令和6年度武蔵野美術大学卒業式典
日時 | 2025年3月14日(金) 11:00開式(10:00開場) |
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場所 | 武蔵野美術大学 鷹の台キャンパス 体育館 2階アリーナ |
詳細 | 以下のリンク先をご確認くださいTOPICS 令和6年度卒業式 |
式次第
- 学生DJパフォーマンス
- 開式の辞
- 校歌斉唱
- 教員紹介
- 学位記授与
- 卒業・修了制作(論文)優秀賞授与
- 学長式辞 学長 樺山祐和
- 理事長祝辞 理事長 長澤忠徳
- 教員祝辞 赤塚祐二
- 校友会会長祝辞 萩原幸也
- 学生DJパフォーマンス
- 閉式の辞
会場風景
学長式辞
武蔵野美術大学学長 樺山祐和
本日、ここに卒業生、修了生。
通学課程、造形学部883名。造形構想学部153名。
大学院造形研究科修士課程122名。同博士後期課程7名。
大学院造形構想研究科修士課程53名。
海外からの留学生214名。
通学課程総数1218名、通信教育課程197名、総数1415名の卒業生、修了生を送り出すことができましたことは、本学、教職員、スタッフ、並びに全ての関係者にとって喜びに耐えないことです。
また、これまで学生たちを様々にお支えいただいた、ご家族、保護者の方々に、とりましても、お喜び、ひとしおであると、ご推察申し上げます。
本当におめでとうございます。
そして、本日、皆様をここ武蔵野美術大学にお招きし、卒業式を挙行できますことを大変嬉しく思っております。
今、世界は、コロナ禍が落ち着き、ようやく日常が戻ってきたかに見えます。しかし遠くユーラシアの東での戦禍は分断を生み、世界は混沌として行き先の見えない状況です。そんな様々な事象が錯綜し複雑に絡み合う現代だからこそ、私たち人間の創る行為が、困難な状況においても世界の閉塞感を打ち払い未来を照らす光となるのだと信じます。
美術を志す若者たちの背中を押しつづけ、励まし理解してこられた、ご家族、保護者の方々のお気持ちに思いを馳せる時、改めて心から、お祝いをお伝えしたく存じます。
本当に、おめでとうございます。
卒業生、修了生諸君。卒業、修了おめでとう。
皆さんは、武蔵野美術大学に入学し、今日、この日、卒業、修了の日を迎えました。これからそれぞれの新しい旅が始まります。様々な行き方があり、目的地があるでしょう。しかし、旅はこれからも続いて行くのです。
ここにいる全ての卒業生修了生にそれぞれの旅があります。一つ一つの旅は平凡で日常的な特別なものではないものでしょう。と同時に一つ一つの旅はかけがえのない一度だけの特別な旅なのです。
希望を胸に本学に入学した数年前、それぞれが大きな期待に胸を膨らませていたはずの1年生は、世界に猛威を振るったコロナ禍により、入学式はオンラインでの参加、そして保護者の方々の入校は行えず、授業もオンラインという、不慣れと不安に包まれた状況で、始まりました。
クラブ活動、芸術祭といった課外活動を行うことも、できませんでした。そのような中、私たち教職員、スタッフは、なんとか学びを止めず授業を作り、そして皆さんは、本当に良く授業に、ついて来てくれたと思います。
みんな本当に良く頑張りましたね。
そのような状況の中、失ったものはあったけれど、また、発見したこともあるでしょう。そして、本当に大切なものは、何気ない日常の中にこそ、隠されているという事を、皆さんは学んだはずです。そんな様々な経験が、これからの人生に、きっと役に立つ時がくると、信じています。
この混沌とした時代において創るということは、どんな意味を持つのでしょうか。今に生きる私たちが、希望と共に後世に残せるものはあるのか。世界は合理と効率に支配されている一方で、人間の欲望と野生が露わになっているこの時代に本当に大切にすべきものは何なのか。
それを明確に言葉で言い表すことは難しいけれど、これだけは言えます。
君たちがここで学んできたこと、作品を作ってきたこと、そして、その純粋さにこそ誰も犯すことのできない真実があるということを。それこそが疑いなく信じることのできる大切なものだと言えるものです。
武蔵美で学び創り、美を追い求めてきたことを新しい場所に行っても心に刻んで生きていってほしいのです。
