版画からグラフィックアーツへ
武蔵野美術大学油絵学科版画専攻は、2023年度より油絵学科グラフィックアーツ専攻へ名称を変更します。
版画という領域を超えて、多層的な表現へ挑戦します。
浮世絵や数々の歴史的出版物に代表されるように、版画は美術作品の領域を超え、「社会とつながるメディア」として人々の生活に関わってきました。
絵本やイラストレーション、写真、映像、立体など、アナログやデジタルを問わず、あらゆる複製メディア表現にその規範を広げる中、油絵学科版画専攻では積み重ねられた版画の「伝統」に向き合うとともに、版画を起点とした「現代」の美術表現への展開を視野に入れ、アートの領域とデザインの領域が多層的に重なり合う学びの新たな領域へ挑戦します。
教員メッセージ
油絵学科版画専攻
主任教授 遠藤竜太
近年、絵本やイラストレーション、ブックアートなどへ展開する授業の拡充に伴い、私たちが目指す表現が、従来の「版画=printmaking」という言葉では集約しきれなくなってきました。そのため、領域を超えて拡がっていく、豊かな可能性を秘めたこのメディアの表現を、今後どう言い表すのが最も適切であるかが問題でした。
この問いに対して私たちは、多様な版画表現・印刷表現による平面視覚芸術の全般をあらわす名称である「グラフィックアーツ=Graphic Arts」が、目指している新しい表現領域を包括的に伝えることができるものと考えました。
そしていよいよ2023年から油絵学科版画専攻は、油絵学科グラフィックアーツ専攻に名称を変え、この魅力溢れるメディアが創る多彩な表現を、これまでの領域の枠にとらわれることなく、清新な姿勢で追求していきます。
関連展覧会
ART-BOOK: 絵画性と複製性——MAU M&L貴重書コレクション × Lubokの試み
本展では、書物における版画に焦点を当て、本学美術館・図書館の貴重書コレクションを体系的に展観するとともに、現代の版表現の可能性を拡張するドイツ・ライプツィヒの出版社ルボーク・フェアラーグ(Lubok Verlag)の活動を紹介し、書物における「絵画性」の在りかを版画というメディウムの技術的、表現的側面から紐解きます。“版画と本”、“絵画と本”の関係性を検証しながら、グラフィックアーツの一つの方向性を指し示す展示となっています。
- 日程
- 2021年10月4日(月)~11月14日(日)
- 時間
- リンク先をご参照ください。
- 休館日
- 水曜日
- 場所
- 武蔵野美術大学美術館(東京都小平市小川町1-736)
- 来館方法
- 美術館サイトをご確認ください
トークイベント
版画からグラフィックアーツへ - PRINT(プリント)は時代を作る-
版画専攻の歴史を振り返り、美術大学で学ぶ版画・グラフィックアーツ表現の可能性について、第一線で活躍する卒業生を招き、学長、本専攻教員がクロストークをオンライン オープンキャンパス 特別企画として行いました。(2021年9月26日開催)
グラフィックアーツとはなにか。版画を起点に、アートとデザインという領域を超えた多層的な表現領域を伝える専攻名称と学びの内容について、このトークイベントで知ることができます。
イベント当日のアーカイブ動画を公開しています。ぜひご覧ください。
登壇者
- いとう瞳(油絵学科版画コース卒業/イラストレーター)
プロフィールはこちら - 長澤忠徳(本学学長)
- 遠藤竜太(本学油絵学科版画専攻主任教授)
- 進行:高浜利也(本学油絵学科版画専攻教授)
複合的領域とカリキュラム
油絵学科グラフィックアーツ専攻での学び
1.版画の基礎を学ぶ
グラフィックアーツの基礎となる版画の基本的な技法を習得、表現の幅を広げます。
*同時に1・2年次では油絵学科油絵専攻との共通授業を選択することで、絵画を中心としたアート領域について幅広く学ぶことができます。
*3年次への進学時にグラッフィックアーツ専攻⇔油絵専攻への専攻変更が可能です。
2.グラフィックアーツへの展開
絵本・イラストレーション・アートブック・デジタル表現・写真・映像など、ファインアートとデザイン領域が重なり合う、多様なグラフィックアーツへの展開と可能性について幅広く学びます。
1、2を習得したうえで、それぞれの学生が得た力を総合的に展開し幅広い表現手法を用いながら、卒業制作に取り組み自身の方向性を見定めます。
Q&A
- Q
- グラフィックアーツとはどういう意味ですか?
