平成23年度武蔵野美術大学卒業式典

式次第

  • 開式の辞
  • 校歌斉唱
  • 学位記(卒業・修了証書)授与
  • 卒業・修了制作(論文)優秀賞授与
  • 学長式辞 学長 甲田洋二
  • 理事長祝辞 理事長 高井邦彦
  • 教員祝辞 教授 峰見勝藏
  • 校友会会長祝辞 中島信也
  • 閉式の辞

会場風景

式典スタッフ

総合演出 楫 義明 / 米徳信一(芸術文化学科教授)
映像協力 篠原規行(映像学科教授)/ 山崎連基(映像学科助手)/ 赤羽佑樹(大学院映像コース)/ 小田一也(芸術文化学科学生)/ 加藤恭久(映像学科学生)/ 大川夏来(映像学科学生)/ 岡田和音(映像学科学生)/ 宗 俊宏(映像学科学生)
音楽制作 中路あけみ(lemo) / 山屋俊彦
制作進行 森 啓輔 / 相澤和広(芸術文化学科助手)
リーフレットデザイン 清水恒平(オフィスナイス)
司会 加藤徹(教務課教務担当課長)
協力 武蔵野美術大学 美術館・図書館 / 映像学科 / 芸術文化学科学生有志
校歌斉唱 歌 志田陽子(教養文化研究室教授)/ 澤野誠人(学生生活課長)/ ジョ・ウットム(芸術文化学科学生)
特別出演 Funcussion
照明 大串博文(株式会社アステック)
音響 久保昌一(株式会社放送サービスセンター)
映像 須賀弘(株式会社教映社)
特効 石川真吾(有限会社酸京クラウド)
舞台 稲角光幸(有限会社アートセンター)
舞台監督 友井玄男

学長式辞

武蔵野美術大学学長 甲田洋二

本日、ここに卒業・修了を迎えた皆さん、おめでとう!

造形学部・大学院・通信教育課程、そして各国からの留学生を含め、合計1340名を超える卒業生・修了生を送り出す事が出来るのは、全教職員の大きな慶びであります。心よりお祝い申し上げます。

同時に、御臨席のご父兄の方々、それぞれに諸々の思いをお持ちでありましょう。本日のお喜びもひとしおかと拝察いたします。誠におめでとう御座います。

昨年は諸般の事情で断念致しました式典を含む従来の卒業式を、皆さんと共にここに挙行出来る事を大変嬉しく思います。

本日本学を巣立ってゆく皆さん、充実した造形への研鑽を積んで、それぞれの目指す領域に力強く進んでいって欲しいと切に思います。

学内に於いては創立八十周年記念事業の完成形として、美術館・図書館の新築・改修工事が基本的に終了致しました。新しい施設を皆さんに提供できたプラス面と、工事が連続して行われキャンパスが少々うっとおしかったかと申し訳なく思っております。

さて、皆さんを迎える社会はかなり厳しい状況かと思います。アメリカに続いて、ヨーロッパに於いての経済不況は連鎖的に我が国にも影響を及ぼしております。加えて国内では、東日本の大震災、福島の原発災害、タイの大水害などがあり、日本の経済は苦しい状況から抜け出せずにおります。卒業時にこのような社会環境に遭遇することなど、入学時には予想もしなかった事でしょう。何かが若者に過酷な試練を与えているような気さえいたします。

しかし、この現状を冷静に考えてみると、日本は今大きな転換期に来ていると思います。戦後七十年、工業生産を中心にして足早に経済成長を実現し、ある種の豊かさを獲得しました。一方、現在アジア諸国が、日本の通り過ぎた轍を見据えながら、急激な発展を成し遂げております。発展するアジアをしっかりと見定めながら成熟社会の実現へと向かうべきであり、同時に少子高齢化が加速する日本の近未来を見据えた時、従来を踏襲する【愚】は許されません。このような時に三・一一の襲来です。計り知れぬ不幸の経験であり、限りなく人災に近い災害に直面し、生命に対するエンドレスの負を背負ってしまいました。この事実から目をそらさず、堅実な社会の復興を視野に入れて、人間としての新たなる価値を創造する時です。

