高橋陽一

高橋陽一(たかはし・よういち)
TAKAHASHI Yoichi

専門
教育学(日本教育史、宗教教育、国学)
Pedagogy, History of Education in Japan
所属
教職課程
Teaching Careers
職位
教授
Professor
略歴
1997年4月着任
1963年兵庫県生まれ
東京大学大学院教育学研究科
博士課程単位取得退学(修士)
研究テーマ
近代日本における宗教教育と国民統合。

著書:著書:『共通教化と教育勅語』東京大学出版会 '19年、『くわしすぎる教育勅語』太郎次郎社エディタス '19年、『ファシリテーションの技法』武蔵野美術大学出版局 '19年、『新しい教育通義』同 '18年、『美術と福祉とワークショップ』同 '09年。共著書に『近代日本における知の配分と国民統合』第一法規出版 '93年、『習志野市史』習志野市役所 '94年、『東京大学の学徒動員・学徒出陣』東京大学出版会 '98年、『教育史研究の最前線』日本図書センター '07年、『戦時下学問の統制と動員』東京大学出版会 '11年、教育史学会編『教育勅語の何が問題か』岩波ブックレット '17年、岩波書店編集部編『教育勅語と日本社会』岩波書店 '17年ほか。
'94年石川謙日本教育史研究奨励賞受賞。

TAKAHASHI Yoichi researches Pedagogy, especially History of Education in Japan. My main pedagogical theory is called Kyotsu-kyoka (common leading of religions and ideologies). In Meiji Restoration (1868), Kokugaku-sya (researchers of Japanese classical literature and religion) were influential with Japanese government and education. From their documents, the theory of Kyotsu-kyoka appeared. The system of Kyotsu-kyoka ruled over schools and religions in Modern Japan. On these subjects, Ie wrote some papers and "Kyoiku-tsugi" (2013) and "Dotoku-kyoiku-kogi, New edition" (2012). Furthermore study of art workshop is important for practice of art education. I studied on the history of workshop and its roll. "To Support Art Workshop" (2012) is a text for students connecting arts with social needs.


教育勅語の研究

教育勅語についての歴史的意味や問題点を指摘する図書として、共著で教育史学会編『教育勅語の何が問題か』(岩波ブックレット、2017年)、岩波書店編集部編『教育勅語と日本社会』(岩波書店、2017年を執筆した。広範な読者に向けての教育勅語の逐語解釈と歴史的説明として『くわしすぎる教育勅語』(太郎次郎社エディタス、2019年)を刊行した。学術論文をまとめる形で『共通教化と教育勅語』(東京大学出版会、2019年)を刊行した。また2019-2023年度においては、科学研究費補助金により「教育勅語の本文とモノの系統的研究」(課題番号19K02460)の研究代表者として研究を進めている。

神道・国学と神仏合同布教の研究

国学者の教育思想や、1872(明治5)年に設置された教部省と神仏合同の教化機関である大教院の動向を、継続的に調査している。明治維新政府が権威を確立するために宗教者を動員して共通の内容を教える体制に組み込むことに注目して、これを「共通教化」という概念で把握できることを提唱して、近代日本を通じたシステムとして提起している。
主な学術論文を列記すると、「維新期の国学における共通教化の析出—鈴木雅之の教育・教化論—」『日本の教育史学』(第34集、1991年)では幕末維新期の国学者・鈴木雅之(1837-1871)の教育思想を分析して「共通教化」概念を提唱した。「日本教育史学の成立と国学―日本教育史略、文芸類纂、古事類苑、日本教育史の関係―」『明治聖徳記念学会紀要』(復刊第47号、2010年)では、国学者による師範学校教科書が万国博覧会を基軸に成立して類書編纂につながったことを解明した。「日本書紀一書と残賊の神勅―孟子と国学をめぐる解釈史―」『日本教育史学会紀要』(第3巻、2012年)では、神話や孟子の解釈史を論じた。このほか、「大教院の教化基準—教典訓法章程と教書編輯条例を中心に—」『明治聖徳記念学会紀要』(復刊第5号、1991年)、「国学における『事実』問題の展開と教化」『近代日本における知の配分と国民統合』(寺崎昌男・編集委員会編、第一法規出版、1993年)、「宣教使・大教院と民衆教化」『東京都教育史 第一巻』(東京都立教育研究所、1994年)がある。2011-2012年度においては、科学研究費補助金により「近代日本の学問形成・教科書編纂と国学」(課題番号23531027)の研究代表者として研究している。この分野について、宮地正人ほか『明治時代史大辞典』全4巻(吉川弘文館、2011年~刊行中)、子安宣邦監修『日本思想史辞典』(ぺりかん社、2001年)、『日本歴史大事典1』・同『2』(小学館、2000年)に事典項目を分担執筆した。

