杉浦幸子(すぎうら・さちこ)
SUGIURA Sachiko
- 専門
- ミュージアムを中心にアート、デザインを活用した生涯学習支援
Art Management - 所属
- 芸術文化学科
Art, Culture and Design Studies - 職位
- 教授
Professor - 略歴
- 2012年4月着任
1966年東京都生まれ
ウェールズ大学カーディフ校大学院修了(教育学)(修士) - 研究テーマ
- ミュージアムにおける生涯学習支援システムのデザイン及びマネージメント。美術館における鑑賞プログラムのデザイン。
'90年お茶の水女子大学文教育学部哲学科美学美術史専攻卒業。'95年ウェールズ大学院教育学部修士課程修了。ギャラリーエデュケイター、プログラムデザイナー。
乳幼児や障がいを持つ方、日本語を母国語としない方を含めた、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが、ミュージアム、また広くアート、デザインにアクセスし、生涯学習を行うためのプラットフォームおよびプログラムをデザインし、その実施をマネージメントする。
'01年「第1回横浜トリエンナーレ」教育プログラム担当。'02-'04年森美術館パブリックプログラムキュレーター。'05-'11年京都造形芸術大学「世界アーティストサミット」コーディネーター、国際交流グループヘッド、大学におけるアーティスト・イン・レジデンスプログラム“Creators in University”ディレクター。'12年エイブル・アート・ジャパン「美術用語の手話化」委員。
伊勢丹美術館、川崎市岡本太郎美術館、神奈川県立近代美術館、町田市立版画美術館、三鷹市美術ギャラリー、京都国立近代美術館、北九州市立美術館、川口市立ギャラリーアトリア、富山県立近代美術館、大塚国際美術館、NHKプロモーションなどと協働し、ミュージアムを学びの場として活用するプログラムを企画・実施。
I teach and research educational aspects of art and design as well as museums and art galleries. Particularly I have been working on the development of the access system of lifelong learning in museums and galleries for people with broad backgrounds including infants and parents, people with disabilities or foreign people.
Also I have been organizing various art appreciation workshops and activities with artists as well as artists-in-residence programs in art galleries and universities.
I was an education officer of the 1st Yokoyama Triennale 2001, a public program curator of Mori Art Museum between 2002 and 2004, a program coordinator of ARTISTS SUMMIT KYOTO and Creators in Universities between 2005-2011.
森美術館「ハピネス展」2003年
写真提供:森美術館
森美術館「小沢剛展」2004年 ヴィジョンツアー(当時)
写真提供:森美術館
学びの場としてのミュージアム
研究テーマの一つが、学びの場としてのミュージアムです。
「学びの場」と言うと、まず「学校」、そして「家庭」が思い浮かびますが、「きっかけ」をキーワードにもう少し広く考えると、もう一つの場として「社会」が浮かび上がってきます。学びのきっかけとなる刺激・情報に満ちた社会。五感を通して取り入れた刺激を記憶に照らし、認知するプロセスを繰り返すことで学びが生まれますが、そうした刺激を発する社会の中の一つの学びの場、それがミュージアムだと考えています。
ミュージアムでは、さまざまな刺激が受けられますが、一番はやはりそこで出会う〈もの〉だと考えています。科学博物館、歴史博物館、動物園、美術館。収蔵する〈もの〉はさまざまですが、〈もの〉自体が発信するさまざまな刺激に来館者はさらされます。
またミュージアムで出会う〈ひと〉もさまざまな刺激・情報を発信しています。〈もの〉の展示を通して刺激を発信する学芸員、そしてミュージアムでまず初めに出会う受付やチケットカウンターのスタッフ、展示室内の看視員、警備員、そして自分以外の来館者、姿は見えないバックヤードの運営スタッフも、意識的に、また無意識的に刺激を発しています。
