荒川歩

荒川歩(あらかわ・あゆむ)
ARAKAWA Ayumu

専門
心理学
Psychology
所属
クリエイティブイノベーション学科
Creative Innovation
職位
教授
Professor
略歴
2010年4月着任
1976年大阪府生まれ
同志社大学大学院 文学研究科 博士課程後期課程
博士(心理学)
研究テーマ
質的研究法、アートベースドリサーチの教育法、心理学

著書(過去5年):『心理学概論』ミネルヴァ書房 '20年(分担執筆)、『装いの心理学』北大路書房 '20年(分担執筆)、『民事陪審裁判が日本を変える』日本評論社 '20年(分担執筆)、『ナッジ・行動インサイト ガイドブック』勁草書房 '21 年(分担執筆)、『はじめての造形心理学ー心理学、アートを訪ねる』新曜社 '21年(編著)、『ビッグ・ゴッド:変容する宗教と協力・対立の心理学』誠信書房 '21年(共編訳)、『その規約、読みますか? : 義務的情報開示の失敗』勁草書房 '22年(共編訳)、『児童心理学・発達科学ハンドブック』福村出版 '22年(分担翻訳)、『カウンセラーとしての弁護士: 依頼者中心の面接技法』法律文化社 '23年(共編訳)、『なぜ子どもは神を信じるのか?: 人間の宗教性の心理学的研究』教文館 '23年(共編訳)、『〈よそおい〉の心理学: サバイブ技法としての身体装飾』北大路書房 '23年(共編著)、『要説パーソナリティ心理学: 性格理解への扉』ナカニシヤ出版 '23年(分担執筆)、『人物で読む心理学事典』 朝倉書店 '24年(分担執筆)『アートベースドリサーチ ハンドブック』福村出版 '24年(共編訳)

論文(過去5年):有効なインタビュイーの抽出法:NEOインタビュイー・スクリーニング・テストの開発」『武蔵野美術大学研究紀要』'19年(共著)、「裁判員裁判を想定したフォーカスグループの効果の検証」『社会心理学研究』'19年(共著)、「インタビュイーの語り手としての特性と質的研究」『質的心理学会研究』'19年(共著)、「アナログゲームデザインを通した大学教育の可能性」『シミュレーション&ゲーミング』'20年。「美大型創造性尺度の作成とその評価」『武蔵野美術大学研究紀要』'23年、「創造性評価眼に基づく創造性測定方法の開発の試み」『ソーシャルクリエイティブ研究』'23年、「デザインの「現場」の変化と,「現場」と遭遇する方法の教育」『質的心理学フォーラム』'23年

Ayumu Arakawa is a professor of psychology. His research interests are history of psychology, law and psychology, non-verbal behavior, & human trivial behavior (lucky charm, gaming etc). He published some books, "History of Psychology" (2012, Sato, Suzuki, & Arakawa)*, "Psychology for thinking"(2012, Arakawa & Asai)*, “Introduction to personality psychology”(2018, Suzuki, Arakawa, Tabata & Tomono) etc and many papers "Psychology on feelings and emotions, its history in Japan" (2005)**, "Japanese History of the Psychology of Fine Arts and Aesthetics" (2016)**, "History of “History of Psychology” in Japan" (2016, Sato, Mizoguchi, Arakawa, et al)** etc.

* In Japanese;
** In English;


研究テーマ1
人の非合理行動を踏まえた社会デザイン

人は目先の目立つ利益に弱く、長期的なリスクには鈍感である。だから合理性という意味で言えば、十分ではない判断をして、後悔することも少なくない。もちろん後悔するのも自由だし、合理的であることだけを目指していたら、人生は味気ないものになるだろう。また、一見非合理的に見えても、実は本人の選択肢の中では非常に合理的であることも少なくない。
とはいえ、世の中には意図せず(あるいは意図的に)、このような人の弱さを悪用する人もいる。先ほど紹介したような愛すべき人の特徴をすこしだけ生かして本人にも社会に役立てるのも、悪用するのも環境のデザイン次第なのである。
そこで、デザイン要素としてのヒトに注目し、その特性、およびそれをよりよく生かすための方法について研究をおこなっている。

