令和8年度入学式

日時 2026年4月2日(木)
10:00開式(9:00開場)
場所 武蔵野美術大学 鷹の台キャンパス 体育館2階アリーナ

式次第

  • 在学生ジャズパフォーマンス
  • 開式の辞
  • 校歌斉唱
  • 教員紹介
  • 学長式辞 樺山祐和
  • 理事長祝辞 長澤忠徳
  • 教員祝辞 山中一宏
  • 卒業生代表祝辞 佐藤信介
  • 閉式の辞
  • 在学生ジャズパフォーマンス

会場風景

学長式辞

写真:樺山祐和

武蔵野美術大学学長
樺山祐和

本日、ここに、新入生、
造形学部925名。造形構想学部184名。
大学院造形研究科修士課程107名。同博士後期課程7名。
大学院造形構想研究科修士課程59名。同博士後期課程1名。
海外からの留学生221名。
通学過程総数1,283名に通信教育課程総数を加え、新入生を迎えることができましたことは、本学、教職員、スタッフ、並びに全ての関係者にとって喜びに耐えないことです。

また、本日を迎えるまで、新入生を支え、励ましてこられたご家族、保護者の皆さまに、心より敬意を表しますとともに、深くお祝い申し上げます。
本当におめでとうございます。

現在、武蔵野美術大学は、1929年、本学の前身である帝国美術学校創立以来、美術、デザイン、芸術文化領域の専門大学として現在まで97年の長きにわたり、我国を代表する美術大学として歴史を刻んできました。
通学課程4,835名、通信教育課程、2,971名、学生総数、7,806名に達するわが国最大規模の美術大学です。

2019年には造形学部、造形構想学部の2学部制への移行を経て、2023年度、通信教育課程が、鷹の台キャンパスに合流し、通学課程と通信教育課程が場所を共有する新たな教育環境が整いました。
加えて、都心キャンパスとして市ヶ谷キャンパス、三鷹に三鷹ルーム。各々のキャンパスでの学びが始まっています。
そして、武蔵野美術大学は3年後の2029年に創立100周年を迎えます。

新入生諸君!
入学おめでとう!
教員、職員、スタッフ一同、皆さんの入学を心より歓迎いたします。

皆さんは、美術大学に入学することを志し、難関の入学試験をパスする為に様々な努力を重ねてきました。そして、その努力が形となって、今、ここにいます。
それは、自分の人生を、創ることに賭けてみたいと考えたからに違いありません。

何かをつくりたい意欲はどこからやってくるのでしょう。それは言葉では説明できない衝動としか言えないものかもしれません。
そんな、人間の根源的な衝動に突き動かされ、導かれ、皆さんは今、武蔵野美術大学にいるのです。

これから絵を描き、彫刻を作り、デザインをし、建築をし、言葉を使ってゆくことで、その衝動の正体に近づくことができるでしょう。

絵画とは何か。彫刻とは何か。デザインとは何か。建築とは何か。
徹底的に創り考える。その果てに、作るとは何か。人間とは何か。
そして自分自身とは何者なのかを探究することへとつながってゆくのだと思います。

皆さん一人一人が武蔵野美術大学という舞台で繰り広げられる物語の主人公です。どのように考えるのか。どのように作るのか。どのように生きるのか。
それを決めてゆくのは君たち自身です。
私たち教員、職員、スタッフは、これからはじまる君たちの物語を全力で支えてゆきます。

では、主人公に求められるものは何でしょうか。
一つは好奇心、一つは既存の価値を疑うこと、一つは常に純粋な眼差しを持とうとすること、一つは新しい自分を探そうとすること。
そしてそれらを実行する行動力と、考え作り続ける持続力です。

本学の教育理念に「真に人間的自由に達する美術教育」があります。この人間的自由が含意するものは、美術教育が技術の習得や専門家の養成にとどまらない全人的な人間教育にこそ主眼がある事を伝えています。
美術にとって最も尊重されるべきものが「自由」ではないでしょうか。

美術大学は実験の場です。多くの失敗を容認できる場です。
それは多くの試みを捨てる自由があるということ。
多くの無駄を行う自由があるということ。

そのような行為を通じて「伝わる」という不思議、そして「伝える」ということがいかにして成されるのかを学ぶ場が美術大学なのです。
答えは誰も持っていません。だからこそ問い続けるしかないのです。
そして、自由を探す造形と思索は君たち自身を作り変えてゆくことなのです。