「宗教的情操」論の研究

大正末より現在に至るまで言及される「宗教的情操」という概念が混乱を生じており、本来の自由な宗教教育を阻害する可能性があることなどを歴史と実践にわたって研究している。歴史研究として、論文「宗教的情操の涵養に関する文部次官通牒をめぐって―吉田熊次の批判と関与を軸として―」『武蔵野美術大学研究紀要』(第29号、1999年)において、1935(昭和10)年の文部次官通牒で強調された「宗教的情操」概念が実際には政策レベルや関係した教育学者たちによって空文化され、思想動員に使用されたことを明らかにした。2007-2009年度においては、科学研究費補助金により「「宗教的情操」概念の歴史と教育実践に関する基礎的研究」(課題番号19530722)の研究代表者として、伊東毅、駒込武、竹内久顕、小川智瑞恵、小幡啓靖、田口和人と共同研究をおこなっている。この成果の一部は2008年9月20日に教育史学会第52回大会シンポジウムにおいて「〈価値教育〉概念の有効性を考える―宗教教育・道徳教育の過去と現在―」として報告した。

戦時下を中心とした教育学説史の研究

近代日本、とくに戦前戦中の昭和期を中心に、教育の思想及び学説についての研究をおこなっている。とくに教育学者・吉田熊次の果たした役割について注目して、研究をおこなっている。
全体的な仮説としては、「共通教化の基礎仮説—近代日本の国民統合の解明のために—」『研究室紀要』(第22号、東京大学大学院教育学研究科教育学研究室、1996年)において、「共通教化」という概念で近代日本の教育と教化のシステムを捉えることを提起した。「『皇国ノ道』概念の機能と矛盾—吉田熊次教育学と教育勅語解釈の転変—」『日本教育史研究』(第16号、1997年)、「吉田熊次教育学の成立と教育勅語」『明治聖徳記念学会紀要』(復刊第42号、2005年)、「井上哲次郎不敬事件再考」『近代日本における知の配分と国民統合』(寺崎昌男・編集委員会編、第一法規出版、1993年)などを発表した。高等教育に関する実態研究としては、東京大学大学史史料室編『東京大学の学徒動員・学徒出陣』(東京大学出版会、1998年)において共同研究の成果として「学徒出陣者の統計と分析」、「戦没者の統計と分析」を執筆した。駒込武・川村肇・奈須恵子編『戦時下学問の統制と動員―日本諸学振興委員会の研究』(東京大学出版会、2011年)では、教学局、日本諸学振興委員会芸術学会、日本精神について分担執筆した。この分野について事典の項目分担執筆をしたものとしては、『日本史人名辞典』(山川出版社、2000年)、『現代教育史事典』(東京書籍、2001年)がある。


教職課程の教科書の執筆・監修

2002年4月開設の本学通信教育課程、教職課程の教科書として以下の9冊について担当して、監修、編修、執筆をおこなった。掲載した写真はこれらの教科書の表紙である(いずれもA5判、武蔵野美術大学出版局より刊行)。
①高橋陽一『新しい教育通義』2018年、全680頁(旧版2013年)
②高橋陽一・伊東毅著『道徳科教育講義』2017年、全312頁(旧版2003、12年)
③高橋陽一監修・杉山貴洋編集『ワークショップ実践研究』2002年、全200頁、岩崎清、前田ちま子、葉山登ほかとの共著
④高橋陽一編『新しい教師論』2014年、全260頁、山田恵吾、桑田直子、谷雅泰、佐藤清親との共著(旧版2002年)
⑤高橋陽一・伊東毅編『これからの生活指導と進路指導』2020年、全280頁、川村肇、奈須恵子、渡辺典子との共著(旧版2002、13年)
⑥高橋陽一・伊東毅編『新しい教育相談論』2016年、全224頁、伊東毅、桂瑠以、大間敏行との共著(旧版2002年)
⑦高橋陽一編『造形ワークショップ入門』2015年、全192頁、杉山貴洋、川本雅子、田中千賀子との共著
⑧高橋陽一編『特別支援教育とアート』2018年、全272頁、葉山登、田中千賀子、有福一昭、杉山貴洋、川本雅子との共著
⑨ 高橋陽一編『総合学習とアート』2019年、全256頁、杉山貴洋、葉山登、川本雅子、田中千賀子、有福一昭との共著

