平成30年度武蔵野美術大学卒業式典

日時 2019年3月16日(土)10:00開場 11:00開式
場所 武蔵野美術大学 体育館アリーナ

式次第

  • 開式の辞
  • 校歌斉唱
  • 学位記(卒業・修了証書)授与
  • 卒業・修了制作(論文)優秀賞授与
  • 学長式辞 学長 長澤忠徳
  • 理事長祝辞 理事長 天坊昭彦
  • 教員祝辞 教授 新島実
  • 校友会会長祝辞 佐奈芳勇
  • 閉式の辞

会場風景

式典スタッフ

総合監修 別所晃吉(株式会社フジアール)
演出・プロデュース 大瀧大(株式会社フジアール)
デザイン 内山真理子(株式会社フジアール)
技術・照明 佐野健太郎(株式会社フジメディアテクノロジー)
毛利克也(株式会社フジメディアテクノロジー)
映像 野崎裕康(株式会社マルチバックス)
装置制作 西田裕一(株式会社フジアール)
アートフレーム 石井智行(株式会社エスケイシステム)
特殊装置・ビジョン 日下信二(株式会社テルミック)
造園 広田明(株式会社野沢園)
特殊効果 鈴木希望(有限会社東京特殊効果)
リーフレットデザイン くすかわひろゆき(株式会社フジアール)
配信 白石学(武蔵野美術大学)
渡辺真太郎(武蔵野美術大学)
司会 加藤徹(武蔵野美術大学)

学長式辞

写真:長澤忠徳

武蔵野美術大学学長 長澤忠徳

本日、ここに、博士学位授与2名、大学院造形研究科修士課程125名、造形学部968名、造形学部通信教育課程129名、合わせて1,224名の卒業・修了の学生諸君に学位記を授与できましたことを、私たち武蔵野美術大学教職員一同は、心から嬉しく思い、祝福いたします。

この卒業・修了生の中には、海外から武蔵野美術大学に入学され、学ばれた107名の留学生の皆さんが含まれています。大学院修了生、造形学部卒業生のみなさん、おめでとうございます。

また、学生諸君の勉学を支え、見守ってこられた保護者のみなさま・ご家族のみなさまの喜びもひとしおかと存じます。おめでとうございます。
我が国の美術大学を代表する伝統あるこの武蔵野美術大学に、ご子弟を学ばせていただきましたご理解とご支援に感謝し、本学を代表して心よりお礼を申し上げます。ありがとうございます。

「教養を有する美術家養成」、「真に人間的自由に達するような美術教育」という本学の教育目標は、本年度、創立以来90年目を迎えた帝国美術学校から続く武蔵野美術大学・造形教育の理念でありますが、その教育は、美術・造形・デザインという専門分野の教育にとどまらず、その修練のプロセスを通して、創造的人間としての「堅い意志」と、世界の多様性を受け止め理解する「寛容さ」、そして、幅広く柔軟な「わかるチカラ」を育むものであると、私は信じています。

思えば、今日、平成の時代最後の卒業式を迎えられた学部生のみなさんは、4年前、私が学長として初めて登壇した入学式で、本学に入学されました。
「あの遥か彼方に見える水平線に立てるか?」と、あの時、私は、創造的な生き方の根幹を支える「信じることの重要性」を問いかけました。

創造すること、クリエイティブであること、創造という未知への挑戦は、矛盾をひと飲みに飲み込んで、理屈を超えて「水平線の上に立つ」ことを信じることに似ていると思います。

美術大学に進学することを決めた時も、きっとそうだったと思いますが、本学に入学された時から、すでに「あの遥か彼方に見える水平線の上に立つ」航海は始まっていたのです。そして今、みなさんの航海は、さらなる大海原に漕ぎ出す段階にあります。

母校を巣立ち、これから「創造の世界」という大海原に漕ぎ出そうとしているみなさんに、もう一度、私からの「願い」を伝えたいと思います。それは、「大海原の、あの遥か彼方に見える水平線の上に立つ」ことを信じ切る「意志」の存在を、もう一度、自覚して欲しいということです。

「意志」という言葉の「意」という漢字は、「音」と「心」からできています。自分にしか聞こえない「心の音」を自分の外に表出すること、あらゆる可能な方法で、自分の「心の音」を自分の中から外へ現す修練が、様々な体験を通したみなさんの本学での学びであっただろうと思います。

だから、自らの「心の音」に耳を傾け、しっかりとその音を聴いてください。それこそが「表現」の根幹を成すものだからです。その内なる「心の音」こそ、みなさんそれぞれの「個性」なのです。表現者であるみなさんは、自らの「心の音」を聴くことを、折にふれて大切にしてください。