皆さんが頭だけでなく、身体をも参加させて学んだ「造形」は、社会のこれからを考える時、大きな力となりましょう。「無」から形を生み出すことは、まず己を自他共に晒すことから始まります。当然ながら深い思考を要求され、必然挫折を味わい、技術の未熟さも痛感した事でしょう。そして一生見つからないかもしれない、正解を追い求める経験は、正にオリジナルであるが故に貴重なものであります。この造形への研鑽で身に着けた謙虚さを根底にした、有形無形の「力」を、私は美の力と呼んでいます。

実学を学んだ人々が主体になって造り上げてきた既存社会に、「美の力」から発する理念の参加がもっと必要だと思います。この事は皆さんの先輩たちの目覚しい活躍により証明されています。本日からさまざまな形で、社会に打って出て行く若々しい皆さんの参加により、更に大きな展開を信じたくなります。苛酷な試練を乗り越えましょう。しかし時間の掛かる事です。決してあせる必要はありません。

今度の大震災により顕在化した大きな事柄は、「自然と人間」の関係を厳しく問い直しすることだと思います。自然への畏怖も含め、新たな価値による地球環境を作りだしたいものです。この一大事業を推し進められるのは、今日の皆さんです。社会への第一歩が厳しい皆さんに対し、このようなやりがいのある状況が待っているのだとあえて申し上げます。

「美の力」を充分に身に着けているのです。ガンバリましょう!武蔵野美術大学を巣立って行く皆さん、母校は常に門を開けており、折に触れての来校をお待ちしております。それぞれの場で培ったパワーと最新の情報により我々に刺激を与えて下さい。

ご清聴有り難うございます。

理事長祝辞

学校法人武蔵野美術大学理事長 高井邦彦

"若い人よ ! 前へ !"

卒業生の皆さん、そしてご家族の皆様、おめでとうございます。
昨年のこの日は正に大震災の直後であり、何よりも「安全」最優先の立場から、皆さんの先輩はこの体育館ではなくそれぞれの学科の教室で、一方学長と私は、独りずつ一号館の小さなマイク室から激励と祝辞を述べました。皆さんの先輩たちはそんな中、元気一杯巣立って行きました。

そして今日はようやくこの体育館で、皆さんのたくさんの顔を眼の前に、ご卒業おめでとうの言葉を伝えることができ嬉しい限りです。また罹災された東日本の方々には、まだまだ復興への道筋は容易ではありませんが、一歩また一歩ずつでも「前へ」、私たちも応援を続けます。

さて、この皆さんの四年間、日本の外の世界も大きく変わりました。米国は大統領選を来年に控え、ようやく経済の立ち直りが期待されていますが、欧州勢は依然不安定が続きます。中近東・アフリカでも、いろいろな火種がくすぶっています。一方、中国・韓国・インドなどのアジア勢と中南米のブラジルなど、力強く経済力を高めています。

こうした状況のもと、これからの日本の役割は何か、「われわれ日本人は、日本は、いかにあるべきか。何を目指しているのか。」今の時点で欧米の多くの国々に比べると、一つの方向がはっきりしてきます。「日本は一人当たりの平均所得では高いグループに属し、日本社会での富の分配も他国の場合に比べると公平といえるでしょう。」日本人の生活上の基本的な欲求は、他の先進国とくらべてもかなりの程度満たされているということです。これからの日本、そして日本人が目指す方向には、間違いなく広い意味での美術・芸術が大きく入ってきます。これからようやく日本の教育も動き出さねばなりません。大学制度の思い切った高度化・国際化・改革、そして美術の融合・再統合 といった時代の流れです。

この四年間、様々な分野で先生からそして多くの友人から学びえたことを大切にしてください。「美術の火」が皆さんの体内で無事燃え続けていることを時々思い出し、確認してください。時代は皆さんの「美術の火」を必ずどこかで必要としている筈だからです。