世界は今、情報通信技術の発展によってグローバリゼーションを爆発的に拡大させ、私たちはかつてないほどの相互依存の世界に生きています。それは国家、民族、社会体制などの違いを乗り越え世界をつなぎ合わせ、相互の差異を認め合い、多様性という共通の価値を共有する新しいステージへと世界を導いてきたかに見える一方で、科学技術による工業化は、衣、食、住、そして思考や感覚や感情までも同質のものにする均一性へと導いているとも言えるでしょう。
私たちは、多様性と均一性とが同時に進行する世界に生きています。

そのような現代において、生命や文化の多様性への価値を共有し、認めあい、私たちが各々の個性を発揮し生きて行ける社会は、どのようにすれば実現出来るのでしょうか。

新しい価値、新しい知性によるパラダイムシフトが求められていることは間違いありません。

その実現のために、美術だからこそできる貢献があるはずです。

表現する行為の現場性はアルタミラやラスコーの時代から変化していません。身体性、精神性といったものに関しても、時代が移り変わっても、私たちの心の底流に流れ続けているはずです。
一方で情報通信技術、そして今までになく社会を変えると言われる生成AIや量子コンピューターといった科学技術による新たな可能性までの大きな射程で思考できる領域が美術なのです。
新しい知性の創出のために既存の考えや方法や枠組みに縛られない自由な発想の現れることが切望されているのです。

全ての文化活動には、その内部にドラスティックに変わろうとする力が内蔵されています。自己矛盾的な破壊への衝動がセットされています。
そしてそれは君たち一人一人の中にも同様にセットされているはずです。
変わろうとする事。見たこともない風景を見ようとすること。
そんな一人一人の取り組みが、新しい知性を生み出すことに繋がってゆくのだと思います。

留学生のみなさん。
皆さんは自国を離れ、この武蔵野美術大学での学びを実現するために、日本語を勉強し、造形を勉強して来ました。
どうか、たくさんの友人を作ってください。
そして日本の新入生のみなさん。
文化も言語も異なる留学生たちと積極的に会話をし、多様な価値観を認め合ってください。
造形の言葉には、国籍、民族、人種、性別、そして言語を乗り越える大きな力が備わっています。私たちは造形の言葉によってコミュニケートする事ができるのです。美術だからこそ様々な違いを乗り超えて行けるのです。
そして、様々な対話の機会が、お互いの文化の差異と共通を少しずつ気づかせ、文化的差異を乗り越えた、人間としての相互理解を作り出すでしょう。
それは今に生きる私たちが果たすべき責務であり、未来への希望でもあると思います。
そして、それは、国でも大学でもない一人一人の友情から始まるものなのです。

最後になりましたが、今、ここで君たちに言葉を贈ります。
それは、「君たち自身となれ!」ということです。
君たち一人一人に、無限の可能性が、内包されています。
私たちが、存在することの不思議を思ってください。
それは、何億年も前の生命誕生の時まで遡ることができます。
君たちの中には、魚や鳥であった時の遠い記憶が内包されています。
その記憶には人種や国籍や言葉の違いなどありません。
そんな生命の記憶を、どれだけ深く、たくさん手繰り寄せることができるのか。表現の強度とは、その様なことに関わっているのかもしれません。
人間的自由は君たちの中で発動されるのを待っています。
つくるという旅が、始まります。
それは、行き先のわからない、経路のわからない旅です。
しかし、わからないからこそ自由であり、多くの新鮮な出会いがある。
ぜひ、君たち自身の若い力で、未だ出会えていない、新しい自分に、出会ってください。

みんな、がんばれ。

理事長祝辞

写真:長澤忠徳

学校法人武蔵野美術大学理事長
長澤忠徳

学校法人武蔵野美術大学を代表して、理事長を務めております私、長澤忠徳よりお祝いの言葉を贈らせていただきます。

本年度、学部生ならびに大学院生、1,283名の令和8年度新入生の皆さんをお迎えすることができましたことは、武蔵野美術大学の大きな喜びであります。この中には、数ある日本の美術系大学の中から本学を選び、難関を突破して入学された221名の留学生の皆さんが、含まれています。

新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。今日から、武蔵野美術大学が、皆さんの母校になります。

また入学生のご家族の皆さまのお慶びもひとしおかと存じます。おめでとうございます。
我が国を代表する伝統あるこの武蔵野美術大学に、御子弟を進学させていただきました保護者の皆さまのご理解とご支援に、厚く御礼を申し上げます。

さて、武蔵野美術大学(ムサビ)は、その前身となる1929年の帝国美術学校創立以来、「教養を有する美術家養成」を建学の理念とし、「真に人間的自由に達するような美術教育」という教育の理念を守り、我が国を代表する私立の総合美術系大学として発展してまいりました。国内はもとより、世界で活躍する数多くの卒業生を輩出してきていることは、みなさんもご存知のことと思います。