「造形ファシリテーション能力獲得プログラム」と「美術と福祉プログラム」

1999(平成11)年度より、美術教員養成の充実を目指す武蔵野美術大学独自の取り組みとして「美術と福祉プログラム」を企画立案した。小平市の社会福祉関連の6施設(やすらぎの園、けやきの郷、曙光園、あさやけ作業所、小川ホーム、小平健成苑)と提携して運営を行った。社会福祉施設において造形ワークショップを中心に介護等体験をおこなうプログラムであり、2000年度からは「教職総合演習」、2012年度からは教職科目「美術と福祉」として現在に至っている。2006年の特色GP選定によって文部科学省から3年間の支援を受けて充実と成果公開につとめ、『美術と福祉プログラム概要紹介』や、参加学生全員が1頁ずつ執筆した『2006年度報告書』『2007年度報告書』『2008年度報告書』が刊行され、高橋陽一著『美術と福祉とワークショップ』(武蔵野美術大学出版局、2009年)が発行された。2013年度は、杉山貴洋講師、葉山登講師、川本雅子講師、鈴石弘之講師、田中千賀子講師とともに運営に当たっている。
2009-2011年度は、文部科学省より大学教育・学生支援推進事業(テーマA)大学教育推進プログラムとして「造形ファシリテーション能力獲得プログラム―造形ワークショップの記録と表現による学士力の形成」が選定され、長沢秀之教授、齋藤啓子教授、三澤一実教授とともに運営にあたった。造形の専門性を社会に生かすために造形ワークショップを企画運営する能力を学生が得るためのものである。「ワークショップ実践研究Ⅰ・Ⅱ」が開設され現在に至っている。『造形ファシリテーション能力獲得プログラム概要紹介』や、参加学生とシンポジウム参加者による『2009年度報告書』『2010年度報告書』『2011年度報告書』が刊行され、テキストとして、高橋陽一編『造形ワークショップの広がり』(武蔵野美術大学出版局、2011年)、高橋陽一著『造形ワークショップを支える―ファシリテータのちから』(同、2012年)が発行され、2020年には同書の改訂版として『ファシリテーションの技法 アクティブ・ラーニング時代の造形ワークショップ』を著した。また造形学部通信教育課程では、2002年度より新規授業科目「ワークショップ研究Ⅰ・Ⅱ」が開設され、現在に至っている。

大学通信教育の向上のための活動

本学の4年制通信教育の開設と展開のために、武蔵野美術大学4年制通信教育課程設置申請事務室調査役(2000年4月-2002年3月)、通信教育課程副課程長(2002年4月-2007年3月)として教育活動をおこなった。大学通信教育をおこなう64校の大学・短期大学・大学院の加盟する財団法人私立大学通信教育協会(2010年に公益財団法人に改組)の評議員(2003年4月-2005年3月)、理事(2005年4月-)、理事長(2007年4月-)として活動している。また、学校法人放送大学学園放送番組委員(2007年4月-)、日本通信教育学会理事(2007年4月-)をつとめている。
大学通信教育の水準向上を目指す活動としては、「大学通信教育ガイドライン」(2005年)の制定や、平成17・18年度文部科学省委託研究『今後の「大学像」の在り方に関する調査研究』(報告書2007年3月、日本大学)に参加した。また、通信教育による免許状更新講習実施準備のための財団法人私立大学通信教育協会の試行事業、同協会編集『教育事情』(2009年3月)、『新しい教育事情』(2017年、18年改版)の刊行などに寄与した。