令和2年度武蔵野美術大学卒業式典

日時 2021年3月27日(土)11:00開式
場所 武蔵野美術大学 体育館アリーナおよび各教室等

式次第

  • 開式の辞
  • 校歌斉唱
  • 学位記(卒業・修了証書)授与
  • 卒業・修了制作(論文)優秀賞授与
  • 学長式辞 学長 長澤忠徳
  • 理事長祝辞 理事長 白賀洋平
  • 教員祝辞 教授 源愛日児
  • 校友会会長祝辞 星啓子
  • 閉式の辞

会場風景

学長式辞

写真:長澤忠徳

武蔵野美術大学学長 長澤忠徳

2020年度、令和2年度、学位記授与者は、博士課程学位授与者1名、大学院造形研究科修士課程109名、今回が第一期修了生となります造形構想研究科修士課程63名、造形学部1,021名、造形学部通信教育課程109名、合わせて1,303名の学生諸君に学位記を授与できますことは、私たち武蔵野美術大学教職員一同の大きな喜びです。
この卒業・修了生の中には、181名の留学生の皆さんが含まれています。心からの祝福を贈ります。おめでとうございます。
また、学生諸君の勉学を支え、見守ってこられた保護者の皆さま・ご家族の皆さまの喜びもひとしおかと存じます。おめでとうございます。
我が国の美術大学を代表する伝統あるこの武蔵野美術大学に、ご子弟を学ばせていただきましたご理解とご支援に感謝し、本学を代表して心よりお礼を申し上げます。ありがとうございます。
ご存知の通り、2020年、昨年初め、突如襲ってきた新型コロナウイルス感染症の世界規模の猛威によって、この一年は、これまで経験したことのない、不安で、不自由で、非常に困難な毎日でありました。
昨年3月の2019年度の卒業式の開催は、断念せざるを得ませんでしたし、また翌4月の2020年度入学式も、やむなく断念せざるを得ませんでした。昨年度の卒業生諸君にとって、とっても大切な祝いの式典が開催できなかったことは、私たち教職員一同、心の痛む残念な思いとともに、学生諸君には、本当に申し訳なく思っていますことを、この場を借りて、一言、お伝えさせていただきたいと思います。

最近になって、我が国でもワクチン接種が始まったとはいえ、変異種の世界的蔓延も確認されており、今なお、終息の兆しは無く、世界中が悶え苦しんでいる状況が続いています。
そんな中、なんとか卒業式を開催したいとの思いから、緊急事態宣言が解除された後の今回の卒業式は、感染拡大防止対策のため、卒業生と教職員のみの参加とし、学生代表者と教員によるアリーナでの式典を、各学科それぞれに分散した会場に、映像で中継する方式で開催することとしました。
本来なら、一堂に会して喜びを分かち合うはずの保護者の皆さまのご来場も、ご遠慮いただき、映像配信とさせていただきました。事情に鑑み、どうかご理解いただきますよう、お願い申し上げます。

さて、私は学長就任以来、毎年の入学式で、「あの遥か彼方に見える水平線に立てるか?」と、創造的な生き方の根幹を支える「信じることの重要性」を問いかけてきました。
創造すること、クリエイティブであること、創造という未知への挑戦は、理屈を超えて、矛盾をひと飲みに飲み込んで、「水平線の上に立つ」ことを信じることに似ていると思うからです。
ところが、水平線に向かって漕ぎ出した私たちの航海は、この一年、全く予期せぬ大嵐に襲われ、荒れ狂う大波と暴風雨が襲いかかってきました。
本学では、昨年度開始にあたり、「ムサビ生の学びを止めない」ことを誓い、学事日程を大幅に変更して、美大の中でもいち早く、最終年次の皆さんにキャンパスに入ってもらい、アトリエで、スタジオで、作品制作と対面授業を開始しました。約2ヶ月の授業期間の延長も実施しました。
とはいえ、入国できない留学生諸君や、家庭の事情で来校できない学生諸君も多く、オンライン授業とのハイブリッドで対応しましたが、皆さんには、慣れない授業の仕方に苦労してもらうことになりました。
私たち教職員が最も心配したことは、学生諸君が、ちゃんと卒業制作や研究が全うできるか、作品の完成度はどうか…、教育の質を維持するにはどうすれば良いか…ということでした。
特別に組み替えた学事日程では、いつもなら1月に行われていた卒業・修了制作展の展示審査が、今月第2週に行われました。
私は、キャンパス全域に展示された作品を見ながら、大きな発見をしました。それは、言葉にすれば「創造の持久力」の確かな存在です。
先生方からも、一般公開の来場者の方々からも、「みんな、しっかりできている」「いつもより充実している」という感想を聞くことができました。

