飯沼洋子

造形学部油絵学科油絵専攻 2012年3月卒業 ブールジュ国立高等芸術学校修士課程 2014年9月入学

写真:飯沼洋子

ムサビの油絵学科を卒業し、フランスにきてから早3年が経ちました!ムサビの2014年度海外留学研究奨励奨学金という、留学生にはとっても有り難いご援助を受けることができ、なんとか無事にブールジュ国立高等芸術学校(École nationale supérieure d'Art de Bourges 以下ボザール・ド・ブールジュ)の最終学年を迎えようとしています。

正確には在学中に交換留学制度にてパリ国立高等美術学校(École nationale supérieure des Beaux-Arts de Paris 以下ボザール・ド・パリ)へ一年間の留学を経験したので、トータルではもう4年くらいフランスにいることになります。海外留学研究奨励奨学金を申請したのは去年、フランスでの学士を終え、修士への学業継続が決まった時でした。というのもムサビを卒業し、ボザール・ド・ブールジュに入学が決まりましたが、語学力などの問題により結局2年生(日本で言う学士の2-3年くらいです。)から始めなければなりませんでした。3年生には一度学士修了試験(DNAP : Diplôme national d'Art plastique)があり、学外から呼ばれた審査員に、自分の作品のプレゼンテーション、かつフランス語での論文を提出する必要があります。最終学年の5年生でも修士修了試験(DNSEP : Diplôme national supérieur d'Expression plastique)で同等のことをします。(論文のページ数が増え、今度は口述試験があります。)ですので入学試験時はコミュニケーションがとれればなんとかオッケーな範囲でしたが、卒業となると総合した語学力が必要となり、日本語でも書いたことのない論文を書くのに大変手間取りました。今はムサビの奨学金の援助のもと、来るDNSEPに向け、修士論文の準備と作品制作、学外での作品展示などに取り組んでいます。

ブールジュの町について

ブールジュはフランスのソントル地方(Centre)という名前が示すように、フランスのど真ん中に位置します。フランスの有名な観光都市は大体が地理的に国境の輪郭にそった外周に位置し、真ん中には何もないとフランス人はよく言っています。しかし私は東京やパリといった大都市とは違った魅力をここに見いだしています。歴史地区には世界遺産に登録されているカテドラル(大聖堂)や中世の石畳と木組みの町並み、豪商から財務大臣にまで上り詰めたジャック・クールの宮殿やマレ(湿地帯)などがあり、周辺の小都市(サン・バレンタインやサンセール、ロワールのお城など)とのアクセスも近いため、日本人の観光客が最近では増えています。学校が歴史地区内にあるため、ほとんどの学生が同じく歴史地区内に住んでいます。そのため学生同士の距離も近く、学校へも歩いて5〜10分のため、一日中学校で集中して制作できる環境にあります。生活費もパリに比べ半分くらいの物価の安さですので、中には郊外にあるガレージなどを借り、共同アトリエとして制作している学生たちもいます。

ブールジュの学校について

このような中の下くらいの都市での問題は現代アートとはとなりあわせにないことです。しかし学校が積極的にパリやリヨン、他の国の展覧会(例えばドイツのドクメンタ)などに学校の所有している大型車や大型バスなどを借りて、展覧会を見に行くことをしています。パリとも電車で2時間半ほど、片道17ユーロくらいの距離ですので、週末などを利用し個人でもパリに展示を見に行く学生も多いです。またそれだけでなく、歴史的建造物に登録されている(学校自体が登録されていますが)ジャック・クール宮殿やノワラック寺院、隣町のイスーダンのサン・ロッホ美術館、ブールジュの大病院などとパートナーであり、学生はそのような場所で学外展示の経験をすることができます。