全国すべての都道府県のみならず、海外にも4つの支部を有する、本学校友会は、7万9,000名を超える美術大学では我が国最大規模の卒業生からなる会員数を誇ります。

2029年に創立100周年を迎える本学は、75年前の1951年に開設した美術分野の通信教育のパイオニアとして、さらには、「造形学部」、そして、我が国で最初に「デザイン」を冠する学科を創設し、造形美術教育分野の先駆けとして、日本の美術・デザインの高等教育を常にリードしてきました。

また、創立90周年の年・2019年度には、優秀な多くのクリエイティブ人材を国内外に輩出してきた伝統ある本学の「造形学部」、「大学院造形研究科」の造形教育の実績を基盤として、創立以来培ってきた「造形言語リテラシー」能力と、自然言語リテラシーとのハイブリッドな能力を有する新しいタイプのクリエイティブ人材の育成を目指して、従来の美術大学の固定観念を超えた「造形構想学部」と「大学院造形構想研究科」を創設し、同時に、都心・市ヶ谷に新たな「市ヶ谷キャンパス(Institute of Innovation)」を開設して、本学は、未来社会に貢献する「創造的思考力」を育む、我が国を代表する最大規模の総合美術系大学として、二学部からなるUniversityとしてのカタチを整え、「美はつづく。」をコンセプトワードとして2029年度に迎える創立100周年に向けた、新しい歴史の一歩を踏みし、国内外からも大きな注目を集めています。

さらには、昨年度4月にグローバルセンターを新設し、海外からの留学生諸君の多くが希望する、「卒業後もこの日本でのさらなる修学と就職機会の創出」をより一層支援するために、グローバル社会で通用する教育の質の維持とさらなる向上を目指して、新たな修学環境の整備に着手しています。

こうした我が国の高等教育機関の先陣を斬るいくつものチャレンジは、最初であるがゆえに、さまざまな批判や困難にも遭遇して、決して容易ではありませんが、これまでも、そしてこれからも、創造的人材を育成する大学自体、つまり「本学・武蔵野美術大学自体が、創造的でなければならない」…と信じて、さらに進めて参ります。

ご存知の通り、世界では、ロシアのウクライナ侵攻によって勃発した戦闘が今もなお続き、また今年2月にイランに対するアメリカとイスラエルの戦闘も勃発し、街は破壊され、多くの市民にも犠牲者が増え続け、膨大な数の市民が、戦禍に怯える悲惨な事態が、今なお続き、日々犠牲者が出ている不幸な状況が続いています。
生きることへの安全・安心が脅かされ、世界の平和が崩壊の危険にさらされる地球規模での大問題となっていることは、連日、報道されている通りです。

同時にまた、私たちを取り巻く地球環境も、大きく変容しています。新入生の皆さんが活躍されるこれからの時代は、我が国も世界も、文明潮流の大きな変化の中にあり、国連が提唱するSDGsという言葉で知られるように、「地球と人類の永続性を守らねばならない社会」です。

私たちは、私たち人類の望ましい未来社会をしっかりと実現するために、あらゆる叡智を結集して立ち向かっていかなければなりません。そのためにこそ、「創造的思考力」を身につけたイノベーションを推進するクリエイティブな人材を、時代は、世界は、求めているのです。

私たちの武蔵野美術大学は、いまや、日本の私立の一美術大学としての存在を超えて、我が国のみならず、世界の文化、芸術、クリエイティブ産業を支え、リードし、ますます重要になる世界再構築に貢献するイノベーティブな人材育成を使命として担っているということを、皆さんには、しっかり自覚して、ここムサビで学んでいただきたいと思います。

さて、私は、2023年11月に武蔵野美術大学の設置者である学校法人の理事長に就任いたしました。私が学長に就任した2015年以来、「あの遥か彼方に見える水平線の上に立てるか…?」というメッセージを、毎年、くりかえし、学生諸君に問いかけて来ました。
今回もまた、このメッセージを皆さんに贈りたいと思います。

「あの遥か彼方に見える水平線の上に立つ…」ことを信じて、凪いでいても、難破しそうな大嵐でも、いつかきっと「水平線の上に立てる…!」とひたすら信じ続けれるチカラこそ、未来を切り拓く力になります。

理屈で不可能だと決め込んで、やらずに諦めるのではなく、足下を遠望すれば見えている「水平線」に立とう…と信じて進むことが重要だと、私は思います。「クリエイティブ、創造的である」ということは、そういうことだと私は信じているからです。