皆さんは、未曾有の困難の中で、「創造の持久力」を鍛えたんだ!ということに思い当たりました。ものごとを「創造」するには、精神的にも、肉体的にも、長い期間の集中に耐える「持久力」が必要です。
マラソンの選手が、持久力を高めるために、体力に負荷をかけて、あえて酸素の薄い高地でのトレーニングをするように、皆さんは、コロナ禍という負荷に耐えながら、一段と強い「持久力」を身につけたのだろうと思います。
心理的にも精神的にも、持続力を保ち続けなければ為し得ない「造形」という行為に、皆さんはコロナという負荷をものともせずに取り組んだのです。大変だっただろうと思います。しかし、それは自らの「創造の持久力」を高める鍛錬だったと言えるのではないかと思ったのです。

考えてみれば、皆さんの、このムサビでの日々は、「創造の持久力」を鍛える日々であったように思います。そして、最後の一年は、世界中がかつて経験したことのない高い負荷の中で、「持久力」を鍛えたのです。
そのトレーニングは、望んでできるものではありませんでした。余儀なくされてこそ、体験できた鍛錬だったのです。
コロナ禍という苦境をパワーに変えて挑んだ皆さんの創造への態度は、皆さんを「人=人間」として強くしました。「真に人間的自由に達するような美術教育」という本学の教育の理念に思い当たります。
今、私は、皆さんの頑張りを褒めたいと思います。「ムサビ生の学びを止めない」ことを誓った私たち教職員も大変な苦労をしましたが、皆さんは、しっかり、私たちの思いに応えてくださいました。この長期にわたる未曾有の困難に直面した中で、皆さんの持久力が鍛えられ、大いに発揮されたことを、とても誇らしく思っています。

今、母校を巣立ち、これから「創造の世界」という大海原に漕ぎ出そうとしている皆さんに、私からの「願い」を、もう一度、伝えたいと思います。
それは、「大海原の、あの遥か彼方に見える水平線の上に立つ」ことを信じ切る「意志」の存在を自覚して欲しいということです。「意志」という言葉の「意」という漢字は、「音」と「心」からできています。
自分にしか聞こえない「心の音」を、自分の外に表出すること、あらゆる可能な方法で、自分の「心の音」を自分の内から外へ現す「表現」への修練が、さまざまな体験を通した皆さんの本学での学びであっただろうと思います。
だから、自らの「心の音」に耳を傾けてください。それこそが「表現」の根幹をなすものだからです。その内なる「心の音」こそ、皆さんそれぞれの「個性」なのです。そして、コロナ禍という負荷に耐えて「創造の持久力」を高めることができた自分に、自信を持ってください。

「教養を有する美術家養成」「真に人間的自由に達するような美術教育」という本学の理念のもと、その教育は、美術・造形・デザインという専門分野の教育にとどまらず、その修練のプロセスを通して、本学に学んだ卒業生の皆さんは、創造的人間としての、表現者としての、「堅い意志」と、世界の多様性を受け止め理解する「寛容さ」、そして、幅広く柔軟な「わかるチカラ」を体得されたことと思います。
造形言語を扱う私たちの美術・デザインの分野は、もとよりグローバルなものです。そして、時代のキーワードは「イノベーション」だと言われています。時代はグローバルな「造形言語リテラシー」を体得し、「創造的思考」つまり「クリエイティブ・シンキング」を得意とする皆さんの活躍を待ち望んでいます。
クリエーターであり、イノベーターとして、その一翼をしっかり担い、鍛えた「創造の持久力」を存分に発揮し、さらに高めて、世界に羽ばたいていただきたい。新たな世界構築に挑んでいただきたい。私は、その期待と希望を、今、卒業される皆さんに託したいと思います。

大学生という人生の学びのひと区切りとして、今日、この武蔵野美術大学から旅立つ皆さんの活躍を信じています。満開の桜が皆さんの門出を祝っています。
今、万感の思いと期待を込めて、卒業生・修了生の皆さんに、お祝いのエールを贈ります。「おめでとう!」

理事長祝辞

写真:白賀洋平

学校法人武蔵野美術大学理事長 白賀洋平

学部卒業、通信教育課程卒業、修士課程・博士後期課程修了の皆さん本日はおめでとうございます。
そしてこれまで長い間、ご子弟を支援して来られましたご親族の皆様、おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。特にこの一年のコロナ禍の厳しい状況の中、 これを乗り越えて卒業を果たされた皆さんの懸命なご努力に対し深く敬意を表します。
この未曾有の災厄から得た経験、例えば自制心、ブレークスルー力、 等は今後の人生に必ずや役に立つことと思います。
本来、 本学伝統の独特の華やかな祝典として一堂に会して盛大に祝うべきところコロナ禍でご親族の方々のご出席もご遠慮願って、この様にリモートでの実施を余儀なくされたことは残念の極みであります。
皆さんは、入学以来、 一歩一歩、 歩みを重ね、 本日、武蔵野美術大学卒業・修了、学位取得と言う頂上を極められ、その頂点からいよいよ新しい世界へ第一歩を踏み出そうしているのであります。
果して皆さんを待っているのはどんな世界でしょうか。