世界はグローバル化が進んでいます。クリエイティブな「表現」という「地球人としてのみなさんの振る舞い」は、以前にもまして、世界に大きな影響を与えるものとなって来ています。
造形言語を扱う私たちの美術・デザインの分野は、もとよりグローバルなものでもありましたが、グローバル化の潮流だけに翻弄されることなく、違いがあるからこそ意味をなす、地域固有の文化のアイデンティティを尊重することの重要性も、今一度、再認識してください。

時代のキーワードは「イノベーション」と言われます。今年5月には、年号も変わり、時代は、節目をむかえています。来年2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック、さらにまた、2025年には、大阪万博の開催が予定されています。時代は、みなさんの活躍を待ち望んでいます。クリエーターでありイノベーターとして、みなさんには、その一翼をしっかり担って、飛躍のチャンスをつかんでいただきたいと願っています。

学生諸君の人生の学びのひと区切りとして、今、この武蔵野美術大学を旅立つ、輝くみなさんの眼差しには、嬉しさと喜びがあふれています。
平成の時代最後の、そして創立90年目となる今年の卒業式は、時代の区切りという特別の意味を持っていると思います。

今年は、このステージが回っています。
私は、今、ある歌の一節を思い出しました。みなさん、耳にされたことがあると思います。

“まわるまわるよ 時代はまわる”

時代がまわる…のではない! …みなさんが「時代をまわす」のです。みなさんの活躍を、大いに期待しています。

最後にもう一度、万感の思いと期待を込めて、旅立つみなさんに、お祝いのエールを贈ります。
おめでとう!

(“ ”は、中島みゆき氏の「時代」より引用)

理事長祝辞

写真:天坊昭彦

武蔵野美術大学理事長 天坊昭彦

皆さん、おはようございます。理事長の天坊です。
卒業生の皆さん、卒業おめでとう。
卒業生のご両親はじめ本日ご列席の皆さん、おめでとうございます。
入学から卒業までいろんなご苦労やご心配もあったかもしれませんが、本日は少しほっと肩の荷が降りた気持ちでおられるのではないでしょうか。卒業生を支えてこられた皆様のご支援に心から敬意を表し、改めてお祝いを申し上げる次第です。

さて、皆さんご承知のことですが、平成の御代はあと1か月と少々で終わります。本日は、平成最後の記念すべき卒業式となりました。そこで、という訳でもありませんが、本日卒業される皆さんの大多数の方が出席された4年前、平成27年4月の入学式で私が話したことをちょっと思い出して頂きたいのです。どの位の方が覚えておられるかわかりませんので、要点を申し上げます。

「皆さんは、これからアートやデザインを学ぶことになりますが、この大学で行っている教育、とりわけ創作活動は、美術の技術力を磨くと同時に、考える力を鍛え、コミュニケーション力を高める教育を行っているということ。
今、世の中で求められている人材というのは、個性ある人材です。個性ある人材というのは、しっかりした自分の考えを持ち、相手と対話をしながら、相手を説得できる能力、即ちコミュニケーション能力の高い人材のことです。つまりムサビは、今世の中で求められている人材を育成しているということ。
だから皆さんはしっかり勉強して、こういう力をつけておけば、アートやデザインに限らず、どういう方向に進もうと、世の中で充分やって行けるようになる筈です。
そして、在学中に心掛けて欲しいこととして、以下の3点を要望しました。

  • 「フィールドワーク」に参加し、実際に社会の人達と触れ合う実践を通して、視野を拡げておくように。
  • 英語力を高める努力をしておくように。
  • 大学の4年間は振り返ってみればあっという間の短い期間。それ故時間を大切に使うように!」

ということでした。

皆さん、振り返ってみて如何でしょうか?
卒業生の皆さんが4年間毎日のようにやってきた創作活動とそのプレゼンテーションは、美術に対する能力向上を狙っているのは確かです。しかし一方でこの教育の本質は、考える力、特にコミュニケーション能力を高める教育でもあったということは、実感されていると思います。こんなにすごい教育を4年間も受けられる大学は他にはあまりないでしょう。あなた方は企業や社会が常に求めている人材なのです。是非、自信を持って下さい。

「教養ある美術家の養成」というのは、本学の理念です。この大学で4年間学んだだけで、教養ある美術家になれる訳ではありません。美術家を志す皆さんにとっては、教養ある美術家になる為の基礎を身につけたところであり、これから一生かけて自分自身を磨き続ける努力が必要です。美術家としてだけではなく、ビジネスの世界に進む皆さんにとっては、先ずは各々のビジネスに必要な知識を習得する必要があります。その上で他の人と違った自分らしい意見をまとめ、考える力を遺憾なく発揮して下さい。4年間で鍛えられた皆さんの考える力は大きな武器になるはずです。