研究テーマ2
媒介物のルールの解明と作成

もう一つ、裁判員の研究とは少し違う視点の研究も行っている。あなたは人に何かを伝えるときに、どのような方法を使っているだろうか。言葉、文字、表情、絵、など、さまざまな方法が思いつくだろう。人に何かを伝えるとき、そこには必ず、音声や身体、記号など、何らかの媒介物が存在することになる。媒介物なしに人は、何かを伝えるのは困難である。そして、さらに言えば、物事を考えるのにも媒介物が必要である。たとえばイメージや言語がなければ物事を考えるのは困難である。しかし逆に言えば、われわれの思考やコミュニケーションは媒介物に大きく制限されているともいえる。思考の基盤になる身体がどのような状態にあるのか、どのような言語を使って考えるのかによって、何をどれくらい伝えられるのか、何をどれくらい考えられるのかは異なる。たとえば机の上に散らばった10円玉を数えるときに、体を動かさないように数えようとすると非常に難しい。母国語以外の得意でない言語で、冗談を考えようとするのも同じく難しいだろう。こうした現象について、実験的な手法を用いて研究を進めている。

過去の研究テーマ:非言語コミュニケーション(しぐさ、顔文字)、心理学史、法と心理学(裁判員)、宗教心理学、ゲーミング、質的研究法


心理学の目的と方法

心理的な世界に関して言えば、人はそれぞれ井の中の蛙である。人はそれぞれ、世界とはこういうものだという知識をもって生きている。私たちは、一つの世界を世界中のみんなで共有しているつもりでいるが、あなたから見える世界の見え方と、隣の席の人から見える世界の見え方は、時には大きく異なる。それぞれの世界観は、それまでの生育過程の中ではぐくまれたものであり、経験や文化に大きく依存する。そして、人は自分の世界観の中でしか想像できない。これは、2つの問題をはらんでいる。第1に、自分から見える世界は当たり前すぎて目に見えない、見えていても気付けないという問題であり、第2は、他者も自分と同じ世界観を当然持っていると思い、他者の世界観について想像するのが難しいことがあるという問題である。たとえば、あなたが自転車に乗れるなら、乗れない人がうまく乗れずに転んでしまう感覚を感覚的に理解できるだろうか?人類の平均身長が10メートルだったらどういう生活があって、どういう苦労があるのかを想像できるだろうか?おそらくそれは難しいだろう。
心理学は、多くの人が「当たり前のこと」として持っている共通の傾向を明らかにするとともに、(自分とは違う)多様な世界の見え方を持っている人の世界について明らかにしようとする。あなたが「こんなふうに感じるのは自分だけに違いない」と思っていることであっても、みんなも同じように感じていることかもしれない。逆に、あなたにとって当たり前のことは、他の人にとっては信じられないことかもしれない。
しかし、人の心が人の心について考える心理学には大きな矛盾がある。心が心について考えても、考えるほうの心がもともと想像/理解できるものしか理解できない。それなら結局、考えるほうの心が知っていることしか知ることができないのではないか?この矛盾を解消するために、心理学は、人間の想像力を超えるための方法を開発しようとしてきた。それが心理学の研究法と呼ばれるものであり、実験や数量化、質的研究法などがある。
実験と呼ばれる方法では、実際にコントロールされた条件下で試してみて、自分の想像との違いを体験することで自分の想像力を超えようとするし、質的研究法では、生の情報が本来もつ意味から離れないように離れないように「手のひらサイズ化」することで自分の想像力を超えようとする。これらの方法は、われわれが普段見ている世界の見方に制約を課して、ある特定の一面だけから見ようとするものであるが、そのように制約が課されたからこそ初めて見えるものも少なくない。