人類への挑戦ともいうべき新型コロナは全世界の政治、経済、社会、市民生活の基盤を根底から揺るがし甚大な打撃を与え続けています。 ワクチン接種が始まり収束への期待が高まってはいますが、これを根絶する事は難しく当分、コロナとの闘いを覚悟しなければなりません。

一方で、 コロナ禍は社会にパラダイムシフトを起こし各分野で構造変革をもたらしています。
我々大学にとっても有史以来のオンライン授業の導入を余儀なくされたほか、 働き方においてはテレワーク・ズーム会議、イベントのバーチャル化、集中型から分散型、 巣篭り消費等が常態化してきています。
また、 コロナ禍はデジタル化の遅れなど日本経済がこれまで抱えてきた構造的な問題点を顕在化させデジタル庁創設、 小学生からのデジタル教育への取り組み等が決定されました。 これを契機としてDX(デジタルトランスフォーメーション)が一挙に進展することになりました。
AI、IOT、ロボテックス、等先端技術を取り入れ、あらゆる産業や社会生活において、より快適で豊かな「society5.0」いわゆる超スマート社会の実現を目指して大きく動いています。いわば第四次産業革命であります。

世界に目を転じますと格差問題を遠因とするポピュリズムや自国主義の台頭でこれまで普遍の原理と思われてきた民主主義体制や自由主義経済の盤石性に陰りが見られるという見方も出て来ています。 加えて貧困・飢餓、 気候変動、 エネルギー等世界の諸情勢が不透明感を増す中、全地球・ 全人類の持続可能な開発を目標とするSDGsが各国で取り組まれています。また、直近の米中対立は世界の大きな不安定要因になってい ます。
今は、まさに先の見えない激変期にあります。ブーカの時代ともいわれています。ブーカとは、「変動性、 不確実性、 複雑性、 曖昧性」の4つの英語の頭文字をとったものです。
こうした変化の時代にはこれまでの常識や慣例、 既成概念は通用せず斬新な発想で、これまでと違った新しい価値を創造してイノベーションを起こすことが必要とされています。大学は「知と人材の発信拠点」として現状を打開し、未来を切り拓く先端機能の発現が求められています。
その中で、今、芸術のもつ力が再認識されています。もともと芸術は創造的で直感力や感性によって「無から有を産む」力がその本質にあります。
現在の社会を変え、未来社会創出のため、この芸術の先進性・創造性を活かそうという動きが大きな潮流になってきています。
その拠点として期待されるているのが美大であり、 その先端に立つのがムサビであります。そして皆さんはそのムサビで育った俊才であります。社会をはじめ各界が創造性・革新性に富む皆さんの参入を首を長くして待っています。

本学の建学精神は「教養を有する美術家の養成」でありますが、皆さんはこの4年間で「教養を有する 逞しい 美術家」に成長されました。
皆さんは専攻した専門分野での知識・技能の習得、その土台としての基礎能力いわゆるリベラルアーツ的な教養を身に付け、その上に逞しさが加わったのであります。この「逞しさ」の所以を三つ申し上げたいと思います。

一つは「考える力、考える習性」を身に付け、 自分ならではの確りした座標軸・価値観・哲学を持ったことであります。
全精力を傾注し、心血をそそいだ作品制作を通して得たものであります。先日、 卒展・五美大展で皆さんの作品をじっくり鑑賞させて頂きました。
まさに、大学生活の集大成とあってコロナ禍を撥ね退け、いずれ劣らぬ力作揃い で大変感動しました。ここに至るまでには考え抜いてテーマを決め、構想を練って、進んだり退いたり、挫折を味わったり、光明を見出したりといった苦闘の中から希少性や独自の世界が生まれ、課題発見力さらには問題解決力、感性や創造的思考力が身に付いたものと思います。

二つ目は本学教育の真髄ともいうべき「講評」を通じて得た社会的対応カ・順応力いわゆるソーシャルスキルであります。
本学教育の本質は「考える・探究する・その成果を作品などの形にする、そして批評・評価を受ける」という一連のプロセスにあると思います。
芸術の価値は作者と鑑賞者・批評家との相互作用によって生まれるといわれています。皆さんは自分の作品を先生をはじめ同期生の前で発表し、批評・評価を受けたり、 逆の立場で批評・評価をしてきました。
この批評・評価というプロセスで身に付けたのが、プレゼンテーション能力、ディベート能力、 そしてコミュニケーション能力であります。
自分の考え・意図を伝える力、わかりやすく説明する力、相手の伝えたいことを理解する力、質問する力、双方の情報を提供しあって相互理解を深め人間関係を築く力であります。
このソーシャルスキルは現代社会が最も必要としている素養であり才能であります。そして、これがムサビ生のムサビ生たる所以で、これまでに培ってきた専門性・創造力が相まって各分野から高く評価されているムサビ生の強みであります。

