚くサポートしてくれます。

将来的には、ムサビでの学びを生かして、竹をはじめとする自然の恵みを活用した家具づくりを行っていきたいと考えています。開発途上国であるドミニカは慢性的な電力不足で、停電も珍しくありません。電気に頼らない手仕事で、新鮮な素材から美しいものをつくれる余地があるはずです。

シンプルで美しい日本のデザインへの理解を深め、社会貢献にもつながるようなソーシャルプロジェクトもプランのひとつ。こうした目標のためにも、多くの経験を積んでいきたいです。

レティシア ガルシア ロブレス

竹|H400 × W1200 × D400mm

要由記子 Kaname Yukiko

デザイン専攻工芸工業デザインコース(クラフトデザインコース金工専攻)2年 ヒコ・みづのジュエリーカレッジ ジュエリーコース卒業

写真:要由記子

4年制の専門学校でアートジュエリーを学ぶ中、ジュエリーの枠を取り払って制作したいと思うようになりました。自分で工房を借りるという選択肢もありましたが、視野を広げ、創作活動を続けるための基盤となる技術や表現力を磨くためにも、大学院進学を希望しました。

ムサビは自分から積極的に動けば、必ず応えてくれる環境です。他専攻の研究室に相談して、普段は公開していない講評を見学させてもらい、クオリティを追求することの大切さや、クラフトにも通じるものの見方や考え方を学んでいます。

専門学校では金や銀を素材にしていましたが、朽ちたり錆びたりする「鉄」が持つ死生観に惹かれ、それをどう表現していくかを試行錯誤しています。初めて扱う素材で、思い通りにいかないこともあるものの、私自身が鉄や金属自体に何を見ようとしているのかを常に意識しながら、制作に取り組んでいます。

制作の上で大切にしているのは、とにかく手を動かすこと。欲しいものはネットで何でも注文できてしまう今だからこそ、手を動かさないと見つけられないこと、自分にしかつくれないものを突き詰めていきたいです。

私はもともと、美術やデザインと無縁な環境で育ち、社会人になってからものづくりに出会って自分なりの価値観を持つことを学び、普段の生活から意識まで大きく変化しました。その経験から、将来は表現することの魅力を伝える活動にも取り組んでいきたいと考えています。一人でも多くの人に感動を与えられるつくり手となれるように、創作活動を続けていく。ムサビでの毎日の中で、その覚悟を固めることができました。

要由記子

金、銀、他|H15~70 × W15~70 × D15~25mm

要由記子

夢枕(大学院1年次の作品)
鉄|H190 × W300 × D120mm H320 × W320 × D130mm

田村彩子 Tamura Ayako

デザイン専攻工芸工業デザインコース(クラフトデザインコース陶磁専攻)2年 武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科卒業

写真:田村彩子

ムサビの工芸工業デザイン学科は、学部2年の後期からクラフト、インテリア、インダストリアルデザインの3コースに分かれます。私はクラフトコースに進み、陶磁を専攻しましたが、卒業が近づくにつれて技術的にできることが増え、やりたいことがどんどんできるようになると、「もっと制作を突き詰めたい」という想いが強くなり、大学院進学を決意しました。

大学院は学部と違い、課題を与えられるわけではないので、時間を無駄にせず、さまざまな経験を積むことを心がけています。私が用いる片切彫りは中国の陶磁器によく使われているため、学部生の頃から中国や台湾を旅行していましたが、この技法が日本でどのように受容され、発展していったかを学ぶために、地方に残る伝統工芸も意識的に見るようになりました。

昨年の夏には指導教員の西川聡先生に声をかけていただき、チェコで開催された陶磁器の国際的なシンポジウムにも参加。また、ギャラリーや美術館に積極的に足を運び、自分の専門以外の分野にも目を向けるようにしています。

ムサビは昨年(2016年)春に14号館が完成し、それまで独立していた各工房がひとつの建物に集約されたことで、ほかの専攻とのつながりがより強いものになりました。先生との距離も近く、後輩たちの刺激を受けながら制作に打ち込める魅力的な環境です。

「器と食べ物の関係性」をテーマに、現在はろくろ成形で食器を制作していますが、今後は鋳込み成形にも挑戦したいと考えています。器に盛りつける料理や季節、誰が使うのかなど、いろんなことにアンテナを張りながら、限られた学生生活の中でやれるだけのことをやっていきたいです。

田村彩子

陶土|H35mm × φ180mm

徐慧 Seo Hye

造形研究科 博士後期課程 造形芸術専攻 環境形成研究領域 武蔵野美術大学大学院 造形研究科 デザイン専攻 視覚伝達デザインコース修了

写真:徐慧

大学院に入る前は、日本のIT企業で働いた後、韓国でフリ—ランスとしてデザインの仕事をしていました。美術やデザインをもっと深く学びたいと思い進学したムサビですが、専門教育を受けたことがなかったため、当初は「バウハウス」もわからず苦労したことを覚えています。

私の研究は、人の手によってつくられるかたちに、なぜ人々は美という共感を得るのかという造形の根本的な疑問から始まっています。ブリジット・ライリーというオプアートの作家を知ったことをきっかけに、一本の線を無心で描く行為を繰り返しながら、修士課程では呼吸と鼓動の「身体リズム」に着目して研究を進め、博士後期課程では、身体リズムから人の心に目を向け、東洋哲学、東洋美学、仏教美学の理論的な考察を行うことで、つくり手の「心」と「かたち」の関係を解き明かすことができました。

納得のいく研究成果を得られたのは、指導教員の新島実先生をはじめ、多くの先生方のサポートのおかげです。4年以上にわたった研究では、視覚伝達デザインをはじめ、身体運動文化、油絵、プログラミング、造形文化・美学美術史研究を担当する先生から指導を受けました。こうして美術やデザイン以外にも、多彩な分野の専門家と接することができる環境は、研究者にとって非常に魅力的だと思います。

尊敬できる先生と出会え、教員になるという夢が目標に変わりました。先日、博士論文の公聴会が無事終わり、春からはその第一歩として、都内の大学で指導員として働く予定です。

スランプで研究が進まず、将来に迷ったときは、「なぜムサビに来たのかをもう一度考えてみなさい」というキャリアセンターのスタッフのアドバイスを思い出しました。先生と対話を重ねたり、学内の施設を活用したり、さまざまな作品に触れたりできる時間は学生の間しかありません。みなさんもムサビで過ごす時間を、その瞬間のすべてを、大切にしてほしいです。

徐慧

節制の線2707
板、鉛筆|H870 × W940 × D30mm

徐慧

研究発表展のアーティストトークの様子(左:油絵学科赤塚祐二教授、右:視覚伝達デザイン学科新島実教授)