平成26年度武蔵野美術大学卒業式典

日時 2015年3月17日(火) 10:20開場 11:00開式
場所 武蔵野美術大学 体育館アリーナ

式次第

  • 開式の辞
  • 校歌斉唱
  • 学位記(卒業・修了証書)授与
  • 卒業・修了制作(論文)優秀賞授与
  • 学長式辞 学長 甲田洋二
  • 理事長祝辞 理事長 天坊昭彦
  • 教員祝辞 教授 内田あぐり
  • 校友会副会長祝辞 南部昌亮
  • 閉式の辞

会場風景

式典スタッフ

総合演出 堀尾幸男(空間演出デザイン学科教授)
舞台監督 北條孝 / 本田和男 / 有馬則純(有限会社ニケステージワークス)
照明 原田保 / 田中剛志 / 上田美佳(株式会社クリエイティブ・アート・スィンク)
音響 市来邦比古(株式会社ステージオフィス) / 吉田豊(有限会社サイバーテック)
特効 南義明 / 酒井智大(株式会社ギミック)
舞台施工 延島泰彦 / 古川俊一(東宝舞台株式会社)
リーフレットデザイン 大竹竜平
オープニング音楽制作 クリストフ・シャルル(映像学科教授)
オープニング映像制作 三浦均(映像学科教授)(画像素材提供 NASA/ESA)
映像配信 渡辺真太郎(デザイン情報学科助手)
司会 村岡弘章(教務課教務担当課長)
制作進行 大野洋平 / 開田ひかり(空間演出デザイン学科助手)
協力 楫義明(芸術文化学科教授) / 白石学(デザイン情報学科准教授) / 芸術文化学科 / 映像学科 / デザイン情報学科 / 空間演出デザイン学科学生有志
特別出演 堀尾ゼミ / 空間演出デザイン学科学生有志

学長式辞

写真:甲田洋二

武蔵野美術大学学長 甲田洋二

卒業、修了を迎えた皆さん、おめでとう!

本日、造形学部、大学院修士課程、博士後期課程、通信教育課程、そして各国からの留学生69名を含め、1227名が卒業していきます。様々な夢を持って社会に羽ばたいていく皆さんを心から祝福致します。
御臨席の保護者、ご家族の方々においては、本日まで様々な思いをお持ちだったかと存じます。それだけに本日のお慶びもひとしおかと拝察します。誠におめでとう御座います。

本日卒業する皆さんは、4年前の、異例の学科別分散方式の入学式を思い出していることでしょう。当時、東日本大震災、及び福島原発事故による影響を配慮し、止む無く学事を変更しました。私達の日常生活そのものが、自然災害によって根底から揺るがされることに加え、人的災害によって深刻化する問題や、それらに対処しきれない現代社会の脆弱さが浮き彫りとなるなか、皆さんの大学生活は始まりました。

不安やもどかしさが募る厳しい時期にも、被災者支援のために多くの学生が、様々な活動に参加したと聞いています。
学生として社会に関心を持ち、アトリエや教室の外で経験したことも、皆さんの原点の一つになるでしょう。短期間であっても、人に頼られる、人の役に立てるという経験はその人を大きく成長させるからです。成長とは、それまで出来なかったことが出来るようになること、想像力を更に広げられるようになることを意味し、時には大事な発想の転換をもたらすものです。

本学は、創立時の帝国美術学校時代から「教養ある美術家養成」「真に人間的自由に達する美術教育」を理念とした清新な想像力を持った美術家・デザイナーの養成に努めてきました。皆さんの造形への研鑽の日々は、簡単に「正解」を勝ち取れるものではなく、自分をさらけ出し、謙虚さと大胆さとを併せ持って挑戦するものだったはずです。
そして最終的には自らの「答え」を導きださなくてはならない醍醐味や面白さをも味わったのではないでしょうか。短時間で安易な対応を求め、ややもすると成果のみが重要視される社会と対峙する造形(創造)活動は、我慢を伴った長い道のりを正直に歩む中で、徐々に己の独自性が見いだされ、創られる作業なのです。こうした地味な作業は、やがて他者に対する深い理解と尊敬の念を育むことになります。私はこれを「美の力」を呼んでいます。既成概念にとらわれない造形活動を通じて「美の力」を育んだ本学卒業生は、日本のみならず、世界からも必要とされています。