何よりも お元気で!! 終わります。

教員祝辞

武蔵野美術大学教授 峰見勝藏

卒業生の皆様、本日は御卒業おめでとうございます。

御臨席の御父兄の皆様も大きく安堵されていることと思います。おめでとうございます。

長い学校生活を終えて社会に旅立つ日がやって来ました。この旅立ちを御父兄とともに私達も祝福し期待し、又、心から声援を送りたいと思います。

皆さんの卒業する2011年度、平成23年度は実に歴史的な一年でした。東北大震災と福島原子力発電所事故は正しく未曾有の大惨事でありその直接的影響をうけた一年でした。この震災と事故が今後の私達の生活や日本の社会、文明、文化にどのような変化をもたらすか、私には想像すらできません。事故の規模はすでに国民と社会のありようを問う事態となっています。

日常生活の中に得体のしれない非日常が現れ、漠然とした不安を感じます。私達は今後いまだ経験したことのない非日常を含んだ日常を生活することになるのだと思います。若い卒業生の皆様は特に敏感にこの不安を感じているのではないでしょうか。

このような日々に私は遠い昔の人のメッセージを想い出しました。それは『たとえ世界の終末が明日であっても私は今日もリンゴの木を植えるだろう』というものです。リンゴの木はみなさん自身であり造形美術の世界でもあります。そして植えるのも育てるのもみなさんです。この若い木を大樹に育てなければなりません。

私が長く関心を持っている大正時代の画家、岸田劉生は38才で死去しました。劉生という樹は道なかばでポッキリと折れてしまったのです。劉生の晩年は酒又酒と慟哭の日々であったと娘麗子は回想しています。制作上のくるしみや経済的、家庭的な問題など誰の場合も程度の差はあれ、酒でものまずにやってられないなどの場面がままある訳ですが、劉生については自らの才能を恃むが故に激しい内的葛藤があり、これを制御しえず酒に耽溺していったようです。どんぶり酒を時には一晩で二升ものみ酔いつぶれ慟哭する姿は自滅そのものでした。

体力は衰え彼が晩年に豪語した、日本のリアリズムの極致としての作品を作るということは結局実現しませんでした。障害は外部環境の他にも劉生自身のなかにもあったと私は思います。

真に人間的自由に達するような創作活動は武蔵野美術大学の建学の精神ですが、私はこれを『生涯を通じてねばり強く自己を深めること』と理解しています。はるかな道のりです。若い木が成長するには長い時間が必要です。どうか体を丈夫、大切にしてください。酒はほどほどに。卒業生の皆様の生涯に渡る御健闘を切に念願し私の挨拶と致します。 御卒業おめでとうございました。

校友会会長祝辞

武蔵野美術大学校友会会長 中島信也

ご卒業、おめでとうございます。

校友会会長の、中島信也です。
僕は、今からちょうど30年前、視覚伝達デザイン学科を卒業しました。
卒制が、相当やばくて、まあぎりぎりの卒業やった、と、聞かされております。
でも卒業できました。感謝しております。

さて、 そんな僕が、会長を務めている「校友会」というのは、ムサビを卒業した人の集まりです。
今日は、皆さんがムサビを卒業される、大変おめでたい日ですが、同時に、われわれ校友会に、仲間入りするという、まことに、おめでたいのかおめでたくないのか、よくわかりませんが、まあ、そういう日でもあるわけです。
ということで、今日は、6万人おります校友会の代表として、一言、御祝いの言葉を、述べさせていただきたいと、思います。

今、皆さんは、どういうご気分でしょうか。

無事卒業できた、という喜びもさることながら、これから一体どうなるんやろう、という不安のほうが大きいのではないでしょうか。

僕も全くそうでした。卒業式の後の謝恩会は、結構盛り上がったんですが、その翌日からは不安と心配の日々。
なんとか仕事に就くことができて、自活できるようにはなりましたが、卒業後30年たった今でも、悩みや苦しみや不安から解放されることはありません。