いずれの道に進もうとも、ムサビで学んだことを基礎に、これからあなた方が更に研鑽を積んで、社会で活躍される実績が、これらかのムサビの伝統を作っていくことになるのです。ですから、ムサビで学んだことに誇りを持って、あなた方一人ひとりがこれからの良きムサビの伝統づくりに貢献できるように努力してくれることを大いに期待しています。

今、「自信と誇りを持って」と言いましたが、あなた方はまだ実社会の経験が殆どない初心者です。だから、今すぐに「自信と誇り」を出し過ぎると、「傲慢な人」とか「自惚れている」と思われて、決して良いことではありません。「自信と誇り」は自分の心の中で持ち続けて下さい。大学で勉強してきたと言っても、実際の世の中はもっと複雑で人間の感情やいろんな利害が絡み合っていることが多いです。だから先ずは謙虚になって、人の話を良く聞いて、その上で良く考えて行動し、又話を聞いて考え、再び行動するというぐらいの謙虚さが必要です。そして、経験を積むことが重要です。こういう経験を積み重ねていくうちに、人間の機微というものが解るようになってきます。そうなると学問も活きてきます。先ずは謙虚になることを忘れないで下さい。
最後になりましたが、卒業生の皆さん、本日あなた方が無事卒業できるように、陰に陽に懸命に支え続けて下さった、ご両親はじめお世話になった方々に改めて感謝の気持ちを胸に刻み、是非ともこれからは折に触れて恩に報いる気持ちを忘れないようにして下さい。

「心の中で自信と誇りを持ち続けろ!」
「謙虚になれ!」
「感謝の気持ちを忘れるな!」

この3つの言葉を贈る言葉として、私の祝辞を終わります。

教員祝辞

写真:新島実

武蔵野美術大学教授 新島実

卒業生の皆さん、そしてご臨席いただいているご家族の皆様、卒業おめでとうございます。視覚伝達デザイン学科の新島と申します。本日は教員を代表してお祝いの言葉を述べさせていただきます。

じつは私もこの3月をもって武蔵野美術大学を定年によって退任、卒業いたします。退任する人間はどうしても自分の過去を振り帰ってしまいます。しかし皆さんは、過去を振り返るよりは明日への期待で一杯だと思います。自分もそうだったので良く分かります。だから皆さんと同時に退任する教員にとって卒業式の祝辞ほど難しいものはありません。過去を振り返る自分を見ながらもこれから造形の世界に専門家として旅立とうとしている皆さんに何を伝えたら良いのかと。もう3ヶ月ほど悩んでおりました。しかし幸運なことにとても良い言葉が身近にありました。

10年ほど以前になりますが、本学の創立80周年の記念の年に、記念事業の一環として大学を象徴するスローガンが作成されました。それは『生きる、をつくる。つくる、を生きる。』と言うごく普通の言葉を使いながらも、じつに深く造形に関わる者の心の内を言い当てている魅力的なスローガンでした。当時油絵学科に在籍していた学生さんによるものだと聞いております。残念なことですが現在は使用されていません。造形に関わるものにとっての自己の内にある表現欲求と社会性とのジレンマを言いつつ制作者としての生き様を見事に表現してくれています。いくらでも広く深く読み取ることの出来る言葉です。

武蔵野美術大学に所属する教員は、定年による退任にさいして退任展か最終講義のどちらかを選び最終年度を迎えることが慣例となっています。私は迷わず退任展を選択しました。大学の教員としての活動を始めてから「教育」「研究」「制作」の三本柱を自身に課してきました。なかでも「教育」の占める時間の割合は大きかったのですが、それはよく大学の教員から聞くような「負担」としての時間では無く「創造」に満ちた実に楽しい時間でした。ですから退任展は私の作品だけで無く4年次の私のゼミの卒業生の皆さんの作品と共に行いたいと考え、昨年の9月に美術館で開催することができました。120名もの卒業生が参加してくれました。そしてこの展覧会からは幾つもの心に残ることが有りました。展覧会の企画運営は全て卒業生の方達が中心になって展覧会を造ってくれました。展示された作品の質は素晴らしく、教員として誇らしいものでした。日本の広告やグラフィックデザインの一番先を走っている多くの卒業生達、また一人自分の世界と向き合っている卒業生達もいます。今ここに手にしているのがその展覧会の図録です。大学に於いてデザイン教育の成果はやはり卒業制作が一番分かり易いでしょう。しかし真の教育の成果をと問われれば、卒業生の社会での評価によります。それらがこの一冊の中に綴じられています。