君たち一人一人が心血を注いで作り上げた、すべての卒業制作、修了制作は、この世界の創造性を少しずつ、押し上げ、この時代を照らし人々を勇気づけ、人間を良き方向へと導く力になっているのです。
それは、私たち人間の想像力の発露であり、その持続が、私たちの未来を切り開いてゆく、力となるのだと思います。
評価を得た作品も、そうでない作品も、すべての作品が、今、ここにいるすべての者達の、エネルギーの連鎖によって、作られたものです。
君たちが作りあげた作品たちは、決して、一人の力のみで作られたものではありません。君たちを支えてきた家族、友人、スタッフ、教職員、その他、様々な出会いによって、そして、インスピレーションを与えられた物、事によって作られたものであるでしょう。すべての作品が、この、武蔵野美術大学という場において繋がり、響き合い、輝いているのです。
私たちが作り続ける意味は、たとえ評価されることがなくとも、作品が世に出なくとも、ほんの少しでも、私たち人間の作るという営み全体に、熱をもたせ、社会を変えてゆく力になってゆく、ということなのです。
あなた達の、私たち教員の、そして、この時代に生きる者の、すべての作るという行為全体が、この時代を表す作品に結びついているのです。
作るということを通して、この世界を少しでも良きもの、美しきものへと押し上げてゆくこと。美術の力をこれから行く新しい場所で、自分なりに周りの人々に伝えてゆくこと。それは、今までここで学んだことを、精一杯、実践してゆくことでなされるのです。
私たち美術を志す者には、作るということを、絶え間のない営みとして続け、そして伝えてゆく、人間的使命があるのだと思います。
全ての卒業生、修了生たちに、贈ります。
幸せに、なってください。
幸せとは人それぞれの幸せがあるでしょう。社会的に成功すること。物質的な豊かさを手に入れることも幸せなら、自ら望んで困難に身を投じ、信ずる事に向かってゆく事も、幸せでしょう。暖かい家庭を作る事も、もちろん幸せです。
しかし、ここで言う幸せとは、「自由である」という事です。
自由とは何か。みんなはこの大学において、ファインアート、デザイン、芸術文化を志し、制作、勉学をして来ました。そして、自らの選択と判断で、自由に、それを、行なって来たのです。
武蔵美での学びとは、底流において、自由とは何か知る事であったとも言えるでしょう。
美術とは人々を幸せにする人間の営みです。日々の生活を豊かにし幸せを感じること。心の奥の方で聖なる純粋なものに触れ幸せを感じること。そして何よりも美術を通じて君たち自身が幸せになること。ここにいるみんなが幸せの生産者なのです。
これからの新しいステージにおいて、新しい学びが始まります。
今までの自由が通用しない、許容されない事も起こってくるでしょう。しかし、武蔵美で培った自由への意志の種は、みんなの中に既に蒔かれています。
これから出会う様々な物事や人々との対話の中で、頑なにならず、柔軟に、そしてしたたかに、大学とは違う新しい自由を手に入れてください。
この大学で学び、この大学過ごした時間が、今とは違う時間であることを、みんなは知ることになるでしょう。自由とは堰き止められた時に意識され、その意味に気付かされるものです。これから上手くゆかないことも起こるはずです。しかし困難に直面した時こそ力が試されるのです。
みなさんはムサビで課題を発見し、それをどのように乗り越えて行くかを徹底的に学びました。その学びを社会で活かす時がやってくるのです。
この現代という時代は、君たちにとって、あるいは生命にとって必ずしも優しいものではないでしょう。これからは予測のつかない出来事や想像もできない事が生じてゆく可能性もあるでしょう。科学技術の発展によって様々に未来は予測されている一方で、人間は未だに争うことについて何一つ克服していません。そんな先端と原始が同時に現生している時を私たちは生きています。
「わからない」時代を生きているのです。しかしわからないからこそ強い問いを設定する事ができる。そんな時代に美術、デザイン、芸術文化はいかに、その力を発揮できるのか。
これからの君たちの「つくる」が、私たち人間のそして私たちの惑星の未来にかかっているのです。
みんな、がんばれ!