おめでたい卒業の日に、わざわざ言わんでもええことなのかもしれませんけれども、人間である以上、大学を卒業できたくらいで、あるいは、どっかええ会社に入ることができたくらいで、あるいは、恋が実って結婚できたくらいで、人生の苦しみや悩みや不安から、永久に解放される、ちゅうわけにはいかないんとちゃいますか。

これは、希望で胸一杯の皆さんを、不安のどん底に陥れるために言うてるんではありません。

人生の不安や悩みは、生きている以上、どうせ消えないんです。
それやったら居直るしかないんちゃうか、ということが言いたいんです。
居直って元気に生きよう。不安は消えないし、悩みは次々に現れます。
でも元気に生きていくことが大事なんです。

今夜。謝恩会はもりあがるでしょう。
でも飲みすぎて、友達にひどいことを言って、傷つけてしまう。そのことで落ち込む。
3年たって仲直りする。ああ、なんて素晴らしいんだ人生は!と、感じる。
でもその友達が、自分の彼女とこっそり付き合っていたことを知る。
人生なんかくそくらえ!と、思う。

それが人生です。でも、もともとそういうもんや、と思っていれば怖いもんなしです。
ここはもう、居直って思い切って進むしかない。
困難あたりまえ、へこむの当たり前、そう思って、「明日」という日にびびることなく、思い切って行くしかない。
元気に歩きだす勇気が、大事なんです。

今、僕たちの国の一部は、大きく、深く、傷ついています。
こんな時に、芸術や美術、そして造形というものが、何かの役に立つのか。
美術の力で、人間を危機から救うことができるのか。
メルトダウンを起こして、ぐしゃぐしゃになった、東京電力福島第一発電所の建て屋。
あそこに描かれていた、あの図柄は、いったい何だったのか。
デザインは、人を幸せにするためにあったのではないのか。

実家が被害にあった在学生がいます。津波に遭遇して、
避難所暮らし、仮設住宅暮らしを、余儀なくされている校友もいます。
僕たちが、一生懸命やってきたアートやデザインというものが、何かの力にならないのか。
みなさんはきっと、そう思っているはずです。

それはみなさんだけじゃなく、アートやデザイン、クリエイティブにかかわる人間すべてに、今、きびしく、突き付けられているテーマだと思います。

考え続けましょう。
芸術や美術、造形に深くかかわる、ムサビの生活の中で、僕たちの中に、育まれたものがあるとすれば、まずは、彼の地を思う想像力、「イマジネーション」なのではないでしょうか。
あの、原発エリートたちの、なんと想像力の乏しいことか。
僕たちは、想像できる心、「イマジネーション」を持っている、と僕は信じています。
被災した地域、傷ついている仲間のことを、思い続けましょう。

毎年ここ、鷹の台キャンパスで開催している、校友会の総会を、今年は、被災地で開催します。
学校と校友会が共同で企画している、「アートアンドデザイン」という地域イベントも、それにあわせて、現地で開催します。
そこで、被災したムサビの校友の話を聞き、考えるきっかけを作りたい。
未来への想像力を培う、なんらかの「きっかけ」を作りたいと思っています。

今夜の謝恩会はきっと、楽しいと思います。

でも、明日になったらちょっと、被災地のことを思ってください。
美大生ならではのイマジネーションを駆使して、この国の未来を想像してください。
そして、まだ、被災地を訪れていない人は全く遅くはありません、是非、この春に、自分の目で、傷ついた日本の姿を見て来てほしいと思います。

「見る」ということによって、美大生の想像力にはエンジンが掛かります。
想像力にエンジンがかかることによって、皆さんの体の中には、何かを目指そうとする、なんらかの「エネルギー」が、生まれるはずです。

そのエネルギーこそが、不安と悩みの消えることのない、「人生」というやつに、みなさんが歩みだすための、力強い、「勇気の素」になるはずです。

今日は、すんません、見事に、話がとっちらかってます。

でも、言いたいことは全部言いました。

これをもちまして、武蔵野美術大学校友会会長 中島信也から皆さんへのご卒業のお祝いの、言葉とさせていただきます。
謝恩会、楽しんでください。
ありがとう。