高石晃

大学院造形研究科美術専攻油絵コース 2010年3月修了 パリ賞受賞 2016年度 2016年9月-2017年8月入居

写真:高石晃
メトロ構内のシチューキンコレクション展広告

こちらの滞在も6ヶ月が経とうとしています。数多くの貴重な体験をすることができましたが、それらが私にとってどのような意味があるかを明確に言葉にしてしまうことはまだ避けたいと思います。ここでは今現在私が取り組もうとしていることを書いてみます。

滞在の目的の一つに、いろいろな国の作家と交流するということがありましたが、滞在先のシテ・デザールの状況がいまいちよくわからないので実現できるか不安でした。しかし、来てみるとすぐわかったのですが、その目的にはまず最適な環境です。シテには世界中からアーティストだけでなく、音楽家、デザイナー、小説家など、様々なジャンルの表現者が何百人と滞在していて、ここまでいろいろな人が集まっているのは他のアーティスト・イン・レジデンスでもそうそうないのではないでしょうか。

中東から来ている人たちの男気あふれる優しさに感動したり(なかには政治難民としてパリに来た人もいます)、ブラジル出身の詩人に誘われて、ポルトガル語の本屋での集まりで日本語の詩の朗読をしたり(宮澤賢治の詩と日本語ラップの歌詞を読みました)。同じ日本のギャラリーに所属しているフランス人の作家がいて、それまで会ったことはなかったので連絡先を紹介してもらおうと思っていたら、その人もシテにいて、しかもなんと住んでいるのがとなりの部屋だったりもしました。

彼らと毎日のように集まって飲んでいましたが、実はそんなに彼らの作品については知らなかったりもします。気が合う人はやっぱり作品も好きだったりしますが、より作品主体での交流をしたいと考えていました。そのために、ドイツ人のアーティストが中心になって、あるプレゼンテーション・セッションを始めました。内容は、ほとんど名前も知らない作家同士が集まって各自の作品を見せ、ひとりにつき15分のディスカッションを行うというものですが、特殊な点は、ディスカッションでは作家本人は発言してはならず、他の人の議論を聞くだけということです。作品を見せるときも、基本情報は説明してもいいですが、作品の意図やテーマは事前に説明してはいけないというルールになっています。

ブラジルやクロアチアやエジプト出身の作家がどのように自分の作品を解釈するのか、それ自体非常に興味深く、さらにそれに対してこちらから介入をせずに議論が進行するのを見ているのは貴重な体験でした。結構期待していた通りの反応が返ってきて、絵画の場合は作品を通して言語に頼らず意思の疎通ができるかなと自信を持てたところです。

彼らと議論していくのも刺激的で、現在2回やった段階ですが毎週続けていく予定なので、意欲的に取り組んでいきたいです。これが今後どうなっていくが、彼らとそれ以外でも制作上の関わりがもてるか、まだわかりませんが、展開していけたらと思っています。

実際の自分の制作に関しては、これもまだうまくまとまっていないのですが、やはり画家としてパリで美術館に通えるのは素晴らしい体験です。一番感動したのは結局、今までと同じくセザンヌなのですが…でもやはりこれだけ多くの作品を体系的に見られる環境にいると、画家たちが当時直面していた問題と、それに対してどのように応えていったのかが、かなりクリアに実感として感じられるようになります。これは現在の自分の制作に強く影響を与えるはずです。展示を見ていておかしくなってしまうのではないかというぐらい強いインスピレーションを受け、友達を置いて一人で帰ってしまったこともあります。

同時に、ちょっと誤解を生む言い方なのですが、ここでは間違いなく歴史上で最も優れた絵画のうちの幾つかを日常的に見ることができますが、それらを見ていると、結局完璧な絵画というのは存在しないのかなというように思ってしまったりもしました。これは同時に希望でもあります。それらの影響をはやく制作で形にしていかなければと強く思います。