理事長祝辞
学校法人武蔵野美術大学理事長 長澤忠徳
すがすがしく晴れた気持ちの良い朝、2024年度・令和6年度の卒業式は、卒業生、修了生が一堂に集う式典となりましたことを嬉しく思います。
学部卒業生の皆さん、大学院修了生の皆さん、合わせて1415名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。今日、皆さん、とっても晴れやかな笑顔で、本学での学びの一区切りを迎えられています。
この中には、7名の博士号を取得された諸君がおられますが、美術・デザイン分野の卓越した人材を輩出できますこともまた、本学の大きな喜びであり、あらためてお祝いを申し上げたく思います。おめでとうございます。
また、学生諸君の勉学を支え、見守ってこられた保護者の皆さま・ご家族の皆さまの喜びもひとしおかと存じます。おめでとうございます。
我が国の美術大学を代表する伝統あるこの武蔵野美術大学に、ご子弟を学ばせていただきましたご理解とご支援に深く感謝し、学校法人武蔵野美術大学を代表して、心より御礼を申し上げます。ありがとうございました。
皆さんの在学中には、世界的な猛威を振るった新型コロナウイルス感染症の行動制限もようやく緩和され、日常は、ムサビらしさを取り戻してきていますが、振り返ってみますと、今回、卒業の日を迎えた2021年度に入学された学部生の皆さんの入学式は分散型で行いました。そして、入学式典を挙行できなかった2020年度入学生の皆さんの分も加えて入学を祝ったことを思い出します。
もちろん、在学中も、オンライン授業を併用するなど、不自由な状況の中で学ぶこともあったかと思いますが、ムサビの名物とも言える学生の祭典・芸術祭も、部活やサークル活動も十分にはできなかった日々から立ち直り、皆さんの若い力は、困難の中なピンチをチャンスに変えて、「創造の持久力」を遺憾なく発揮して、立派なムサビ生になられたことは、私たち教職員の大きな喜びでもあります。
今日は、理事長からのお祝いとして、今、門出を迎える皆さんに、いくつかの話をさせていただきたいと思います。
私は、学長時代も、そして理事長となった今もなお、創造的人材を育成する大学、つまり「武蔵野美術大学そのもの自体が、創造的でなければならない」と信じています。
「一歩踏み出せば、きっと何かが変わる」からと、2019年、私は、造形構想学部と市ヶ谷キャンパス開設に際して、「創造的思考力」を身につけるための「既存のルールのその先へ…」という意味で、「Beyond the rules!」を掲げました。皆さんの母校、私立大学としてのムサビは、長い歴史の中で、怯むことなく、わが国最初となるさまざまなことに、チャレンジしてきました。誰かが最初にやらなければ、新たなことは生まれません。最初に挑む立場は、いろんな批判の対象にもなり、決して容易な進み方ではありません。しかし、これまでも、そしてこれからも、皆さんの母校ムサビは、果敢にチャレンジを続けて「創造性」を体現し、皆さんの活躍の追い風となり、応援し続ける存在でありたいと願っています。
私は学長時代から、毎年の入学式で、「あの遥か彼方に見える水平線に立てるか?」と、創造的な生き方の根幹を支える「果てしないものへの挑戦」と「信じることの重要性」を、繰り返し、学生諸君に問いかけてきました。それは、ムサビに入学しこの「創造」の航海に漕ぎ出して以来、数多くの困難を経て、今年で半世紀を超えた私自身への問いかけでもありました。
創造すること、クリエイティブであること、創造という未知への挑戦は、理屈を超えて「水平線の上に立つ」ことを信じる…ことに似ていると、私は信じているからです。
水平線に向かって漕ぎ出し「水平線の上に立とうとする」みなさんの航海は、これからも続きます。むしろ、これからが大海に漕ぎ出す大切な航海なのです。
ものごとを「創造」するには、精神的にも、肉体的にも、長い期間の集中に耐える「持久力」が必要です。「造形すること」も「構想すること」もまた然りです。「持久力は、折れずにしなって事を成し遂げる力」です。皆さんのムサビでの日々は、自らの「創造の持久力」を高める鍛錬でもあったのだろうと思います。
もうひとつは、「心の音を聞け!」と言う話です。