最後に、これまでになく情報過多の時代において、事物の真の姿を見抜き、確かな判断力を持つことも不可欠です。造形活動の基盤である表現の自由や、言論の自由を謳歌しつつ、豊かな教養知識に支えられる確かな判断力、自分を律する力や責任感を持ち続け、あゆみ続けて下さい。国際社会、地域社会で多文化共生や成熟した社会の在り様が模索される中、皆さんが「美の力」を持ってそれぞれの形で活躍することを期待しています。

健康に配慮し、頑張りましょう!!

理事長祝辞

写真:天坊昭彦

学校法人武蔵野美術大学理事長 天坊昭彦

理事長の天坊でございます。卒業生の皆さん、卒業おめでとう。
ご列席のご家族の皆さん 本日は誠におめでとうございます。
心からお祝いを申し上げます。

本日は3つのことを申し上げます。
1つ目です。
これは今から51年前、私が出光興産という石油会社の入社式で新入社員として出光の創業者から直接聞いた話です。
それは「卒業証書を捨てよ!」ということです。これが大学を出て入社した社員に向かって最初に発せられた言葉でした。
しかし、私も後に出光の社長になった時から、入社式で同じ話をしてきました。今日は大学の卒業式ですが、皆さんにも参考になる話だと思うので話します。
これは比喩的な表現です。実際に卒業証書を捨ててしまえということではありません。
その意味するところは、大学で勉強して来たかもしれないが、それは大学の机の上で考え、議論して来ただけではないのか?実際の世の中はもっと複雑で、人間の感情やいろんな人の利害が絡み合っていることが多い。だから、先ずは、謙虚になって、人の話を良く聞いて、その上で良く考えて行動しなさい。そして又、話を聞いて考え、再び行動するというくらいの謙虚さが必要だ。
分かったつもりで卒業証書を振りかざしても仕事は進まない。先ず謙虚に人の話を聞いて、経験を積むことが重要だという話です。
こういう経験を積み重ねていくうちに、人間の機微というものが解るようになって来る。そうなると学問も活きて来るということです。

2つ目の話です。これは今の話と矛盾するような話ですが、皆さんは、武蔵野美術大学を卒業された訳で、是非自分の心の中でそのことに誇りを持ち続けてもらいたいということです。
ムサビでは、今、企業や社会が求めている人材に最も必要且つ重要と思われている能力を、高める教育を一貫して行ってきています。
企業や社会が求めている人材とは、個性豊かな人材です。それは変わった人とか異質な人ということではありません。しっかりした自分の考えをもって、相手や周囲の人にきちんと説明し、対話をしながら説得する能力です。皆さんが毎日のようにやって来た創作活動とそのプレゼンテーションは、まさにこういう能力を高める教育だと思うからです。ムサビでの教育は、美術に関する技術的な能力向上を狙っていることは確かですが、一方で、この教育の本質は、考える力を鍛えていることだと思っています。君たちの考える力は必ず企業や社会の役に立つ筈です。自信を持って下さい。
卒業生の皆さんの中には、これからも大学に残って更に勉強を続ける人もいるでしょうが、社会人として、仕事に就かれる人も多いと思います。

