令和元年度武蔵野美術大学卒業式典

2020年3月16日(月)に開催を予定しておりました令和元年度卒業式は新型コロナウイルスの感染拡大の状況等に鑑み、開催を中止いたしました。

卒業・修了される皆さん、ご家族の皆様へ、当日登壇を予定しておりました長澤忠徳学長、白賀洋平理事長、教員代表 吉田愼悟教授、星啓子校友会会長より、メッセージを掲載いたします。

写真:長澤忠徳

武蔵野美術大学学長 長澤忠徳

今年度、大学院造形研究科修士課程111名、造形学部1,078名、造形学部通信教育課程133名、合わせて1,322名の卒業・修了の学生諸君に学位記を授与できますことは、私たち武蔵野美術大学教職員一同の喜びです。この卒業・修了生の中には、114名の留学生の皆さんが含まれています。心からの祝福を贈ります。おめでとうございます。

また、学生諸君の勉学を支え、見守ってこられた保護者のみなさま・ご家族のみなさまの喜びもひとしおかと存じます。おめでとうございます。
我が国の美術大学を代表する伝統あるこの武蔵野美術大学に、ご子弟を学ばせていただきましたご理解とご支援に感謝し、本学を代表して心よりお礼を申し上げます。

卒業の時期を迎え、突如襲ってきた新型コロナウイルス感染症の世界規模の猛威によって、武蔵野美術大学創立90周年の年度に巣立つ皆さんにとって、生涯で一度の晴れやかな卒業式典も学科ごとの学位記授与式も、中止せざるを得なくなりました。また、一緒に列席し共に祝っていただく保護者の皆さまにとっても、また、祝福し送り出す私たち教職員にとっても、非常に残念なこととなりました。学長として、申し訳ない気持ちです。

思えば、4年前の入学式で、私は「あの遥か彼方に見える水平線に立てるか?」と、創造的な生き方の根幹を支える「信じることの重要性」を問いかけました。
創造すること、クリエイティブであること、創造という未知への挑戦は、理屈を超えて矛盾をひと飲みに飲み込んで、「水平線の上に立つ」ことを信じることに似ていると思います。

今、母校を巣立ち、これから「創造の世界」という大海原に漕ぎ出そうとしている皆さんに、もう一度、私からの「願い」を伝えたいと思います。それは、「大海原の、あの遥か彼方に見える水平線の上に立つ」ことを信じ切る自分の「意志」の存在を自覚して欲しいということです。「意志」という言葉の「意」という漢字は、「音」と「心」からできています。自分にしか聞こえない「心の音」を自分の外に表出すること、あらゆる可能な方法で、自分の「心の音」を自分の中から外へ現す「表現」への修練が、様々な体験を通した皆さんの本学での学びであっただろうと思います。
だから、自らの「心の音」に耳を傾けてください。それこそが「表現」の根幹を成すものだからです。その内なる「心の音」こそ、みなさんそれぞれの「個性」なのです。表現者である皆さんは、自らの「心の音」を聴くことを、生涯、大切にしてください。

「教養を有する美術家養成」、「真に人間的自由に達するような美術教育」という本学の教育目標は、本年度、創立90周年を迎えた帝国美術学校から続く武蔵野美術大学・造形教育の理念です。その教育は、美術・造形・デザインという専門分野の教育にとどまらず、その修練のプロセスを通して、本学に学ばれた卒業生の皆さんは、創造的人間としての「堅い意志」と、世界の多様性を受け止め理解する「寛容さ」、そして、幅広く柔軟な「わかるチカラ」を体得されたことと思います。

造形言語を扱う私たちの美術・デザインの分野は、もとよりグローバルなものでもありましたが、時代のキーワードは「イノベーション」と言われます。時代は、グローバルな「造形言語リテラシー」を体得し「創造的思考」を得意とする皆さんの活躍を待ち望んでいます。クリエーターでありイノベーターとして、皆さんには、その一翼をしっかり担って、世界に羽ばたいていただきたいと大いに期待しています。

そして、創立90周年となる令和元年度の卒業は、時代の区切りという特別の意味を持っていると思います。卒業式で一堂に会せずとも、大学生という人生の学びのひと区切りとして、今、この武蔵野美術大学を旅立つ皆さんの眼差しには、嬉しさと喜びが光っています。
皆さんの活躍を、信じています。万感の思いと期待を込めて、旅立つみなさんに、お祝いのエールを贈ります。おめでとう!