皆さんが、クリエイティブな態度で生きていくには、強い意志が欠かせません。想像してみてください「意志」という言葉の「意」という漢字は、「音」と「心」からできています。自分にしか聞こえない「心の音」を聞き、自分の外に表出すること、あらゆる可能な方法で、自分の「心の音」を自分の内から外へ、表に現す「表現」への修練が、さまざまな体験を通した皆さんの、ここムサビでの学びであったはずです。だから、何か困難に遭遇したり、行き詰まった時には、自らの「心の音」に耳を傾けてください。それこそが「表現」の根幹をなすものだからです。その内なる「心の音」こそ、皆さんそれぞれの「個性」なのです。どうか、「創造の持久力」を高めることができた自分に自信を持って、「心の音」を聞き、しっかりと生き抜いてください。
今、私たちを取り巻く環境と文明は、世界的規模で、大きく、激しく、変化しています。想像を絶する速さで進化する「生成AI」の驚異的な進化は、まさに、時代を大きく変える勢いです。皆さんは、そんなさらに進化する高度情報通信文明の中へ踏み出していきます。社会人としての皆さんは、決して、粗雑であってはなりません。正しい倫理観と礼儀を持って、逞しく生き抜いていかなければなりません。
一方で、我が国の少子高齢化も予測以上の速さで、深刻さを増してきています。このままでは、日本は人口的には縮んでいくことはさけられません。さらには、地球の温暖化・気候変動はもとより、長引くロシア軍のウクライナ侵攻はじめ、多くの犠牲者が増え続ける悲惨な状況が今もなお続き、「この地球上で生きること」自体の「安全・安心」が脅かされる難題が山積し、増え続けています。だからこそ、今、「イノベーション」が求められているのです。クリエイティブな皆さんの活躍が期待されているのです。
なによりも、生命の尊さを第一義に、私たちは、世界の平和と安全を希求し、傷ついた世界を、望ましい姿に再生していかなければなりません。美術・デザイン、そして創造の世界に生きる皆さんは、今こそしっかりと「心の音」を聞き、ムサビで培った「創造的思考力」を存分に発揮して、世界の再生に貢献していただきたいと思います。
「教養を有する美術家養成」「真に人間的自由に達するような美術教育」という理念のもと、その修練の日常を通して、本学に学んだ卒業生の皆さんは、これから、クリエーターとして、また、イノベーターとして、社会の一翼を担い、鍛えた「創造の持久力」を存分に発揮し、さらに高めて、「平和な世界の新たなる構築に挑んでいただきたい」と、心から願い、期待しています。
ムサビでの日常でいっぱい浴びたであろう「ムサビらしさ」、言い換えれば、善玉菌である「ムサビ菌」を世界に広め、大いに貢献して下さい。ようやく時代が、私たちが信じ続け、挑み続けてきた、人間性を育てる本学の美大教育に追いついて来た気がします。皆さんの「創造的思考」に、世界の期待が集まってきています。
2029年に、ムサビは創立100周年を迎えます。ムサビ一世紀の節目は、その先の更なる一世紀へ夢をつなぐ「祝祭の年」にしたいと思っています。
ムサビを巣立っても、決して母校を忘れないで、いつでも戻ってきてください、折に触れて、「ムサビ菌」を活性化させに、ムサビに来てください。
大学生という人生の学びのひと区切りとして、今日、この武蔵野美術大学から更なる「水平線への航海」に旅立つ皆さんの大活躍を信じています。
最後に、ここに集う卒業生・修了生の皆さんに、そして、皆さんを支え応援し続けてくださった保護者の皆様に、もう一度、感謝を込めたお祝いのエールを贈ります。「おめでとうございます!」
教員祝辞
武蔵野美術大学 油絵学科教授
赤塚祐二
卒業生の皆さん、本日はご卒業おめでとうございます。
修了生の皆さん、修了おめでとうございます。
そして卒業、修了生のご家族の皆様にとりましても、本日はお喜び ひとしおのことと思います。
私は油絵学科の教員で赤塚と申します。
教員を代表いたしまして祝辞を一言述べさせて頂きたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
皆さんはめでたく卒業修了の日を迎えられました。
4年か6年あるいは9年あるいはもっと長い期間、美術という専門に向きあってきました。
皆さんが長い期間をかけて身につけてきた美術の専門の力とは何でしょうか。
思い出してみますと皆さんは
すごい数の課題に繰り返し向きあってきました。
その度になんとか良い作品を作り出し、講評を受けてきたはずです。
ぎりぎり卒業、いいじゃないですか!