展覧会のオープニングの当日、美術館の入り口付近はお子さんを連れた若いお母さん達の姿が見えました。子育てをしながら仕事を続けている卒業生達、産休中の卒業生達。展覧会には参加出来なかったけど来ましたと。

オープニングの企画として20年前の私の最初のゼミ生、神田さおりさんが、ペインティングのパフォーマンスを演じてくれました。30分間ほどの素晴らしいパフォーマンスでしたが、一世代若い卒業生の未だ就学前の小さなお嬢さんが最後までじっと見つめていることに私は感動していました。造ること、表現すること、そしてデザインすることの魅力が世代を超えて繋がっていくのを目の当たりにしたからなのですが。このような経験は授業では絶対に得られないものです。また展示作品の中には、結婚して仕事を辞めて家庭に入りながらも、ほぼ10年間に渡っての子育ての記録を自ら描き言葉を添えてブログに起ち上げている卒業生もいました。会場に並べられた卒業生の作品を1点1点見ていくうちに、作品を支えている卒業生達の人生が感じられるようになっていきました。それぞれの仕事の規模や環境を超えて見えてきたのは120名の全て異なる『生きる、をつくる。つくる、を生きる。』の姿でした。私の経験から照らし合わせても、それぞれの仕事の背景にはなかなか人には言えないことなどがあることが容易に想像出来ます。それでも作ることの人生は実に楽しく今まさに『生きる、をつくる。つくる、を生きる。』を生きていることが伝わってきました。目に見えないことを形にすることのおもしろさを、もう既に知っている卒業生、知り始めた卒業生、知ろうとしている卒業生など全て異なる場所で活動をされています。相当に面白い世界です。勿論それなりの責任が課せられてはいますが。

形を造る学びの4年間は皆さんをかなり強くしてくれたものと思います。見えないものを形にする能力は社会の中で強く期待されています。そしてここが肝心なのですが、社会からの要請と自身の表現が重なったときの喜びはたとえようがありません。この感動を皆さんにも是非経験して欲しいと願うものです。しかも対価としてそれは金銭に換算されます。

皆さんも皆さんの『生きる、をつくる。つくる、を生きる。』を生きてください。私はこの『生きる、をつくる。つくる、を生きる。』を50年間続けていますが、大きなご褒美をいただくことになりました。『生きる、をつくる。つくる、を生きる。』を続けていれば必ず皆さんにもご褒美が待っています。皆さんのこれからの活躍を期待しております。卒業おめでとうございます。

校友会会長祝辞

写真:佐奈芳勇

武蔵野美術大学校友会会長 佐奈芳勇

卒業生の皆様、ご家族の皆様、本日は誠におめでとうございます。
武蔵野美術大学校友会を代表して一言お祝いを述べさせていただきます。
1200名余の皆さんはこれから校友会の新しい会員となります。校友会は発足して86年、会員数はこの4月で7万人を超えます。全国の校友が様々な分野でユニークな仕事をし、新しい時代を切り開く大きな存在となっています。皆さんも、大いに活躍されるでしょう。

皆さんがこれから生きていく世界では、情報革命やAIによって仕事に大きな変化が起きていくといわれています。誰も経験したことがない便利でより良い世界が始まるかもしれません。同時に、今必要とされることも、数年後には不要になってしまう可能性があります。ある仕事はなくなり、新しい仕事が生まれます。技術はどんどん進化していくでしょう。それに伴って、ものの考え方も変わっていかざるを得なくなると思います。社会は流動的になります。皆さんの両親が生きてきた方法は通用しないこともあるでしょう。同時に人生は100年の時代を迎えています。今後20年もたてば、皆さんには定年という言葉が無くなるかもしれません。非正規雇用が拡大するかもしれません。長時間労働は減っていくかもしれませんが、長期間労働が当たり前になるでしょう。

長い人生を、何のために過ごすかが重要です目先の利益よりも、社会がより良くなるための価値を考え続けていれば、必ず皆さんの出番がやってきます。今必要なことよりも、いずれ必要になるものへの想像力を持ち続けてください。大切だと思ったことは、こだわり続けてください。それは、皆さんがそれぞれ好きなことの中にあるはずです。好きなことがある人はがんばれます。美大の卒業生だからこそ、選べる道だと思います。

同時に、自分の本質を持ち続けるためには、揺れ動く社会の中で少しずつ自分のある部分を変える必要があります。仕事の中で、新しい自分が発見できるでしょう。希望を実現するためのスキルを身につけることが必要です。

同じ問題意識を持った皆さんの先輩が各地にいます。これからは皆さんのお手元に年2回、校友会の会報誌が届きます。ぜひ校友会を通じてつながりを持ち続けてください。
校友会からのお祝いとお願いの言葉とさせていただきます。