私たちの「水平線に立つことを目指した航海」は、コロナ禍という大嵐のまっただ中にあった期間もありましたが、皆さんの先輩たちは、その苦難を乗り越えて立派な成果を残し、ムサビを巣立って行きました。

信じ続けるチカラ、そして、挑み続けるチカラ、それには「持久力」が必要です。「持久力」を鍛えること。すなわち、ここムサビは、「創造の持久力」を鍛える場である…ということを、しっかり自覚していただきたく思います。

「創造の持久力」を鍛えるためには、あえて苦難に挑む「堅い意志」が必要です。この「意志」という言葉の「意」という漢字を想像してみてください。「意」という文字は、「音」と「心」という部分で成り立っています。
つまり、胸に秘めた熱い思いというのは、自分にしか聴こえない「心の音」のことなのです。それが、みなさんそれぞれの「個性」なのだと思います。
そして、「表現」とは、そんな自分の「心の音」を聞き、その「心の音」を、あらゆる可能な方法で、自分の身体の外に出すことではないか…と思うのです。

本学への進学がそうであったように、これまであなたを突き動かしてきた「心の音」を、どのように聴き、どう実現するか。どうやって自分の外に表出するか…については、あなた自身が一生懸命に悩み、考え、試行錯誤して、実現していただきたいと思います。
個性豊かな仲間が、そして先生方が、あなたを見守り応援してくれると思います。皆さんのムサビでの生活は、多くの体験によって多彩で多様な可能性を拓く、人生の大切な時間なのです。

皆さんは、すでに、「あの水平線の上に立つ」ことを目指して、大海原に漕ぎ出しているのです。そして、私たちの思いも同じです。
「創造の持久力」そして、「創造性」は、生きる力の根本でもあります。
この未曾有の現代文明社会の変容と地球規模の困難の中、皆さんのひたむきな「創造へのチャレンジ」を、私たち教職員は、しっかり支えて行く覚悟です。

ここで、ひとつ大切な事を話しておきたいと思います。
成人年齢が18歳となり、本学の学生諸君は、全員が「成人」であるということです。これまで保護の対象であった「未成年」ではなく、法的に自立した「成人」として、新たな権利を得ると同時に、社会的責任を負うことになります。
学生諸君は、どうか、その事をしっかり自覚して、確かな倫理観のもと、自分の行動に責任を持っていただきたいと思います。

学びのプロセスには、不自由なこと、不安なこと、辛いこともあると思います。皆さんは、多くの困難さえも学びの資源として、「創造の持久力」を鍛えてください。「真に人間的自由に達するような美術教育への願い」という本学の教育理念の真髄を体得していただきたいと思います。

さて、まるで冗談のように聞こえるかもしれませんが、ムサビには、「ムサビ菌」が棲みついています。ムサビらしさ、ムサビの校風は、いわば「ムサビ菌」のしわざでしょう。ムサビ教育を発酵・熟成させる善玉菌である「ムサビ菌」を存分に浴びて、学んでください。友だちをつくってください。

「ひたむき」である姿は美しい!…。青春を謳歌し、大いに遊び、語らい、楽しむことも含め、本学でのあらゆる活動が、「創造性」を獲得する本学での学びになります。この武蔵野美術大学での日々の学びが、皆さんを「人=人間」として、強く、たくましく成長させてくれると信じています。

さぁ、今日から「創造の持久力を鍛える」武蔵美での学びが始まります!
令和8年度入学生の皆さんに、あらためて、心からの祝福を贈ります。

「武蔵野美術大学へのご入学、おめでとうございます!」

教員祝辞

写真:山中一宏

武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科
山中一宏

本日は誠におめでとうございます。
長く話しません、短くいきます。
皆さんに、一つだけ、ぜひ心に留めておいてほしいことがあります。
それは、人生は一回しかないのだから、あまり良く考えずに生きてほしいということです。

普通はよく、逆のことを言います。
よく考えなさい。慎重になりなさい。と。

もちろん、それも大切です。
しかし、あまりにも頭で考えすぎると、本当にやりたいことをやらないまま一生を終えてしまうかもしれません。

だから私は、ときどき思うのです。
人生には、頭で良く考えるよりも、心で動くことが大切な瞬間が多くあるのではないかと。

面白そうだと思ったら、やってみる。
作りたいと思ったら、作ってみる。
少し不安があっても、その方向に進んでみる。

そして覚えておいてほしいのは、
見たり聞いたりした情報を元に生まれるものより、1人の個性の心から生まれた物の中に、強さと真の創造性があるということです。これは、生成AIにはできない、人間だけが持つ根源的で特殊な力でもあります。

頭で考えすぎるより、心が動いた方へ進む。
その瞬間の直感や思いつきが、皆さんの本当にやりたいことにつながるのです。

人生は一回しかありません。

ですからどうか、
良く考えずに生きてください。

実はこのお話をしようかと、先日息子に相談したところ、
「そもそも美大って、そういう人しかいないんじゃないの?」と元も子もないことを言われました。

皆さんの今日から始まるこれからの未来が、自由で勇気に満ち、創造性あふれるものになることを心から願っています。
入学おめでとう!!

