三澤直也

造形学部デザイン情報学科 2006年3月卒業パリ賞受賞 2012年度2012年9月-2013年8月入居

写真:パリ装飾芸術美術館にて

パリ装飾芸術美術館にて

まずは「現代へと同線上に続くデザインの歴史」についてです。デザインの観点から見ると、フランスには様式家具と呼ばれるルイ15世、16世を中心に発展した、特権階級のための贅を凝らした家具の歴史、そして19世紀末に巻き起こったアールヌーヴォーに代表される芸術運動の歴史があります。さらに、20世紀の世界的な工業化の中でも確固たる哲学を持ち、独自の美学を追求したジャン・プルーヴェや、モダニズムの巨匠ル・コルビュジェが活動した場所である事も無視できません。それぞれについて断片的に知っていたものの、その関わりについて深く考える事はありませんでした。フランスでは50年、100年といった単位で時間を振り返る事は難しくなく、調査を進めると、全てに接点があり、現代まで同線上にデザインの歴史が存在する事に気付かされます。「ルイ・マジョレルにはロカイユ様式の家具職人の血が流れている」とか「ジャン・プルーヴエはもともとアールヌーヴォーの職人であった」などといった具合に、みるみるうちに歴史が繋がる感覚が病み付きになっています。現代デザインへと確かに続く関係性を見出せた事で、より深く歴史を知りたいという欲求に駆り立てられ、これらを踏まえてこそ、新しいデザインの世界を切り開けるのではないかとワクワクしています。

もうひとつは「デザインとアートのボーダレスな関係」についてです。渡仏前、美術大学に身を置きながらも、デザインとアートは大きく異なるものと考えていましたが、その考えもすっかり変化してきています。私なりの解釈において、フランスにおけるデザインは「装飾芸術」という言葉に置き換えられ、「用の美」を追求した日本とは、相反する側面を持っている事を知りました。優美な曲線を使用した装飾で知られるアールヌーヴォーも、豊かに暮らすため、いかに芸術を生活に取り込むかという考えに端を発しています。そして現代、サンジェルマン・デプレやマレ地区といったパリの主要ギャラリー街でも、家具のデザインが、絵画や彫刻等と同様に扱われているのを目の当たりにし、ここフランスにおいて、デザインとアートはボーダレスに存在するものである事を再認識しています。

これらに対する気付きは私にとって大変意味深いものであり、Cite Internationale des Artsという多国籍で多様な背景を持った人々に囲まれた環境の中に、身を置けたからこそ得られたものと考えています。そしてこの経験が、今後の活動の幅を大きく広げてくれるものであると確信しています。

最後になりますが、私にとってフランスの生活文化を知る事も大きな目的の一つです。毎日のように街のどこかにマルシェが立ち、人々は店の人との会話を楽しみながら、新鮮な野菜や肉、花束などを買い求めます。少しでも晴れ間が出れば、オープンテラスで日を浴びながら、幸せそうにワインやカフェを飲む。レストランでは美しく盛りつけられた料理の香りをクンクンと嗅ぎながら、五感で味わい尽くす。映画やテレビの中で眺めていた情景が目の前で繰り広げられます。全力で人生を楽しもうとする彼らの姿勢からは、多いに学ぶべきものがありそうです。

フランス人のように日々の一瞬一瞬を楽しむ姿勢を忘れずに、残された貴重な時間、さらに馬力をあげて邁進したいと思います。

石井友人

大学院造形研究油絵コース 2006年3月修了パリ賞受賞 2012年度2012年4月-2013年3月入居

写真:石井友人

パリに到着して約5ヶ月が経過し、僕のパリ賞でのCite Internationale des Artsの滞在も折り返しを迎えようとしています。

滞在しているCite Internationale des Artsについて、初めに触れておきたいと思います。この施設はフランス政府が芸術文化政策として保持している場所で、300室近くの滞在用の部屋があり、その中の2室を武蔵野美術大学がパリ賞として開放しています。 中にはアーティスト、リサーチャー、ミュージシャン、ダンサー等が入居しており、大きな複合施設の様な形で様々な国の人々に空間が提供されています。施設内には多様なコミュニティーが存在しており、国籍や地域、またジャンルの枠に限定されない交流が可能です。

また、毎週何処かしらでオープンスタジオやコンサートが開かれているので、施設内の人々がどの様な活動をしていて、何を考えているのか、お互いに触れ合う事が出来ます。僕自身は最近はドイツやオーストリアのアート・コミュニティーと接する事が多いような気がします。
立地の面ではパリのほぼ中心に位置し、ポンピドゥーセンターやルーブル美術館などの主要な美術館、そしてマレ地区のコンテンポラリー・ギャラリーにも15分あればアクセス可能であり、アーティストにとっては刺激がある恵まれた環境だと思います。

今年は、改装が終わったパレ・ド・トーキョーでのトリエンナーレ、ベルギー・ヘンクでのマニュフェスタ、カッセルでのドクメンタ等のアートフェスが開催されており、また例年通りバーゼルではバーゼル・アートフェアも催されていました。長期的なヨーロッパ滞在が初めてとなる僕にとって、これらの大きなイベントを目撃したことは、重要な経験として記憶していくことだろうと考えています。 そして、パリにある近代絵画のコレクションはやはり特筆するべきものがあり、日常的にこれらの作品群に接している経験は、今後の自分の作品制作の中で、新しい基準の一つになることでしょう。

政治面では17年ぶりに社会党政権が復活するなど、フランスにとっても変化の年であったようです。出先からの帰路に、偶然メトロから地上に上がった時、何万という人々が熱狂の中バスティーユ広場で歓声をあげていました。それは大統領選挙の直後だったのですが、その白熱ぶりは、無理矢理ながらも何故かエネルギッシュな、パリの街や文化のようなものを反映していました。 パリの街は地区によって異なる人種・階層の人々が暮らしています。メトロに乗って移動する時も、徒歩で用事を済ませる時も、地区の雰囲気の違いに敏感になることが多くなりました。勿論治安の問題を考慮にいれる為でもあるのですが、それは、文化的な背景の違いや社会的多様性の緊張関係の中に、自分の身を置く初めての経験でもありました。
この経験はフランスのコンテンポラリー・アートを理解する最初のきっかけとして、重要なものとなった気がします。パレ・ド・トーキョーでのトリエンナーレのテーマは、異なるアイデンティティーの間にある、様々な不公平、あるいは暴力的なものに民族学的な視点を導入させたものでした。展覧会の中でBarthelemy ToguoやLili Reynaud Dewar、Joost Conjinなどの作品に惹き付けられたのも忘れられない出来事です。

現在はフランス語の語学学校に通いながら、同時に英語の勉強も進め、並行して作品を制作しています。滞在の前半はリサーチや此方での生活に慣れていく事に多くの時間を費やしたと感じています。今後の滞在は、作家として新しい可能性を何処まで切り開く事が出来るのか、突き詰めて考えていきたいと思います。