- A
- 一般的には複製性を持つ平面視覚芸術全般を指す言葉とされています。例えば、印刷を介した版画、イラストレーション、絵本、写真、デジタル表現、アートブック、ポスターなどの多様なプリント表現がその中心となるものです。
- Q
- グラフィックアーツ専攻に名称変更しても、従来通り版画を学ぶことはできますか?
- A
- 従来通り、版画の歴史から技法までを修得することができます。グラフィックアーツ専攻では、版画を多様なグラフィックアーツ表現の出発点と位置づけています。基礎課程段階において、まず、版画の基礎をしっかりと修得したうえで、絵本・イラストレーション・アートブック・デジタル表現・写真・映像などの表現について発展的に学ぶことが可能となります。
- Q
- グラフィックアーツ専攻でも油絵を描くことはできますか?
- A
- はい。名称変更後も本学油絵学科は油絵専攻とグラフィックアーツ専攻の2つの専攻で成り立っています。1・2年次では両専攻の選択制の共通授業が数多く開講されています。油絵専攻の油絵制作を主眼とする授業を選択し、表現の幅を広げることも可能です。
- Q
- 美大受験を考えていますが、アートかデザインかで迷っています。グラフィックアーツ専攻ではどのような学びが可能ですか?
- A
- 油絵学科グラフィックアーツ専攻では、1-2年次での選択授業で幅広く油絵学科としてのアート領域の学びが実現できます。また、版画をはじめ、絵本、イラストレーション、アートブック、デジタル表現演習、装幀などデザイン領域にまたがる学びも可能となります。将来作家を目指す方はもちろん、イラストレーションや絵本、ブックアートなどに興味がある方も、グラフィックアーツ専攻のカリキュラムをいかすことができます。
- Q
- 将来の進路としてイラストレーターや絵本作家を考えていますが、グラフィックアーツ専攻ではそのようなカリキュラムがありますか。
- A
- はい、あります。ここ数年、イラストレーターや絵本作家を目指す学生が増えてきました。油絵学科としてまず、しっかりとした造形力、描写力を身に着けることから始めます。そのうえで版画を出発点としたグラフィックアーツの学びを展開していきます。例えば本専攻のtupera tuperaの亀山達矢客員教授や、イラストレーターのいとう瞳特別講師、コンセプトアーティストの緒賀岳志特別講師など、第一線で活躍するプロフェッショナルが担当する実践的な授業が開講されており、それぞれの学生の将来像に合わせた、きめ細かい指導を実現しています。
- Q
- グラフィックアーツ専攻から油絵専攻への専攻変更は可能ですか?
- A
- はい、可能です。所定の条件を満たせば、担当教員と相談の上、同じ油絵学科内の専攻として3年進級時にグラフィックアーツ専攻⇔油絵専攻への専攻変更が可能です。
- Q
- アートブックやアーティストブックとは、どういうものでしょうか?
- A
- 未だ、厳密には定義づけはされていませんが、一般的に広い意味での美術書全般をアートブックと呼ぶことが多いのに対し、アーティストブックはもっと限定的なものとされています。(アーティストが本の形態、仕様やその流通形式を活用して、美術作品として制作した本がアーティストブックとされています)
- Q
- 名称変更に伴い授業の内容は変更しますか?
- A
- 現在のカリキュラムが、グラフィックアーツの学びを習得できるカリキュラムとなっています。今回の名称変更は、これまで培ってきた人材育成、現在行っているカリキュラムに合わせた名称変更となるため、カリキュラムの変更、科目名の変更などは行いません。
- Q
- 名称変更に伴い入試の内容は変更になりますか?
- A
- 油絵学科版画専攻では、2021年度より、従来の評価基準であったデッサンと新たな評価基準である「イメージ・ドローイング」の選択性を取り入れてます。
今回の名称変更に伴う入試の変更は行わず、この2つの専門試験の選択または、総合型選抜による入試を実施する予定です。
詳細は以下の入試情報を参照してください。
入試情報
参考解答例(使用画材:アクリル絵具)
2021年度より、版画専攻一般選抜では従来のアドミッション・ポリシーに基づきながら、近年の版画としてのメディア特性を活かした多様なグラフィックアート志向の学生も幅広く受け入れるために「イメージ・ドローイング」を実技試験として実施しています。専門試験では「デッサン」と「イメージ・ドローイング」のどちらかを選んで受験することになります。
「デッサン」は従来の試験を踏襲するもので、静物モチーフの基礎的な描写力をはじめとする総合的な造形表現の潜在能力を判定します。
「イメージ・ドローイング」は、与えられた『言葉』などから自由に発想・展開したイメージを構成して描く試験で、独創的な発想力を重視して判定します。モノクロームも含めた色彩感覚やイメージを構想する豊かな感性、表現力のある人材を選抜する試験です。