そして〈もの〉〈ひと〉を包み込む〈場〉も、重要な刺激を発しています。〈もの〉が置かれる〈場〉である展示室の広さ、天井高、温度、明るさなどはもちろんのこと、建物の外観、エントランス、トイレ、ミュージアムショップ、カフェ、レストラン、庭園など、さまざまな〈場〉がひそやかに、しかしさまざまな刺激を発信しています。またミュージアムを取り巻く〈場〉も刺激の発信源です。最寄りの駅までの道々、そこからミュージアムまでの道々、そこで目にし、何を体験するかもミュージアムでの学びに影響します。
また、ミュージアムを訪れるひとだけでなく、学芸員、スタッフといったミュージアムの中にいる〈ひと〉も、ミュージアムに関わる〈もの〉〈ひと〉〈場〉から日々学んでいると考えています。〈もの〉〈ひと〉〈場〉、この3点が発する刺激・情報を軸に、常に学びが生まれている場、それがミュージアムであると考えます。
このように、優れた学びの場であるミュージアムを、年齢や国籍、障がいなど、さまざまな特徴をもつ人々が、自分の都合やニーズに合わせて、自由に使いこなすために、なんらかの支援をすることが、もう一つの大きな研究テーマです。ワークショップやレクチャーなど個々のプログラム、さらにはそうした個々のプログラムを包み込むシステムをミュージアムに作ることで、ミュージアムへのアクセスをデザインしています。
そこで特に重要な対象であると考えているのが、ミュージアムに活用することが、自分の生を豊かにする可能性があることをたまたま知らないで生きてきた人、またその可能性を感じつつも、さまざまな要因でミュージアムを訪れることにしり込みをしてしまう人、また自分の意思とは関係なくミュージアムに連れてこられる人が、特に重要な対象であると考えています。例えば、森美術館立ち上げの際にデザインしたシステムでは、聴覚や視覚に障がいがあって美術館へのアクセスにさまざまな困難を感じている方、小さな子どもさんを連れて美術館に行ってみたいが行きにくいと思っているお母さん、お父さん、日本語が使えない海外の方、学校の行事で否応なく美術館に来る学生さん、といった人をサポートし、美術館を使ってもらうことに特に重点を置きました。
アート、デザインを通した学びを支援する
このようにミュージアム、そしてさらに広くアート、デザインを、さまざまな人たちが活用するシステムやその中で動く個々のプログラムをデザインし、実施する多くの場面で、アート、デザインを学ぶ学生、またアートマネージメントを学ぶ学生と協働してきました。当初はこちらがデザインしたシステムやプログラムを学生がサポートする、という形から始まりましたが、徐々に学生が主体となってデザインやプログラム実施を行うことが増えてきました。
具体的な対象者を設定し、その人たちの学びの体験をできるだけ良いものにするシステムやプログラムを作ることは、作品制作をする学生にも、アートに関わる仕事に関心のある学生にも、実体験から得られる多くの刺激・情報が可能にする学びを提供します。他者の学びをデザインすることが、自分の学びのデザインとつながる。この学びの連鎖をデザインすることが、一つの教育活動であると考えています。
京都造形芸術大学「第3回世界アーティストサミット ASK2009」
ドキュメントブック
一つの例として「世界アーティストサミット ASK」というプログラムを挙げます。このプログラムでは、国内外のアーティストが世界の問題に対し解決策を提案するラウンドテーブルと、その内容を識者が専門的視点からレビューし、社会につなぐシンポジウム、という2つのプログラムに加え、このプログラム全体をサポートする学生スタッフを育成する「フォースプロジェクト」が重要な位置を占めていました。当初は、こちらの指示をベースに、参加する海外からのアーティストをアテンドし、当日のラウンドテーブルやシンポジウムの運営を行うという受動的な学びがメインでしたが、徐々にテーマに関連したレクチャーの企画実施、広報活動、アーカイブ、ドキュメントブックの制作などを学生主体で行うようになり、学生たちが他者の学びをデザインすることから自分の学びをデザインする方向にシフトしていきました。
ミュージアム、アート、デザインは、さまざまな人の学び、豊かな生に寄与するさまざまな刺激・情報に満ちています。美術大学という教育現場をフルに活用し、そうした刺激・情報を活用するシステムやプログラムを、学生と共にデザインし、また彼ら自身がデザインするサポートをしていきたいと考えています。
『ミュゼオロジー実践篇』
岡部あおみ監修
武蔵野美術大学出版局 2003年
『ミュージアムと生涯学習』
神野善治、杉浦幸子、紫牟田伸子、仲野泰生、鈴木敏治著
武蔵野美術大学出版局 2008年