卒業生代表祝辞

写真:佐藤信介

卒業生代表
佐藤信介

この度は皆さん、ご入学おめでとうございます。
今日はみなさんに私がこの大学で何を得たのかをお話しして、贈る言葉とさせていただき、今後の参考にしていただければと思います。
私がこの大学に進学したのは、今から約36年前です。
一浪して念願の視覚伝達デザイン科に合格し、かねてからなろうと決めていた映画監督を目指すべく、当時新設学科であった映像学科に進学を決めました。大学院で造形研究科映像コースを修了し、6年間の月日をこの大学で過ごしたので、卒業したのは今から約30年前ということになります。

入学当時から、私の狙いは映画監督と決まっていました。しかしいざ映画を作ると言っても、なかなかすぐにできることではありません。いつしか私は、「映画をつくりたい」と言うばかりで、まったく実際に作る気配のない学生になっていました。それが大学2年生の時まで続きました。少しでも役立ちそうな『写真』の授業に熱中したり、興味のある先生には授業後、話しかけ、脚本を見てもらったりと、準備は行っていたように思います。ただ、大学の2年間は色々と寄り道をしながらあっという間に過ぎてしまいました。そうして迎えた3年目。大学は絶好の制作機会を私に与えてくれました。それが進級制作でした。

進級制作において、いよいよ映画を作る。そう私は決意しました。映画は一人ではできません。仲間をまず探しました。一人は親友の同級生。もう一人は先んじて映画作りをしていた別の、特にその時友達でもなかった同級生でした。彼は私に映画の作り方というものを教えてくれました。もし映画を作ろうとしなければ、彼とは出会わなかったかもしれません。

毎日走り回って進級制作を完成させた私は、できるだけ間を置かず、その後すぐ小さな作品を作りました。そうこうしているうちに、すぐに四年生、大学最後の年となります。卒業制作の一年がやってきます。

私はそれまでに得たものをすべて卒業制作に注ぎ込みました。時間は無かった。私は、少しでも時間を節約するため、移動の時はなるべく走ろうとその頃決めていました。佐藤はいつも走ってるよね、と言われたあの頃のことを思い出します。
制作に勢いづいていた私は、大学院への進学を決めて、さらに本格的な二本の作品の制作に取り組みました。撮影は、同じく、あの当時友達でもなかった同級生。私も気持ちだけはもう、いっぱしの映画監督でした。
私はそれらの作品を持って、社会に出ました。
その後、大学の卒業制作が、ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを獲りました。大学院で撮った作品も劇場での公開が決まり、それらを見てくださったプロデューサーや、監督から、シナリオの依頼、そして何か新しい映画を一緒に作ろうという依頼が来るようになりました。
作る作ると言いながらまったく動かなかった私が、『進級制作』をきっかけに走り出してから5年以上が過ぎていましたが、私はまだ常に走っていました。時々思います。今も走っているなと。

そんな大学生活を過ごした私から、ここにいらっしゃる皆さんに言いたいのは三つです。
1、やりたいことを決めてください。まだ決まっていないなら、少なくとも夏くらいまでには決めたいですね。
2、それについて研究してください。本を読んでください。授業後、先生に接触するのもいいでしょう。授業だけが全てではない。先生とは直接話し、作品を持っていって見てもらったりしてください。先生は経験と情報とネットワークをお持ちです。私にとっても、先生との出会いは大学で得た大きな財産でした。
3、実制作をはじめてください。あなたはこの四年間、すでに仮初のアーティストです。ただのアーティスト気取りでもいい。制作をして初めて気付かされることもあります。たくさん失敗もあります。また人との出会いもあります。あの時出会った、最初に私に映画作りを教えてくれた同級生。彼とはあれから30年間、共に映画を作っています。私の作品で撮影をしていて、今や日本有数の撮影監督になっています。

大学にはそういうチャンスと人とのかけがえのない出会いがあります。
今からここを出て、始まる皆さんのこの大学での数年間が、私も楽しみで仕方ありません。
この度は本当におめでとうございます。