三つ目は多くの人との交流を通じて得た多様性であります。
大学では美意識や人生観の違う人、性に合う人・合わない人、 学外の人、畑の違う人等いろいろな出会いがあったことと思います。
先生が目覚めさせてくれた美術に対する多面的な思考・表現方法、異次元の発想、多くの友人との侃侃諤諤の議輪・切磋琢磨、 課外活動などで培った絆意識・思いやりの心等はその成果であります。
自分の信念は守りつつ、違いを刺激にしたり、時に自制したりして、異なる価値観を受け入れて自らを高め共感性、寛容性、自利利他の精神等を身に付けた事はこれからの多様な社会を生き抜くために大いに役立つことでしょう。

皆さんは、これから作家になろうという人、教職に就こうという人、企業で活躍しようという人、 大学院でさらに深奥を極めようという人その進路はいろいろですが、どの道に進まれようとも、この三つの逞しさを身に付けた皆さんの優位性は揺るぎないものと確信しています。
人材雲のごとしと言われるムサビで鍛え抜かれた自信と誇りをもって果敢に挑戦し未来を、新しい世界を切り拓いていって頂きたいと思います。

本日をもって皆さんは本学を卒業・修了されそれぞれの世界に旅立たれるわけですが、卒業後も大学は皆さんの心の拠り所でありたいと願っています。 大学との絆を継続して頂きたいと思います。
時には大学に顔を出していただいて知識や技能のブラッシュアップや情報交換の場として利用してください。
将来は本学と共同して社会連携活動あるいは事業展開などがあってもいいのではないかと思います。
現在7万人を有する校友会活動にも積極的に加わっていただき後進の育成にもご協力いただきたいと思います。

最後に一言申し上げて終ります。月並みな言葉ですが、

生涯、探究心を持ち続けてください。

そして日々「なぜか、これでいいのか、他にないか」

この気持ちを忘れないで
ご健康にご留意のうえ大いなる飛躍を祈念します。

本日は誠におめでとうございます。

教員祝辞

写真:源愛日児

武蔵野美術大学教授 源愛日児

 

 

 

 

 

校友会会長祝辞

写真:星啓子

武蔵野美術大学校友会会長 星啓子

本日はご卒業おめでとうございます!
学びを止めず、ご卒業を迎えられた皆さま、温かく見守っていただいた保護者の皆さまには心よりお祝い申し上げます。
この一年余り、新型コロナの流行にはホントにまいりました。世界中の人々が見えない敵に右往左往し生活が一変しました。
皆さまも、これほど学校を恋しく思ったことはなかったのではありませんか?
先生方もオンライン授業で如何に生徒に伝えるかご苦労されたと思います。学長ならびに諸先生方のご功労に対し、改めて敬意を表したいと存じます。
思えば昨年の今頃、大学より「ムサビ生の学びを止めない」というメッセージが発信されました。校友会としても力になりたいと、直ぐに校友会の皆さまに募金を募り、寄付をさせていただきました。
校友会は、武蔵美卒業生で構成され、現在7万人を超えています。会員相互の親睦を図り、卒業後も大学との関係を密にし、母校の発展に寄与することを目的に活動しております。

私は、通信の油絵学科を卒業し、絵を描きながら校友会活動をしております。さすがに昨年は、色々な事が急停止してしまいましたが、振り返るいい機会になりました。

絵は、子育てが一段落した頃始め、気付いたら公募展チャレンジを楽しんでおりましたが、10年も経つと、何やってるんだろうとわからなくなりました。悩みも頂点に達した頃、ムサビ通信を知り、藁をもつかむ思いで入学しました。在学中は、仕事と家事の合間に時間を作り学んだものです。悩みながら描いていると「今、わからなくても、諦めないで思い続けるといつかはわかる時がくる。」という先生の一言で、今も一生懸命絵を描くことができています。
また、最近は多くの卒業生とお会いする機会があるのですが、お一人お一人が輝いた人生を送られていることに気付きました。察するに、共通点は、皆さん絵が描けることのように思われます。それが当たり前のように思われるかもしれませんが、世の中皆が皆そうでもないのです。いくつになっても自己表現できる術を持っているって、ムサビで培った一生の宝物だと思われます。

卒業生の皆さま、これからが人生の本番です。何事もポジティブにムサビパワーで乗り切りましょう。校友会は、皆さまをいつも応援しております。皆で頑張りましょう。
以上をもちまして、皆さまへのお祝いの言葉とさせていただきます。本日はご卒業おめでとうございました。