写真:飯沼洋子

学科は分かれておらず、写真、映像、サウンド、版画(主にシルクスクリーン、銅版画、リトグラフィ)、製本、金属、木材、セラミック(近くに陶芸の町ラ・ボルヌがありそこから土を持ってきます)、絵画の技術アトリエがあり、初め学生は一つの分野にとどまらず、これら様々なメディアを使用し、表現の幅を増やすことが求められます。また最近では3D印刷機を使用した学生も増えてきました。ただ美術Beaux-Artsと芸術Artの違いがさりげなくあり(その定義も難しいですが)、学生は現代アートの中で従来の造形芸術だけにとどまらない、メディアアート(主に映像や写真、サウンドアートなど)や空間を意識した上での制作を求められます。例えば絵画だけで表現するにしても映像だけにしても、空間の中でどう展示しみせていくのか、その空間とは何なのか、過去から現在に至るまでどのようなアーティストがいて参考にしているのか、どのような思想に興味があり、現代という時代を自分なりにどう捉え、その中での自分の制作の位置づけをどう見ているのか、といったことが問われてきます。
図書館にはアーティストの作品集だけでなく、アーティスト自身が書いた本、文学、批評家が書いた本、その他の蔵書が幅広く揃っており、これらの問いに応える大きな手助けになります。また学校のカラーの一つとしてフェミニズムやアニマル・エチケット(動物倫理学)などを取り扱うことも多いです。その他、サウンドアートのポストディプロムもあり、学校専用のラジオを通してエクスペリメンタルなラジオ放送に参加することもできます。

ムサビでの経験

以上のように作品のクオリティというよりは自分なりの取り組み方、考え方がはっきりした上でのプレゼンテーションが重視されます。そのためムサビで学んだ様々な基本的な知識や技術が今役立っており、現在の制作活動の基盤となっています。例えば私は油絵学科でしたので、木枠の作り方や絵の具の作り方、油絵、銅版画やシルクの基本的な知識、また美術史などの授業が今になって絶対的な必要知識として身に付いており、ムサビでしっかり勉強したお陰でフランス人にもひけをとりません。これらのムサビクオリティのお陰で、学士修了試験ではDNAPの学位プラス、作品の完成度、質に対しての特別な評価を得ることができました。(DNAP avec mention de la qualité de réalisation.)

写真:飯沼洋子

インターンシップ

もう一つ語ることがあるとすれば、それはインターンシップです。2年と4年の2回にわたり、2年生は1ヶ月のインターンシップ、4年生はミニマム1ヶ月、マキシマム6ヶ月のインターンシップもしくは交換留学に行くことが全ての学生に義務づけられています。
私は2年時にフランス人の友人と一ヶ月、トゥールの現代アートコンテンポラリーセンター(CCC)というアートスペースにて展覧会の設営に携わりました。ロンドン在住のノルウェー女性アーティストAK Dolvenさんの展示の設営のため、主に壁を作りました。共同作業をする際に、日本人としてまずいかに効率よく作業できるかという観点から「まとめて、まずこう作業した方が早いと思う。こうしようよ」とインターンシップ仲間に提案しましたが、フランス人には伝わらず「なんで?一つ一つやればいいじゃん」と言われました。考え方の違いをひしと実感した瞬間でした。ここで一生懸命働いたおかげで、後にアーティストからロンドンに一週間招待されるという体験もありました。
また4年生では、パリ国立自然史博物館にてインターンシップをし、日本では上野の国立科学博物館に値する大博物館の裏舞台を見、研究者との交流ができるという素晴らしい経験をすることができました。これらも自分から進んで動く必要があり、その提案次第ではどこまでもチャンスが開かれます。

写真:飯沼洋子

今後について

学業としてはあと一年が残っています。ムサビとボザール・ド・ブールジュにて培われた経験を元に今後も国際的なアーティストとして活動を続けていくよう努力していきたいと思います。そのためにもDNSEPにむけて制作と修士論文を完成させ無事に卒業することが当面の目標です!!!!(結構卒業できない人もいるのです)そしてこのレポートがこれから海外留学を考えていらっしゃる皆様の役にたてれば幸いです。