造形総合・彫刻Ⅰ 1年次開講
『No.19のアジール』
パフォーマンス|布、段ボール、紙、竹|H2500 × W2500 × D2500mm
自分の弱みや要求を語ることが忌避される社会に問いかける
2年生が必修で受講する彫刻の授業で行ったパフォーマンスで、ニワトリの着ぐるみの中に私が入り、鑑賞者にさまざまな要求をします。着ぐるみは幅広い世代から人気を集めている、ある“ゆるかわ”のキャラクターを模したもの。そのキャラクターの世界観ではコンプレックスを乗り越え成長する過程ではなく、コンプレックスを抱えながらもごはんを食べたり寝たりといった日々の繰り返しの時間を過ごす姿が描かれます。人気を集める理由の1つとして、そのような時間の価値が迷惑をかけないか・役に立つかを重視する社会の中で見えづらくなっていることがあると考えました。それが制作の動機にもなっています。
自分の弱みや要求を語ることを忌避し完璧さを求める社会では、健常者であれ障害者であれ社会的な立場に関係なく、成長や生産のない、日々繰り返していく時間の中にある人間の価値が無視されがちです。 そんな社会の風圧について、これからも問いかけていきたいと思っています。
(2年|尾畑さくらさん)
平面色彩構成 2年次開講
『房総半島砂の旅~仁右衛門島と自画像~』
紙、ミクストメディア|H2500 × W2750mm
「砂と美術」をテーマに面白い作品を生み出したい
砂浜の砂の色やかたちは砂浜ごとに違うと知ってから、千葉県内の海岸線を旅して採取した砂を画材にした表現に取り組んでいます。この作品は多くの文化人が訪れた鴨川市の太海から発想して制作したもの。周辺の漁村の街並みを画面構成に取り入れ、その地で取材したとされる、つげ義春氏の『ねじ式』をオマージュした自画像も描きました。今回の課題は「身体とは何か」がテーマで表現方法は自由ですが、2m超の壁面や空間に収まるものという条件がありました。自分の身体より大きな支持体に描くのは初めてでしたが、道具を改造、自作するなど新しい手法を試しながら楽しんで制作できたと思います。
最近は砂浜を描いた絵画作品の舞台を訪ねる“聖地巡礼”もするようになり、「砂と美術」という研究テーマが固まりつつあります。岩絵具のように色として使う砂、サンドマチエールなど質感として使う砂がありますが、それ以外にも砂と美術を結びつけるものを発見し、面白いものを生み出していきたいです。
(2年|仲村浩一さん)
絵画実習Ⅳ 3年次開講
『きょうはきみのたんじょうび』
油彩、キャンバス│H1120 × W1455mm
制作への悩みが吹っ切れたケモノたちとの共生関係
私が絵画を描く理由は、究極に自分のためなのだと気付かされた1枚です。基礎課程中は自分は絵画で他者に何を伝えたいのかを悩み続けていましたが、自由課題がメインになる専門課程に入ってこの“不定形なケモノたち”を描き始めたことで吹っ切れるものがありました。彼らが人間社会の風刺なのか、それとも私自身の精神の写し鏡なのかはわかりません。なれるはずもない人の真似事をしている様はどこか自分と重なるようで、彼らを描くことで自分を肯定できるようになった一方、彼らに利用されているような共生関係を感じながら制作していました。
そして今後もケモノたちとの蜜月を深めていくことで、何かかけがえのない経験が生まれるのではないかという予感がしています。
先生たちはこのモチーフにこだわる私を肯定し、次のステップへ進めるように導いてくれました。専門課程から2つのコースに分かれるものの、むしろコースの隔たりなく油絵専攻の先生全員が学生をバックアップしてくれていると感じます。
(3年|中川晴賀さん)
絵画実習Ⅱ(技法研究Ⅰ)3年次開講
1 フランシスコ・デ・スルバラン『神の子羊』の模写
油彩、キャンバス│H373 × W620mm
2 コンクールに出品した『花嫁の待つ日』
油彩、キャンバス│H606 × W910mm
3『 花嫁の待つ日』のために制作したモチーフ
作品に込められた祈りと私自身の信仰心を重ねられた
油絵専攻には先人の画家たちの考え方や技法を学ぶ「絵画組成」の授業があります。この作品は基礎課程での絵画組成の学びを生かしながら、古典技法をクラスに分かれて研究する3年次の集中ゼミで制作した模写です(1)。美術予備校で模写の経験はありましたが、表面的に似せることに傾倒してた当時と違い、今回の制作中には、おこがましいかもしれませんがスルバランが見ているものを自分も見ているような感覚がありました。それは、この作品に込められた静かな祈りと私自身の信仰心を重ねられたからではないかと感じています。
もともと3年次後期のコンクールに向けた習作の一環として受講し、実際のコンクールでも『神の子羊』をオマージュした作品を制作しました(2,3)。祖父の死やコロナ禍によって家族とより深く関わるようになり、改めて信仰について感じたことを描きました。絵画組成室の先生やオーディエンスからの賞もいただけて、今、作品は実家のリビングに飾ってあり
ます。
(4年|髙橋冴さん)