Christophe Charles

Christophe Charles(クリストフ・シャルル)

専門
メディア・アート、音楽、パフォーマンス
Media-art, Music, Performance
所属
映像学科
Imaging Arts and Sciences
職位
教授
Professor
略歴
1964年マルセーユ(フランス)生まれ
筑波大学大学 院芸術学研究科 博士課程修了、デザイン学博士
フランス国立東洋文化東洋言語研究所 大学院博士課程修了、文学博士
研究テーマ
理論と実践の両面から、芸術作品に於けるバランス、相互浸透と環境性という概念を追究している。

現代芸術における理論的・歴史的な研究を行いながら、内外空間を問わずインスタレーション及びコンサートを実践。「日本の映像芸術」(実験映画やビデオアートを中心に)の研究主題に、筑波大学('96年)及びフランス国立東洋文化東洋言語研究所('97年)博士号取得。
記事掲載:「美学雑誌」(仏)、「ユリイカ」(日本)、「Leonardo」(米国)等。
音楽/音響作品:「undirected」シリーズ、ソロやコンピレーション50枚以上のCDをリリース(Mille Plateaux, Subrosa, ICC, CCI, Code, Cirqueなど)。
パブリック・アート(常設サウンド・インスタレーション):大阪市立住まい情報センター('99年)、成田国際空港第一ターミナル中央アトリウム('01年)。
欧米とアジアで個展や国際フェスティバルに於いて作品発表多数。ICAEE実行委員として独、仏、蘭、チェコなどで日本と海外の作家の交流展を企画。大学間(武蔵野美術大学、パリ国立美術高等学校、ノッティンガム・トレント大学等)の交流展も企画。
「戦後の日本における芸術とテクノロジー」研究委員(日本学術振興会)。環境芸術学会理事。

Christophe Charles (born in Marseille - France, 1964), works with found sounds and makes compositions using computer programs, insisting on the autonomy of each sound and the absence of hierarchical structure.
Graduated from Tsukuba University (PhD, 1996) and Paris INALCO (PhD, 1997) with dissertations about media arts in Japan, Charles teaches practice, theory and history of media arts, focusing on sound, performances and installations.
He has released music on several CD labels (Mille Plateaux, Subrosa, Murmur Records, etc) and has permanent sound installations at Osaka Municipal Housing Information Center and Tokyo-Narita International Airport. He has collaborated with composers (Henning Christiansen, Shiomi Mieko), media artists (Yamaguchi Katsuhiro, Yamamoto Keigo), and performers (Ishii Mitsutaka, Kazakura Sho).


「SETSUZOKU/接続」
著者と数名の学生による企画、運営したイベントである。パリ国立美術高等学校(ボザール)と武蔵野美術大学の学生が制作した交流展。2003年秋は東京、2004年春はパリでの展覧会やイベント。「ニューメディア」を専攻する学生達が、2つの文化の違いを芸術という手段によって理解していくという試み。東京の武蔵野美術大学、「Superdeluxe」や日仏学院、パリ・ボザールの「Galeries」や「Cour Vitree」、「Batofar」や地下鉄14番線(リオン駅など5箇所)にて作品を発表。

ネットワークとしての芸術

20世紀における西洋の芸術に関して2つの異なった傾向が認められている。1つは、ルネッサンス以来、造形芸術の分野でも音楽でも進められてきたある企てを尊重する傾向である。芸術や科学の様々な領域を区分けし、それぞれの分野の中をさらに明確に、専門的に定義していく。もう1つの傾向は、むしろ区分を開放し、混合させ、コミュニケーションと相互作用を行うこと、つまりそれぞれの分野がネットワーク状態にあることを再認識することである。後者は透視画法、集中化、ヒエラルキー、線形性を疑い、多様性、分散化、円環性を提案する。前者がデカルト哲学を後ろ盾にしているとすれば、物質の構造と世界の統一性という観念を研究した量子物理学を論拠とする後者は、東洋哲学と通じるものである。

後者の傾向を示している作品は、環境としての、つまり相互に作用する複数の要素によって構成されている作品のことを示している。視覚を超え、時空間の全体的な意識に迫る問題を提起しており、作品は複数の分野の「間」に位置し、または分野を超えて位置している。作品を閉じて完結したものとするよりは、様々な芸術分野への解放に繋がる。作品形態と概念を、またその重心を常に揺らしておきたい、拡散させたい、と望んでいるようである。もはや絶対的な、たった1つの中心はなく、そのかわりに複数の可動的で多機能の中心が生まれている。今後、作品が「完成」したと言った場合、それは、ネットワークの中の動きに応じて常に柔軟に姿を変えることができるということを意味する。

上記の概念を踏まえ、筆者の作品制作過程に於いて特に重要なアイディアとして、独立性、多数方向性、環境との相互作用、相互浸透というものを進めている。

環境と相互浸透する作品は観客に特別なメッセージを強いることもない。また、シナリオやストーリーによって展開しているわけではない。音のあらゆるコンビネーションを可能とし、音およびシーケンス/パートの順序を置き換えることは常に可能である。それぞれの要素(音)は独立しているため、ヒエラルキー・階層をあらかじめ決定する全体構造に従わないことを提案しており、作品に対する作家の「コントロール」という概念を考え直そうとしている。その性質を表すには「undirected」(無方向的、と同時に多方向的)という言葉を使っているが、意図(欲望)と無意図(偶然)の境界線を探求する手段(メディア)となる。

