内田麻美子Uchida Mamiko

輪廻転生のデザイン
社会と人を蘇らせる、変容、生成、再創造の器として

論文|紙、くるみ製本Essay|paper, case binding18.2 × 12.8cm

誰かが振り返ることもなく、こんなにも単調で確固たる生活を手に入れた私たち現代人は、この、「安逸な安定感」と引き換えに、唯一無二であるはずの自らの身体、そこに眠っているはずの無限の感覚をいつしか手放してしまったのではないだろうか。
刻々と失われゆく「生」の実感を、私たちはいまいちどとり戻したい、心の奥底でそう祈っている。
社会を鋭く見据えるデザイナーの意志が貫かれた「デザイン」には、人々の停止した感覚を揺り起すほどの「力」がある。本論では、倉俣史朗、吉岡徳仁、二名のものづくりの視点に立ち、彼らの「現代」への視点を拾うことで、これからの「デザイン」の道を見いだしていく。

内田麻美子

現代のものづくりと、人間の環境に対して、徹底した、深い疑義を唱えながら、その救済の希望を、新しい、デザインの概念の読み直しに探ろうとする、果敢な批評的論考。ポストモダンを、運動の持っていた社会環境的意義や、日本的な読みの可能性としての「廃墟論」から説き起こし、文明批評的現象とも言い得る、倉俣史朗と、現在、物質への想像力を喚起し人間を覚醒させようとする、吉岡徳仁を論じて、透明な情熱をたたえた、清冽な文体に、打たれる。

芸術文化学科教授 新見隆

勝俣涼Katsumata Ryo

再編される単位
A・エイコックにおける 多数性と縮減の過程についてReorganized Units
-On Alice Aycock’s Multitude and the Process of Reduction̶

論文|紙、くるみ製本Essay|paper, case binding21.0 × 14.8cm

本論考は、アメリカの女性彫刻家アリス・エイコック(1946–)の諸作品に関する分析である。多方面からの領域横断的な引用行為によって展開される彼女の作品群は、寄せ集められた複数のイメージによって、無秩序な様態を示す。だが本論が試みるのはむしろ、その多数性の宇宙から、固有の秩序的配列を明るみに出すことであり、混沌とした表象空間から、特定の表象および形象を軸とする連関を浮彫りにすることである。

勝俣涼

アリス・エイコックの、1970年代に開始した建築的構造を持つ彫刻的立体や、その後の機械的イメージを外観とするインスタレーションの造形的基盤を探る研究論文。M・デュシャンやその後のミニマル・アートを源流としながら、構造人類学や現象学からの影響のみならず、中世の魔術から近代の量子力学や精神病理学を参照しつつ、作品表現の構成要素を組み替え再編していくエイコックの造形思考を克明に辿る。

芸術文化学科教授 高島直之

玉垣唯Tamagaki Yui

歴史的建造物の象徴的機能について
神戸旧居留地とドレスデンを事例としてOn the Symbolic Function of Historic Heritage : case studies of Old foreign
settlement in Kobe and Inner cities of Dresden

論文|紙、平綴じ製本Essay|paper, stitch binding21.0 × 14.8cm

ドイツの都市は、日本と同様に戦災に遭遇し戦後急速な復興を成し遂げてきた。しかし両者の都市のあり方には大きな違いがあり、それが今日の都市景観の中に象徴的に表れている。これは、日本の都市が一般的にその固有性を喪失してきたのに対して、ドイツの都市は地域特性を保持し都市景観の固有性が保護育成されてきたことにある。本論文ではこの二つの国における都市の復興を事例に、歴史的建造物が都市形成においてどのように反映されているのかを比較し、そして歴史的建造物が住民にとってどのような役割を果たしているのかその象徴的機能について考察した。

玉垣唯

西欧近代における町並み保存・修復の認識と実践の歴史を踏まえ、その住民に根づいた歴史を必ずしも共有していない日本の史的経緯を浮き彫りにする。そこで戦災による潰滅の事態に対する、ドイツと日本の戦後復興過程を比較して都市景観に表われる象徴的機能の違いを問い、さらに阪神淡路大震災での神戸旧居留地と第二次大戦でのドレスデンを事例として、建造物の保全の意識が住民の未来にどのような役割を果たすかを検証する論文。

芸術文化学科教授 高島直之

當眞未季Toma Miki

「協働によって生まれる作品」について 鑑賞者としての身体About works of art produced from cooperation̶a body as a appreciator̶

論文|紙、並製本Essay|paper, limp cover21.0 × 14.8cm

見知らぬ人々との間に作り上げられる共同体とコミュニケーション、行われる「協働」。それは現在多くの美術作品に取り入れられ、社会的な文脈の中で肯定されています。しかしそこには、見過ごしてはならない些細な違和感が存在します。
本論文では、リレーショナル・アートの流れに触れながら、日本の現代美術における他者との交流を重視する作品を「協働によって生まれる作品」と仮称し、小沢剛、淺井裕介、加藤翼の作品について考察しています。
他者との本当のコミュニケーションとはいったい何なのか。「美術作品」が「美しい物語」として安易に肯定されてきた「協働」を扱う意義を、今一度考え直すことが必要なのではないでしょうか。

當眞未季

「人間相互の関係性の美学」ニコラ・ブリオー(Nicolas Bourriaud,1965–)が語ったリレーショナル・アートの出発点をミニマル・アートにおける身体性の重視に定め、多くの「鑑賞者」が参加することによって生み出されるリレーショナル・アートの流れに触れながら、小沢剛、淺井裕介、加藤翼の作品を「協働によって生まれる作品」と仮称し、美術作品として肯定されてきた「協働」の意義を今一度検証し「美術作品とは何か」を問うた論文である。

芸術文化学科講師 児島学敏

橋杏朱Hashi Azumi

かぐわ詩Kaguwa-shi

インスタレーション|ドライアイス、木、アクリル、プロジェクターInstallation art|dry ice, wood, acrylic board, projector90.0 × 167.0 × 65.0cm

実態のない匂いはなぜ人の心を揺さぶるのか、なぜ思い出を鮮明に呼び覚ますのか。記憶だけでは思い出せない様々な情報を付随し、時を越え、過去に経験したリアルな感情を再生する。
この作品は生活を取り巻く匂いや匂いから想起される記憶、感情が我々を文化的豊かさに導くという考えのもとに制作した。
匂いを想像させる詩と、匂いのイメージに共通して抱かれる気体的表現を利用することでコンセプトを体感してもらう。
感覚は言葉の中で成立する事から文字の中の匂い「詩」を通して日常の中に広がる匂いの多様性を意識する事で文化的豊かさを見い出すきっかけとしたい。

橋杏朱

時として、視覚や聴覚以上に強く意識されるのが「匂い」の記憶。記憶の上での再現性は、何故か時間の経過と共に色あせることがない。その体験を、文化として定着している諸事、特に「詩」に登場する匂いとアート表現との関わりとして調べ、論文に相当するような内容で一冊の研究ノートにまとめている。これが、すこぶる良い。また、その匂いと文章との関係性を視覚表現しようという試みは、瞬間に消えて霧散する匂いの儚さと空気感を表していて、秀逸である。

芸術文化学科教授 楫義明