武蔵野美術大学卒業式典

本年は全体の式典をやむなく中止し、3月18日(金)に平成22年度証書(学位記)授与式を実施しました。

冒頭、今回の東日本大震災で犠牲となられた方々に哀悼の意を表し、1分間の黙祷が捧げられ、続いて、高井邦彦理事長、甲田洋二学長より、卒業・修了生に対しそれぞれメッセージが贈られました。

理事長挨拶

学校法人武蔵野美術大学理事長 高井邦彦

卒業生の皆さん、本日はおめでとうございます。
そして、ご家族の皆様、心からお祝い申し上げます。ただ一つ、東日本を先週末、突如襲った巨大地震・津波、そして続いての福島原子力発電所事故発生と、想像を超える大事故が重なり合いました。 多くの人々がその真っ只中で、生き抜くためにがんばっておられる現状をかみしめ、文字どおり苦渋の選択としてこういう形になりました。

卒業生の皆さん、この4年のうちにさまざまなことが起こりましたが、このたびの巨大災害とその最中での卒業証書授受は、万感がこもる思い出になりましょう。

さて、わがムサビですが、一昨年、皆さんともども、80周年を祝いました。昨年春には、新図書館を完成し、この6月には美術館の改築・改装を終え、新しい美術館・図書館を誕生させます。これからは、このキャンパスの北部を横切って走る都道333の建設が始まります。それに伴い、大学も新しい校舎を建設し、この機会にわが大学を新しく、そしてより機能的に創り上げて行きます。

一方、大学の外の世界は、この4年間、より大きく激動しています。この間の世界大不況は政治・経済を揺さぶり、それまでのアメリカを核とする日・欧・カナダという先進国構造を大きく変えました。とりわけ中国の発展は目覚しくGNPベースではわが国を抜き、世界二位の大国に躍進しました。インド・韓国・ロシア・ブラジルを始め、アジア・中南米の国々も着実に体力をつけました。そして今、中東・北アフリカでの激しい民主化の動きがあります。若者の厚い層のうねりと様々な携帯の電波が、時代の象徴です。

この世界激動を背景に、日本東部では大地震・津波が起こり、今国内には、電力・燃料・生活物資の供給不安が高まっています。

そして、こういう時に、いよいよ皆さんの巣立ちのときが来たようです。前方には大きく広がるさまざまな人々が生活している世界があります。さらに私の時代には夢に近かった「宇宙」までが、皆さんの時代には挑戦すれば応えてくれる時代になりました。皆さんは世界の若者と肩を組んで、時には楽しく、時には苦しい、様々な挑戦を始めねばなりません。今これからなにをして行くべきか、私の提言です。

一つ目、常に世界の大きな流れをつかむ努力をすること。情報のメディアは自由です。

二つ目、やはり英語がここ当分世界のコミュニケーション・ツールになります。英語習得への努力が益々肝要です。

三つ目、そして最後ですが、この4年間、自分の身体に浸み込ませてきた「美術」の炎を、大切に燃やし続けてください。美術こそ、これからも皆さんの豊かな心の源泉になってくれるでしょう。

元気いっぱい 大きな空へ! 祈ります。

学長挨拶

武蔵野美術大学学長 甲田洋二

本日、ここに卒業・修了を迎えた皆さん、おめでとう!!

造形学部、大学院、通信教育課程、そして各国からの留学生を含め合計1,330名を超える卒業・修了生を送り出すことができるのは、全教職員の大いなる喜びとするところです。心よりお祝いを申し上げます。

3月11日の東日本大震災及び東京電力福島第一原発による未曾有の大災害がありました。その諸々の影響により、式典を含む従来の卒業式の挙行を取りやめました。皆さんの身の安全を考慮して、本日のように学科別に分散しての卒業・修了証書、つまり学位記授与式になりました。

この方式についても、なお中止すべきとの配慮ある意見もありましたが、私としては学生時代の最後を、出来る限り多くの仲間とこの時間を共有すべきと思い、実施を決断しました。皆さんの万感察するに余りありますが、諒承願いたく思います。

さて、本日武蔵野美術大学を巣立ってゆく皆さんにとり、どのような大学生活であったのでしょうか。充実した造形への研鑽を積んで、個々の時差はありましょうが、それぞれの目指す領域へ進んで行くものと思います。

一方、社会状況は皆さんの大学生活にとり、かなり厳しい環境だったと思います。リーマン・ショックによる世界的恐慌の中において、日本の経済も苦しい状態から抜け出せず、そのことが皆さんの社会参加にも大きな陰りを生み、就職も儘ならぬ人々も少なくありません。そして選りにも選って皆さんの卒業時に於いて、この大災害に直接・間接に遭遇することなど、誰が予想出来えたでしょうか。巡り合わせとはいえ、天は若い皆さんの世代に苛酷な試練を与えている様な気さえするのです。

被害の実体もいまだ把握出来ぬ状態であり、おそらくは戦後における第一の災害になりましょう。また、原発事故は人智を超えた大惨事の予感すらします。

しかし、皆さんは若き強靭なる感性をもって今展開されている自然のもつ計り知れぬ巨大なエネルギーを否応無く見せつけられ、そして計り知れぬ大きな不幸の進行形を感じ取っています。色褪せた「自然と人間」の関係の「問いなおし」を迫ることが許されるのは皆さんなのです。人間の原点を再構築出来うるのは君達なのです。若さの特権であります。

この現実は、今日、本学を巣立つ皆さんにとり、厳しいながらも絶好なる機会の到来と考えるべきと思います。幾多の困難を乗り越えながら、やがて、日本的スケール、否、世界的スケールをもって復興へと向かいましょう。

その時、地球人に対して誇れる「まち」作り、「国」作りは必然でありましょう。この途轍も無い自然の破壊を、涙を飲み込みながら受け止め、そこからその自然との共有をしっかりと探り、真に地球にやさしい世界を作りあげねばなりません。それには長い年月の持続が必要でありましょう。それを成し遂げるエネルギーを充分すぎる程持っているのは、皆さんなのです。

ムサビで学び、研鑽を積んだ造形の力、美の力、そして独自な創造力を育んで来た皆さんが必要とされると信じております。健康に細心の注意を払い、ゆっくりとあわてず、堂々と自分の行くべき道に邁進していって下さい。その過程において必ずや世界が君を求めている事を実感することでしょう。

元気で行きましょう!!

卒業おめでとう!!