荒井隆太郎

造形学部工芸工業デザイン学科 2015年3月卒業 ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)建築学科 インテリアデザイン専攻 2016年9月入学

ロンドンについて

イギリスの首都、ロンドンというと何を想像するでしょうか? アフタヌーンティー? 英国紳士? ビッグベン? それは決してロンドンを代表する魅力で無いということは言うまでもありません。欧州最大の街であり、世界でも有数の多人種社会を持つロンドンには世界中から本当に色々なものが集まります。バスに乗れば3、4言語が飛び交っているのも当たり前のこの街では毎日新しい発見に事欠きません。全員が同じルールのもとに全く異なる常識と発想で暮らしている環境は、今までと異なる発想をたくさん与えてくれました。私が大学院を決める際、ロンドンという街を最初に決めたのはそのような側面が大きいと思います。欧州最大とはいえ、東京に比べたら幾分かコンパクトなこの街では地下鉄と24時間営業のバス網でどこにでも行けます。東京に比べ穏やかな印象が強いですが、実際のところはロンドンの方が眠らない街という枕詞が似合うように思えます。とはいえ、緑がとても多く、リラックスもできる街です。

London primrose hill 緑の多い街
London primrose hill 緑の多い街

RCAについて

ロイヤル・カレッジ・オブ・アートはイギリス、ロンドンにあるイギリス王立の大学院のみを扱う美術大学です。 学生数は少ないですが、2015年に世界ランキング1位の美大になるなど人気のある大学です。2箇所にあるキャンパスのうちロンドン中心部にある大きな公園であるハイドパークの南側、ロイヤルアルバートホールの隣にあるケンジントン校舎に建築学科はあります。大学周りの建物と比べ比較的新しい小規模のブルータリズム建築の校舎の中で30カ国以上の学生が学んでいます。学食の味があまりおいしくなかったり、校内にパブがあるなどイギリスらしさを裏切りません。パブでは学生や先生によるクラブイベントがあったりと、とても自由な校風です。欠点としては都心にあるためオープンスペースがとても少ないこと、周辺が政府系の建物関係で占められているのでスーパーや飲食店が殆どないところでしょう。一方で、 大学院ということもあり学生は知識と発想がとても豊富で話していてとても面白いです。

大学よりハイドパークを望む
大学よりハイドパークを望む

インテリアデザインコースについて

RCAのインテリアデザインコースは建築学科の中にあります。武蔵美の工デの中にあるインテリアデザインコースでは授業内容が家具とオーバーラッピングしていた反面、RCAのインテリアデザインはリサーチやコンテクストに重点を置く建築の視点で進められます。新築の多い日本と違い、リフォームが大半であるイギリスの建築事情からこのようになっているのだと思います。授業は週3日のチュートリアルに週1の講義が基本で、これに外部から建築家やデザイナーを呼んで行う臨時の講義がほぼ毎週あったり、コンペティションがあったりと様々なプログラムが追加されるシステムです。講義では有名建築家の多いヨーロッパ全域から講師が集まり、とてもいい経験になっています。インテリアデザインの授業では、プロジェクトは既存の建築物の内部改築に焦点を当てています。膨大なリサーチが必要な割に、一つのプロジェクトには5週間程度しか費やさないので、土日も頻繁に学校に通うなどとても忙しくしています。これに加えて論文を提出しなくてはならないので、 学期末は時間管理が大変です。
学生は国籍も人種も性別もバラバラで、空間の為の素材研究に集中している人や、アート作品をつくりそこからインスピレーションを受けている人など様々な人がいます。多くのヨーロッパの大学と同じようにRCAは 自主性にとても重きを置いています。ディスカッションも多いので遠慮せず主体的に発言していくという日本ではあまり使わないスキルが要求されるのが難しいところです。学生も先生に対し反対意見をどんどん言います。一見反抗的ですが、お互いに意見を出し合って良い点を探っていくというやり方なので、実際はとても建設的な会話になっているところが印象的です。

大学院進学まで

武蔵美時代から国際交流プロジェクトに参加するなど、国外の人と交流することには興味がありました。工デ・インテリアデザインコースの山中准教授と伊藤教授の後押しもあり、就活の開始前には留学をすることを決めていました。卒業後、RCAの審査も通り入学が決まっていたものの、英語力が不足していたため入学を延期し、ロンドンにて数ヶ月間のみ語学留学をしました。実際に行ってみると、元々座学で得られる記憶力よりも感覚的な記憶力がある方なので、 他国の学生との会話を通じて英語が上達し、2016年2月には必要なスコアに達し、2016年9月の新学期より入学することになりました。
留学を決めた当初は、就職した友達がどんどん社会人になってゆくのを見て、大きな差ができてしまうのではないかと心配していました。実際にロンドンに来てみると、語学学校、大学院そしてシェアハウスを通じて世界中に交流の輪が広がっていき、異文化や今までに無い経験をたくさん積めたので現在は全く後悔していません。

大学院外での生活

住宅価格高騰により、家賃が毎月のように値上がりするのが当たり前のロンドンにおいて、金銭的な理由により学生寮やシェアハウスなど4回転居をしました。大学院入学後からは郊外の典型的なイギリスの一軒家に4人とシェアハウスをしています。イングランド、ジャージー島、ブルガリア、ハンガリーと全員が違う国や地域出身でお互いの好きな音楽をシェアするだけでも普段とは全く違うものを聞くことができます。全員違う学科で学んでいるRCAの学生ですが、みんなどの分野に関しても博識なので驚いています。
自宅のある地域もエチオピア人とソマリア人、パキスタン人が多いエリアなので、日々異文化交流です。クラスメイトとは放課後に学内のパブに行ったり、休みの日に面白そうなエリアを散策したり、暇な時間は少ないですが公園で飲み会をしたりなど極力外に出て交流するように心がけています。長期休暇はイタリアやスイスなど近隣の国の友達の家に遊びに行ったりもします。逆にヨーロッパ各国に住む友達がうちに泊まりに来たりと、国同士の距離の近さを感じます。LCCの発達しているヨーロッパでは国同士の移動がとても安く済むので(ロンドン→コペンハーゲン間の航空券が120円ということもありました)、アメリカやオーストラリアなど他の大陸を留学先に検討している方はこの点も考慮するといいと思います。個人的にはヨーロッパ最大の魅力は文化交流の容易さにあると思います。日本においてはブレクジットやトランプ当選など反グローバリゼーション的な側面が注目されているように思えますが、ロンドンに住んでいる今、日々国境の概念が希薄になっているように感じています。これからも武蔵美の学生にどんどん海外で学んで欲しいです。奨学金を頂き留学し、世界の多様性を知り、その中でデザインを学ぶという掛け替えの無い経験に感謝しています。

多国籍の街では料理も多国籍
多国籍の街では料理も多国籍