「大阪市立すまい情報センター」のモニュメント
大阪の天神橋6丁目の「大阪市立すまい情報センター」のモニュメント(1999年)には、様々な形態の作品が集合している:オブジェ、ビデオ映像、ホログラム、音楽。一日中、4つの曲はロトンダの空間の中で響く。音楽と環境音が浸透するように音の素材を選び、会場に於いてそれぞれの素材の音量を細かく調整したものである。
写真:斉藤さだむ

東京成田国際空港第一ターミナルの中央アトリウムの常設サウンド・インスタレーション「COSMOS」(2001年)
環境の音を測りながら制作した4つの曲は、逢坂卓郎氏と長谷川智氏のヴィジュアル・インスタレーションと共に空間を再構成している。

音楽は環境音と同様の立場で独立していることによって、聞き手は音楽を聴くことで環境音により敏感に感覚/知覚するようになり、様々な聴き方を体験することができるようになる。それぞれの(無)音(=サイレンス=ノイズ)はそれ自体によって聴かれ、他の音に覆われたり、削除されたりすることはない。マックス・ノイハウスの屋外音楽(例えば『Times Square』)のように、音景の細やかな音も拡大され、鮮明に聞こえてくるのである。音楽自体は「window」、場合によっては望遠鏡または顕微鏡のようなものでもある:外面の風景への窓のみならず、「心」という内面の風景への窓にも成りうる。「すべて」の音が聴こえるような状態を可能とする音楽は、一種の「ハーモニー」(和音という音楽的な意味のみならず、調和、和合の意味も含めて)を出現させる。この「ハーモニー」はあらかじめ設定されているものではなく、パントナリティーまたはパンハーモニー(総調性)、つまり音が常に他の音と合することが可能な状況から現れるのである。すると、「音楽がそれ自体として成り立っている」(「holds itself up」、ジョン・ケージの言葉)。

CD-ROM「undirected 1986-1996」(「Mille Plateaux」社、ドイツ、1997年)
「オーディオ」の部分には、1986年から1996年まで制作された楽曲が収録されおり、「ROM」の部分には、作曲過程で使用されたソフトウエア「MAX」のパッチ、サウンド・ファイル(音の素材)、画像及びテキストが含まれている。つまりオーディオトラックを制作するためのシステムは、作品の一部として発表され、制作過程と完成作品は同様のものとして位置付けられている。

CD-ROM「undirected/dok」(「Mille Plateaux」社、ドイツ、2000年)
ドイツの作曲家OVALと交流を行い音の素材を交換した結果として発表した作品。「undirected 1986-1996」と同様に、制作に使用されたソフトウエア「Max/MSP」のパッチも同じパッケージに発表されている。ある種のオーディオシネマとして構想された音楽で、常に未完成で、変更可能のものであり、「開かれた作品」とも言える。構造的に「オープン」な形態によって、環境からの「妨害」を受け入れる性能を持っている。

CD『undirected 1992-2002』(「Subrosa」社、ベルギー、2003年)
1曲目はデンマークの作曲家、ヘニング・クリスティアンセンへのオマージュ、2曲目は1992年以降制作された様々な常設/仮設インスタレーションやコンサートのための素材によって構成されている。

教育の面では研究の面と同様、メディアアート、ネットワークアート、サウンドアート、ビデオアートと言われている分野についての講義や、インスタレーションやパフォーマンスの演習に実践している。学内や学外に於いて、国内や海外の他の大学と様々な企画を進め、上記の概念を授業の内容に取り込み、学生の作品制作または論文執筆を指導している。これまでの主なプロジェクトとして、フランス国立高等美術学校(ENSBA)との「Setsuzoku」交流展、英国ノッティンガム大学(NTU)との「領域の行き来」交流展、多摩美術大学、韓国の壇国大学とフランスのESA(エックスアンプロヴァンス美術高等学校)のネットワーク芸術プロジェクトなどを企画、実践してきた。それぞれのプロジェクトに於いて、多数の作品形態によるリアルタイムのコラボレーションを実践し、さらに展覧会場、コンサート会場、インターネット上などでも作品(インスタレーション、音楽、映像など)を発表してきた。この一連の活動の重要な目的のひとつとして、学生にとっての経験、また研究業績を増やすことにある。作家として、あるいは専門職として今後活動するために必要なことである。活動の詳細はhttp://home.att.ne.jp/grape/charles/classes.htmlを参照。

「nu:」
「nu:」アンサンブルは、多摩美術大学と武蔵野美術大学のコラボレーションチームとして2003年にスタートした。せんだいメディアテークにて、「Brakhage Eyes」企画の一環としてコンサートも行った。

open campus live
武蔵野美術大学オープン・キャンパス'05の際に実現した、武蔵美と韓国の壇国大学間の、インターネット・ストリーミングを使用した、生楽器、エレクトロニクス(映像と音)やパフォーマンス(サルプリ舞踊、コンテンポラリーダンス、パントマイム、バレエ、身体パフォーマンス、ボディペインティングなど)によるライブ・イベント。写真は韓国会場から見た大学院生の矢後智之のパフォーマンス。