写真:白賀洋平

学校法人武蔵野美術大学理事長 白賀洋平

皆様、ご卒業おめでとうございます。
また、これまで長きにわたり、皆さんを支えてこられたご家族の方々に深く敬意を表します。
新型コロナウイルス感染症のため、一生に一度の記念すべき式典を開催できず、誠に申し訳なく、本学を代表して心からお詫び申し上げます。万全の準備を進めて参りましたが国内の感染の収束が見込めないなか、まさに苦渋の決断でありご理解いただきたいと存じます。

卒業生の皆さんは、入学以来、今日まで本当によく頑張りました。この間に尽くされた研鑽と努力を大いに称えたいと思います。

先般、皆さんの卒業制作を拝見し、さすがこれまでの集大成とあっていずれ劣らぬ力作に深く感動しました。辿りついた高い専門的技能に加え、さぞ幅広い教養も身につけ、本学の建学の精神にいう、教養ある美術家が多く誕生したことを大変うれしく思います。

もとより、皆さんは人一倍「感性・独創性・創造性」に恵まれていたことと思いますが、在学中の切磋琢磨により、その才能は一段と磨かれたことでしょう。加えて、本学の教育の真髄の一つでもある、「講評」における真剣勝負とでもいうべき対話を通して培われた「プレゼンテーション能力」ひいては「コミュニケーション能力」は、皆さんの大きな財産になっています。

社会は今、こうした才能を持つ皆さんのような人材を待ち望んでいます。
どうか皆さんには、優れた教育理念を仰ぐ武蔵野美術大学の土壌で育った学士として、修士として、博士として、誇りと自信をもって、新しい世界で大いに羽ばたいていただきたいと思います。

Apple社を設立した、かのスティーブ・ジョブズが2005年スタンフォード大学の卒業式で行った、今も語り継がれるスピーチの締め括りの言葉に「Stay Hungry, Stay Foolish」という名言があります。直訳すると「ハングリーであれ、愚か者であれ」となります。真意についてはいろいろな解釈がありますが、私は「現状に満足せずより先の未来を追い求めよ、既成概念にとらわれず自分の信じた道を行け」と理解して、かくありたいと願ってます。皆さんも参考にしていただきたいと思います。
最後に皆さんの新しい人生のスタートにあたり、私からは次の言葉を贈ります。

「Always Challenger, Always Innovator」

この気概を持って進み、自らは成長し続け、社会や企業の発展に貢献し続けていただきたいと念じています。
皆さんのこれからの人生が洋々たらんことを祈念しまして祝辞といたします。

写真:吉田愼悟

武蔵野美術大学 基礎デザイン学科教授
吉田愼悟

皆様、ご卒業おめでとうございます。
私も今年で武蔵野美術大学を退任します。私がこの武蔵野美術大学を卒業してから随分と永い時間が経ってしまいましたが、思い起こせばついこの前に卒業したようにも感じます。今年度は新型コロナウィルスの感染拡大を阻止するために、卒業式を行うことは出来なくなりましたが、私達も学生運動の影響が残っていたためか、昨年度までのような晴れやかな卒業式典は行われなかった時代でした。卒業生は学科ごとに教室に集まり、誰かが卒業証書を受け取って来て、それを配って終了でした。その淋しい卒業式の後は同級生たちと国分寺で卒業の宴会を行い、さらに吉祥寺まで行って二次会を行ったという記憶があります。

卒業してから、私は社会に出て都市デザインという領域で仕事をして来ました。並行していくつかの大学で、そして武蔵野美術大学で、主として色彩デザインの教育に携わってきました。今日はそのような活動を行ってきた経験から、皆さんにお勧めしたいことを三つ程選んでお話ししたいと思います。この大学の先輩としての三つのアドバイスです。

一つ目は、皆さんに“海外へ行って、そこで少しでも暮らしてみることをお勧めします。”私は基礎デザイン学科を卒業して、一年間、教務補助員として研究室に残り、その次の一年は当時主任教授であった向井周太郎先生が開設したデザイン研究室で働きました。そして卒業後三年目にフランスのカラリスト、ジャン・フィリップ・ランクロ教授のパリにある“3Dカラー”というアトリエで色彩について学びながら仕事をしました。このフランスでの経験はその後の私の仕事の中で重要な意味を持ちました。言葉もよく分からずフランスではとても苦労しましたが、観光ではなくアトリエでフランス人と仕事をしながら、パリのまち並みや美術に触れて、それらと比較しながら日本のことを深く考える時間を持てたことはとても貴重な体験でした。皆さんにも時間をつくって海外で暮らしてみることをお勧めします。きっとその後の活動に役立ちます。