あるいは悠々 優秀賞までもらった人、これもいいですね!
人によってさまざま、多少の違いはありますが、この期間に見聞きし、試したことは、
はっきりと力となって皆さんに影響を与えていることでしょう。
それは例えると、鋭い切れ味の日本刀のようなものかもしれないし、ヘナチョコな竹光のようなものかもしれない。
明日からはこの武器、専門の武器を、どうにか使って、社会の中で堂々と生き抜いてほしい。
これが、今日私が皆さんに伝えたいことの一つです。
ただ過信は禁物です。
切れ味鋭い刀でも、社会の中で使い方を知らないと、うまく力を出せないかもしれない。
ヘナチョコでも、使い方次第では痒い所に手が届く孫の手のようで、ものすごく機能するかもしれない。
やってみないとわからない。
美術の力を社会の中でどう使うか、これから実践の日々が始まります。
今科学の力で社会はどんどん変化して、次々に新しい世界が切り開かれていますが、同時に桁が外れてしまったかのような不確実性も広がっています。
環境問題や国際的な政治情勢も加えて未来は激しく揺れ動いています。
しかし美術にもこれらに対応し、新しい世界を切り開いて行く力が備わっていると、私は信じています。
素材と向かい合いながらそこに行為を重ねていく美術の基本は、あらゆる想定外、思いがけない展開の宝庫です。言ってみれば、それらを超えて私たちは新しい作品を作っている。
そこで有効なものは、切れ味鋭い刀だけではありません。
身体や頭脳も含めて、全て皆さんが培った技や、道具や、あるいは手や足だって使う。たとえ ヘナチョコであっても使う。
まさに指の爪の先の先まで有効です。
それを武器に社会の中で勇敢に戦ってほしい、それが私の願いです。
しかしそれでもなかなか一筋縄ではいかない。これが普通です。
皆さん焦るでしょうね。
慌てるし何が何だかわからなくなってくる。もうパニックです。
でも、「もうダメだと思った時が始まり」です。
これは私の言葉ではありません。松岡修造の言葉です。
そうですね。ここまできたら呑気にやりましょう。
呑気にやる。
これが今日私が皆さんに伝えたい もう一つの大切な事柄です。
危機的な状況を眺めてみる。中途半端が山のようになっている。
そんないろいろな塊が宙吊りの状態になっているのをサスペンスと言いますね。
このサスペンス状態、困ります。
状況がフラフラと動くどっちつかずの状態は本当に緊張感のある嫌な時間かもしれないですが、
焦るのをやめて美味しいものを食べたり、ゆっくり寝たりしながらその状況を呑気に眺めてみる。
ちゃんとワクワク、ヒヤヒヤさせてくれるサスペンスドラマは楽しいですよね。
未来はサスペンスです。
サスペンスの状態こそが物事が思いがけなく動き、形作られていく時間です。
こんな状況は恐怖でもありますが、非常に大切なことでもあります。
ヒヤヒヤしながら辛抱強く挑戦しましょう。
何度もやってみると新しい解釈や理解が生まれ、不思議ですが、いつのまにかどう解決すればよいのかが見えてきます。
行き詰まってしまったら少し呑気にやってみる。
サスペンスを楽しんでみる。
未来が私たちの力で様々に形を変えながら変化してゆくのを、恐れず、楽しんでみようではないですか。
「この世の中で気晴らしをしなさい」
いい言葉ですね。これも私の言葉ではありません。
ゲーテという人の言葉です。
簡単ですがこれを私からの祝辞とさせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。
最後にもう一度、皆さん、おめでとうございます。
校友会会長祝辞
武蔵野美術大学校友会会長 萩原幸也
武蔵野美術大学校友会、会長の萩原幸也です。
本日、ご卒業を迎えられた皆さま、そして、これまで支えてこられた保護者の皆さま、ご家族の皆さま、大学教職員、スタッフの皆さまに、心よりお祝い申し上げます。
皆さんが過ごした学生生活は、まさに「変革の時代」の中にありました。
