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甲田洋二(こうだ・ようじ) |
真に自然と共生する、その根底を築く「美の力」武蔵野美術大学学長 甲田洋二 武蔵野美術大学は、1929年(昭和4年)、世界恐慌の最中、現在の武蔵野市吉祥寺に設立された帝国美術学校に始まります。「教養ある美術家養成」「真に人間的自由に達する美術教育」を理念とした清新な創造力を持った美術家、デザイナーの養成に努め、美術系総合大学として今年で創立82年になります。 創立80周年記念事業では、アトリエ棟の2号館、民俗資料室を中心とした13号館、「書物の森」をイメージした新図書館(美術館・図書館)が完成しました。また、現代における美術大学の存在と美術教育の意義を検証することをテーマに、世界美術大学学長サミットを開催しました。混沌とした世の中にあって、今日ほど美術大学の役割が期待されている時代はないのではないか。本学は、美術大学の時代的社会的意義と使命を胸に、さらに社会との連携を深めていこうと大きな一歩を踏み出しています。 今、美術大学の役割とは、一体何でしょうか。 近代日本は「知の力」によって発展してきたと考えられます。初等から高等教育においていかに合理的に正しい答えを導くかといった成果主義です。ところが、絵を描く、ものをつくる、という造形活動に真剣に取り組もうとすると、自ずと容易に答えが出ないことに気づきます。美術に正解というものはありません。むしろ、答えはいくつもあるかもしれない。造形活動は、自分自身と深く対話して答えを見つけ出していくことにほかならないのです。こうした作業を通して、自然や人への深い理解、広義の愛が育まれていく。それを私は「美の力」と言っています。失敗してもいいのです。失敗を恐れず、答えのないところでものをよく見る、よく見て描く。 それこそが美術大学で学ぶことなのです。人間の根本となる土台作りをする場所として、人間の本当の意味での創造力を育む場所として、美術大学の存在は非常に貴重なのではないかと私は考えます。 2011年(平成23年)3月11日の東日本大震災は未曾有の被害をもたらしました。大震災で被害を受けられた皆様に心よりお見舞い申し上げます。この大災害は、多くのことを私たちに投げかけていると思います。自然の持つ計り知れぬ巨大なエネルギーを否応なく見せつけられ、これまでの自然と人間の関係の問い直しを迫られているのではないでしょうか。皆さんの若き強靭なる感性をもって、自然と人の共生する世界を創り上げていって欲しいと思います。 ものをつくり出すということは、人間が本来持っている「力」であり、愛であります。他者への広義の愛こそが、この地球の自然を守ることの根底を築くのではないでしょうか。既成概念にとらわれない造形活動を通して「美の力」を育んだ本学の学生たちは、必ず社会から必要とされることでしょう。皆さんの今後の活躍に、私は大きな期待を寄せています。 |