二つ目は、“日本の自然と伝統的なまちを見ることをお勧めします。”私は日本の都市の色彩に興味を持って仕事して来たので、若い頃から日本の多くのまちを訪れました。そこでそれぞれの地域の豊かな自然や、伝統的なまち並みに出会いました。フランスの田園風景や森、そして伝統的なまちの家並みはとても美しいのですが、日本の自然や伝統的な家屋もフランスに負けず劣らず美しいものでした。その美しさを知ったことで日本の文化に自信を持つことが出来ました。世界は多様でそれぞれ独特の美しさを持っています。「それぞれの地域にはそれぞれの色がある。」といったのは、私のフランスでの恩師、ジャン・フィリップ・ランクロですが、それぞれの地域の風景に優劣はなく、それぞれの気候・風土の中でつくられ、さらにそこで暮らす人たちが育ててきたものです。日本の豊かな自然や暮らしを見て、デザインは人為的に造形することばかりでなく、そこにある自然や、そこで営まれてきた暮らしに添わせることが大切だと知りました。このことはまちの色彩計画を行う際に私の基本的な姿勢になっています。それぞれの地域の気候・風土を知ることはデザインや美術を進めていく上でとても大切なことです。

そして三つ目はアドバイスというよりもお願いになりますが、“自分を見つめて、社会のためになる仕事を見つけてください。”ということです。私も若い時はお金を儲ける有名なデザイナーになりたいと思っていて、デザイン雑誌に自分の作品が紹介されるととても嬉しかったことを覚えています。しかし、何時の頃からかそれだけではいけないと考えるようになりました。何か今までにない新しいものをデザインするばかりでなく、本当に自分が暮らしてみたいまちを育てたいと考えるようになりました。この自分が住んでみたいまちは独りよがりなデザインでは出来ないことも分かっていました。デザインばかりでなく、ファインアートの世界で仕事をしていくためにも、このことは重要です。自分の痛みも知っていなければ、多くの人たちの痛みも分かりません。自分の仕事と社会は分けることが出来ません。自分を社会の中に位置づけることは、とても難しいことですが、社会性を持った仕事をすることが、本当の自分の喜びになることを知ってほしいと思います。

三つのアドバイスの捉え方は皆さんの自由です。これから苦しいことも沢山あると思いますが、本当に豊かな暮らしを実現できるように社会性を持ったよい仕事をしてください。
皆様、改めて、ご卒業おめでとうございます。

写真:星啓子

武蔵野美術大学校友会会長 星啓子

卒業生の皆さま、ご卒業おめでとうございます。保護者の皆さま、お子様の門出の日を迎えられましたこと、心よりお祝い申し上げます。学長をはじめとする諸先生方、素晴らしい卒業生を送り出されることに、心よりお祝い申し上げます。
卒業後は、卒業生で構成している校友会にて応援し、バックアップしていきたいと思っています。今日は、校友会を代表して、夢についてお話しさせていただきます。

人生において、夢を持ち続けるのは大事です。シェークスピアが、「私たちは、私たちの夢を織りなす織物によって紡がれている」という名言を残しています。自分が信じ、その信念にどれだけ誠実に生きることができるかで、結果が変わります。夢を求めて生きれば必ず叶うものです。想像以上に可能性を秘めているようです。

私事ではありますが、夢を2つ叶えました。
1つ目は画家になれたことです。若い時に美大で学べば当たり前の事ですが、私は医薬品の会社で成分分析を生業とし、美術とは真逆の分野にいました。ある時、絵の魅力にはまり、ムサビ通信の門をくぐったのがきっかけで、わけのわからない固定観念から放たれ、発想を変えるだけで、心が自由に動き始め、絵の道を一歩一歩踏み出すことができました。
2つ目は銀座で個展開催です。作品の価値は、世界へ投げかけ、観られ、感じられ、初めて成立します。たくさんの眼差しの交差の中で作品は育っていくように思うのです。「銀座」で個展!なんて夢のまた夢でしたが、叶えました。ムサビDNAのお蔭で、夢は限りなく紡ぎ続けています。

校友会は、都道府県や海外、学科支部合わせて56支部で成り立っています。これらの情報は、校友会webサイトと会報誌で見ることができます。ぜひ覗いてみてください。そして、勤務地や出身地等の身近な支部をぜひ訪ねてみてください。ムサビDNAを持った多くの仲間がお待ちしております
大きな可能性と夢に向かってスタートさせてください。皆さまのご活躍を心よりお祈りしています。