「教養ある美術家の養成」というのは、本学の理念の一つです。
この大学で4年間学んだだけで、教養ある美術家になれる訳ではありません。
美術家を志す皆さんにとっては、教養ある美術家になる為の基礎を身につけた所であり、これから一生かけて、自分自身を磨き続ける努力が必要です。
美術家でない、ビジネスの世界に進む皆さんにとっては、先ずは、各々のビジネスの仕事に係る専門的な知識を修得する必要があります。
その上で他の人と違った自分らしい意見をまとめ、考える力を如何なく発揮して下さい。4年間鍛えられた考える力は大きな力になる筈です。

いづれの道に進もうとも、ムサビで学んだことを基礎に、これから皆さんが更に研鑽を積んで、社会で活躍される実績がこれからのムサビの伝統を作って行くことになるのです。
ですから、ムサビで学んだことに誇りを持って、皆さん一人ひとりがこれからの良きムサビの伝統作りに貢献できるように努力してくれることを大いに期待しています。

最後になりましたが、卒業生の皆さん、本日皆さんが無事卒業ができるよう陰に陽にこれまで皆さんを懸命に支え続けて下さったご両親はじめ、お世話になった方々に改めて、感謝の気持ちを胸に刻み、これからは折に触れて恩に報いる気持ちを尽くすことを忘れないで頂きたい。

「謙虚になれ」
「誇りを持ち続けろ」
「感謝の気持ちを忘れるな」
この3つを贈る言葉として、私のお祝いの挨拶を終わります。

教員祝辞

写真:内田あぐり

武蔵野美術大学教授 内田あぐり

こんにちは、内田あぐりです。
皆さん、本日はご卒業おめでとうございます。また、ご列席のご家族の方々へも心からお慶び申し上げます。
武蔵野美術大学の教員を代表して、皆さんの新しい門出にあたり、ひと言はなむけの言葉を述べさせていただきたいと思います。
私は教員ですが、画家でもあるので、画家として少しだけ皆さんに私の卒業直後をどう過ごし何を感じていたのかをお話して、皆さんのこれからのヒントになればと思います。

私は今から40年ほど前に、ムサビの大学院を修了しましたが、当時は大学紛争の最後の時期で、卒業式というものもなく、研究室で先生方から卒業証書をいただいて、もうこれで学生は終わり、という実にあっさりとしたものでした。
まず卒業直後になにを最優先に考えたかというと、すぐに制作できるスペースを確保し、それを支えるアルバイトを続けると言うことでした。何故なら、学部時代から展覧会への出品を続けていたので、大学をでてすぐに作品を描かなければならなかったからです。たまたま見つけた福生にある米軍ハウスが安くて広かったこともあり、そこをアトリエと住居にして制作の基盤というかベースをつくりました。隣にはRCAサクセションがいたり、周辺は変わったアーティストたちや、基地に勤める黒人たちが住んでいる環境でした。確か忌野清四郎だったか、絵を描く所を見せて下さいと家に来て、しばらく制作することを見ていて、絵を描くのはつまらなそうですよね、やっぱり音楽やってるほうが楽しい、と言って帰って行ったことなど思い出します。まあ、みんなお金は全くなかったのですが、面白いアーティストたちと飲んだり、そのうちに子供も生まれて娘を育てながら絵を描いたりと、米軍ハウスの時代はなかなかロックな作家生活で、その後の私の作品や考え方の基盤となった場所でした。

作家活動の傍らのアルバイトについて、例えば容器の行商や物売り、中学高校の非常勤、自分の絵画教室経営、カルチャーセンター講師など他にも色々と15年間くらいやったでしょうか。そうした仕事をして、何がよかったかと言うと、それぞれの色々な社会を垣間みることができたこと、人間関係という財産を築けて今に至るということです。中学や高校の美術の時間は、無垢な子供たちと接することがとても面白く、かえって子供たちから創造力豊かで自由な感性を私の方が教わり、教えるということは相手から教えられると言うことをその時に学びました。また、色々な社会の中で自分とは違う価値観を持っている人と出会うこと、あるいは美術とは全く無縁な人々の生活、そうした考え方を見たり知ること、それは違う環境のなかでそこに流されるのではなく、自分がどうあるべきかを考える契機となったのです。もしかすると、そのことが本当の卒業となるのかもしれません。