コロナ禍を経て、オンラインと対面が共存する学びの形が生まれ、社会の価値観も大きく変化しました。さらに近年、AIやテクノロジーの進化によって、クリエイティブの領域も大きな転換期を迎えています。
アート、デザインはその価値の再定義がされ続けています。皆さんがこれから進む世界では、創造性、クリエイティビティの力が、より多様な場面で求められることになるでしょう。
こうした社会の変化の中で、保護者の皆さま、大学教職員の皆さまも、多くのご尽力をされてきたことと、存じます。そのご功労に対し、改めて深く敬意を表します。
武蔵野美術大学校友会は、武蔵野美術大学の卒業生によって構成される同窓会です。本年で92周年を迎え、会員数は約76,397名となりました。そして本日、新たに1415名の校友を迎え入れることを、大変喜ばしく思います。
校友会は、卒業年度や学科を超えたネットワークを築く場として機能しています。芸術祭の後援や奨学金制度、市ヶ谷キャンパスの「コクリエーションスペースMa」の運営など、在校生や卒業生がつながり、学び続けられる環境を提供しています。皆さんも、卒業後はぜひこのネットワークを活用してください。
ここで少しだけ、私自身のお話をさせていただきます。2006年にデザイン情報学科を卒業し、現在は事業会社でクリエイティブディレクターとして働きながら、武蔵野美術大学においても社会人向け創造性学習プログラムVCPの立ち上げなど、いくつかのプロジェクトに携わっています。
学生時代の私は、芸術祭の執行部に3年間所属し、その中で実行委員長も務めました。在学中の大半を芸術祭に費やしました。非常に充実した日々でしたが、果たして私は大学時代に何かを身につけることができたのかと、懐疑的に感じる事もございました。
社会人となり、一見するとクリエイティブとは遠いような仕事もこなしながらも、デザインを学び直し、アートへの憧れから年間数百件以上の展示会へも、足を運び続けました。こうした本来関係のなかった一つ一つの点が最近になり繋がり何かを新しいものを生み出している感覚があります。皆さんもこれから様々な場所に進まれると思いますが、大学で学んだ数年と、これからの得ていく経験の繋がりを大切にしてください。
武蔵野美術大学の教育理念には**「真に人間的自由に達するような美術教育」**という言葉があります。きっと本学の学は、人生を通し形をなしていくのでしょう。
今、クリエイティブにまつわる環境は大きく変わろうとしています。AIが画像を生成し、動画を編集し、デザインの一部も担うようになっています。「人間だからこそできる創造」とは何なのか——私たちは、その問いと向き合い続けることになります。
しかし、行き着くところ、答えはシンプルです。
クリエイティブは、人間の営みである。
創造とは、単なる技術ではなく、「何を表現する」「何を伝える」という意思そのものです。そして、それを形にするのがこれからの皆さんです。
卒業生1415人、校友会総勢77,000人。皆さんはこの数字をどう感じますか?
今年日本全体では、約54万人の学生が大学を卒業します。
その中で、美術・デザインを学び、創造の力を磨いてきた皆さんは、極めて貴重な存在です。
これから社会はますます変化をし、テクノロジーも進化し続けるでしょう。
ですが、創造性は、AIには代替できません。
なぜなら、それを生み出し、使いこなすのは「人間」だからです。
私たちが今後、どのような時代を迎えたとしても、創造力を持つ皆さんの存在は、世界にとって必要不可欠です。
どうか、皆さん自身の創造性を信じ続けてください。
その先に、真に人間たる自由があり、そして真に人間たる社会が形作られていくはずです。
もしも今後、悩んだり立ち止まることがあれば、ぜひ校友を頼ってください。
私たちは、いつでも皆さんを支えていきます。
改めまして、本日はご卒業おめでとうございます。