若林 玄

造形学部デザイン情報学科 2012年3月卒業ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン2012年9月入学

写真:家具デザイン課題のテーマプレゼンテーション

私は武蔵野美術大学海外留学奨励奨学金のご支援のもと、ロンドン芸術大学セントラル セントマーチンズ カレッジ オブ アート アンド デザイン(以後CSMと表記)のインダストリアルデザイン科修士コース(以後MAIDと表記)に在学しています。現在、二年コースの一年目を終え卒業制作に向けて課題に取り組んでいます。CSMはハリー・ポッターでも有名なロンドンのキングスクロス駅の近くに建っており、全ての学科が一つの建物のなかで運営され教室や工房、図書館など全ての設備が一カ所に集まっています。キャンパスの周りでは新しい建物が次々に建ち、この一年でもかなり風景が変わってきています。生まれ変わろうとしている街のエネルギーを感じながら、CSM MAIDでデザインを学んできた一年についてこれから書いていきます。

私が留学を意識し出したのは、子供時代にイギリスのケンブリッジに住んでいた頃に遡ります。小さい頃から何となく将来はイギリスに留学するという意識を持ちながら育ち、その考えがデザイン情報学科でより具体的な目標になっていきました。デザイン情報学科で私はカルチュラルエンジニアリングを専攻し、グラフィックデザイン、ブランディングデザイン、インタフェースデザイン、コンテクスチャルスタディーズなど幅広い分野のデザインを学びました。二年生の時に始まった英語でデザインを勉強するInteractive InnovationとContextual Studies、Intercultural Communicationを受講し、留学生や海外に興味がある学生と刺激し合いながら留学に向かい準備を行いました。CSMを知ったのは、留学について二年後期に長澤忠徳先生に相談したことがきっかけでした。CSMと武蔵野美術大学は、毎年先生がお互いの学校を行き来して一週間のワークショップを行っており深い交流があります。私自身、三年生のとき当時プロダクトデザイン科のコースディレクターだったニコラス・ロッヅ先生のワークショップを受けました。その後、ロッヅ先生はMAIDのコースディレクターに変わり、現在私は先生の元で勉強しています。

ロンドンという街は様々な文化圏が入り交じり新しいアイデアを生む刺激であふれています。美術館や博物館、ギャラリーも多く、芸術やデザインに対しての人の関心も非常に高く、デザインを学ぶのに適した環境だとこの一年住んでいて感じています。MAIDでは毎週の最初の授業で先生がおすすめの展示を知らせてくれ、クラス内で面白そうな展示やイベントをシェアする時間があるなど、外に出て行って物を見て刺激を受けることを習慣にするよう教えられます。また日々、面白いと思った資料や作品をカメラで撮影したり、スケッチしたりして記録するだけでなく、システマティックに整理し自分が何に興味を持ったのか分析するように言われ、自分の中でどのようにアイデアを生み出すベースを維持していくかを実践的に指導されます。ロンドンの環境とMAIDの指導方法により、デザイナーとしての目を常に持って世界を見る習慣がついたように思います。

MAIDの一年目は学科から出題される課題に答える授業が中心で、それに付随する理論や考え方を実践的にデザイン活動に組み込んでいきながら学んでいきます。工房機器に慣れるためのからくり装置制作に始まり、二人一組になりお互いの文化から発想してデザインする卓上プロダクト、未来のための家具、簡易プロトタイプ制作によるヘッドセットデザイン、プロダクトを生かすイベント企画など、一つの分野に専門的に特化していくというよりも、独特の課題により分野にとらわれないデザインの発想を鍛えるカリキュラムが豊富です。

からくり装置デザインの可動実験の様子

また、この一年を通して私は、MAIDがグループ課題を重要視していることを強く感じました。課題の半分以上がグループワークで、その他の個人制作課題においても何かしらのグループディスカッションやチームワークを求められます。グループワークでは通常の友人関係以上にクラスメイトの考え方や制作方法をそばで見て感じることが出来ます。特にCSMの修士コースは全体的に海外から来ている学生が多く、私のコースでは27人中24人が留学生です。学生の中には社会経験を経て入学している人や、私のように別分野の専攻を勉強してきている人も多く日本では関わったことが無いような人とコラボレーションをすることが出来、非常に新鮮な気持ちで課題に取り組みました。この充実したグループ課題を経て、私はデザイン制作においてより物事を多角的に認識しようという意識を持つことが出来ました。

グループ課題のうちで最も私の印象に残っているのは、フランスの家具会社RocheBoboisの産学協同課題です。この課題はテキスタイルフューチャー科との共同出題課題で、私のグループは40歳年上で建築家として働いているスーザンさんとフランスでテキスタイルデザインを学んできたマーリンさん、同じくフランスでインダストリアルデザインを専攻していたマジョリーさんの四人グループで課題に取り組みました。三ヶ月近くあった長い課題でしたが、非常にチームとしてうまくお互いをフォローしながら建設的に作業をすることが出来ました。課題自体はコンテスト形式で結果的に優勝することは出来ませんでしたが、ファイナリスト(二位が二チーム)として賞状をもらうことが出来ました。

私は修士課程のコースとしてインダストリアルデザインという自分にとって新しいデザインの分野を選択し、この一年間挑戦してきました。デザイン情報学科でも領域横断的なデザイン学習を行ってきましたが、この一年で学んだことによって自分のアプローチできる領域がさらに広がったように感じています。グループワークや先生、友人と関わることで自分が今まで持っていなかった物の見方や判断基準ができ、またそれを通して自分らしさをより自覚できるようになったと思います。この経験は、私が興味を持っている文化とデザインというテーマに対して、日本で学習していた時では得られなかった大きなものです。10月からまた新しい学期が始まり、今回は自分が主体となって修士論文、作品制作、卒業展示を行っていきます。次の一年は自分の命題となる問いに対して考え、デザイン理論を構築していけるように、今まで以上に努力していきたいと思います。