卒業してから10年間、作家の生活は自転車操業です、10年間絵を描き続けたら、少しは光が射してきて、あともう10年間は続けることができる。その10年をまた繰り越していくと、いつか自分の世界が見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない。そう思いながらやっていくのが作家活動の醍醐味かもしれないです。途中でやめると、作品を作らなくなることが多いです、なので細々とでも作品をつくって行くほうが良いです。もちろん、他に何か見つけたら、作家をやめて突然の方向転換もありだと思います。
どんなことでも、せめて自転車の点検と掃除を皆さんはしてください。そしてこれからの社会の中で、自分がどうあるべきかを考えること、そのことも忘れないで下さい。
そして、みなさん元気で生きていって下さい。

校友会副会長祝辞

写真:南部昌亮

武蔵野美術大学校友会副会長 南部昌亮

本日、晴れやかに武蔵野美術大学を卒業されるみなさま、
ご親族のみなさま 誠に おめでとうございます。

私は、本学や通信の卒業生によって構成される武蔵野美術大学校友会の副会長を務めさせていただいております南部と申します。
今日の良き日を迎えられました皆様に一言、お祝いの言葉を申し上げたいと思います。

私は1978年に本学建築学科を卒業し、現在は東京でインテリアデザイン事務所をやっております。
卒業して約40年間。
思い返せば、最初の20年間くらいは生活をすることで必死であります。

ただ、そのあたりから同級生や世話になった大学に戻ってくるようになります。
不思議な事に、校友や大学が恋しくなってくるんですね。
大学が大好きで誇りなんですね。

気がつけば現在の仕事のブレーンは、期せずして全員本学の出身者であります。
また今もジャズ研のOB達とは歴代で繋がっております。

私にとっては、それくらい この武蔵美での学生生活が今の私をささえ、
影響を与え続けているように思います。

皆様もお気づきかも知れないですが
現代の日本では、純芸術やデザインの価値をお金に換金することは なかなかたいへんで、簡単なことではありません。
私も日々、闘っております。

みなさまが これから、社会人として生活をする時に、
様々に、厳しい状況に遭遇することもあるでしょう。

そんな時に、みなさんを救ってくれる事が、皆様には備わっていると感じます。

それは何でしょう。。。

それは、“創造する力”であります。
クリエイティブな力であります。

普段は気がつきませんが、
私たちには、物事や自然現象を凝視する審美眼のようなものが、小さい頃からあったのではないですか?

だから親に無理を言ってでも
美術大学を目指したのではないでしょうか?

そして本学において、その審美眼を、物を創造する力に変えていただいたのではないでしょうか。

私は、そのように感じ、今もそのように信じています。
これは、皆様が人とは違った、神秘の力を得た事に他成りません。

その神秘の力、つまり本物の“創造する力”があることを信じて
物事や、お仕事に 真摯な姿勢で取り組んでいただければと思います。

必ず、皆様を救ってくれます。どんな事も乗り越えられると思います。
一般の方には生み出し得ない結果をもたらせてくれます。
私は、このことを本日、大好きな若者達に、可愛い後輩達に
一番に申し上げたかった事であります。

勇気を持って、果敢にクリエーションに挑戦して下さい。

最後に、現在ムサビ校友会は80年の歴史を持ち、6万人を超える会員数を誇っております。また様々な分野において第一線で活躍する優秀なクリエーターも属しております。全国や海外に支部があり、アートアンドデザインという積極的な芸術啓蒙活動も大学と共に開催をしています。
これは皆様のものであります。
どんどん、積極的に活用いただければと思います。

これからの晴れやかな社会人としてのご成功を心からお祈り申し上げ
本日のお祝いの言葉とさせていただきます。

ご清聴、ありがとうございました。