鹿島理佳子

油絵学科油絵専攻4年 ベルリン芸術大学美術学部 2018年10月~2019年2月派遣

写真:鹿島理佳子シルクスクリーンの工房にて

9月の頭に渡航して、気付いたらあとほんの僅かでこの留学生活も終わろうとしています。
東京とさほど住み心地の変わらないベルリンで、生活と地続きで制作をしていくことについてずっと考えていました。

以前留学されていた先輩方も書かれていることですが、UdKのfine artのクラスでは決まった期間で作品を完成させる義務はありません。締め切りを作るというのは人間の大発明のうちの一つではありますが、それに縛られて捨ててきたものの多さにこちらでは気付くことができました。
自分は今まで人に見せる前提でしか作品を作ったことがなかったのですが、締め切りのない、たっぷりとした制作期間のなかで生活しながら細々とできてくる作品未満のものが連鎖して次の作品に繋がり、自然なかたちで制作が進んでいきました。
年齢もキャリアもバラバラなクラスメイトたちは、家庭があったり、既に他の四年制大学を一度出ていたり、働きつつ来ていたりなどの状況もあってか、それぞれ自分のペース、スケール感を築きあげて制作をしていて、生活とのバランスをうまくとっているように見えました。制作と生活が緩やかに繋がっているさまはとても豊かで、これは帰国後に1年制作期間のある卒業制作や、卒業後の制作においても非常に重要な経験であったと思います。

序盤で、ベルリンのことを東京とさほど住み心地の変わらない、と書きましたが、ここが”大陸である”ということは決定的に異なっています。
こちらの人たちは、地方から上京してくるような感覚でみんな国を跨ぎ、標準語を使いこなすように言語を習得しています。学内も街も、様々な文化圏の人で溢れ、常に多言語が飛び交っています。
日本はよく極東の島国と書かれますが、その地理的な表記にとても納得がいきました。魅力的な企画展やイベントは、東京でもベルリンと引けを取らないくらい数多あると思いましたが、それを見ている観客の多様性は桁違いです。
異なった文化背景の観客が見ることを前提とした作品、展覧会はどこか日本のものと温度が違うように思いました。もしかしたら私が外国人として作品を鑑賞しているからかもしれませんが。
スタジオビジットに伺ったとある作家さんに、ベルリンで作家をやることは世界の作家になることだ、と言われたことがとても印象に残っています。自分の作品が持ちうるスケール感、ひょっとしたら遠くの誰かを傷つけてしまう可能性など、文脈を共有していない人たちに囲まれて過ごしたことで今まで考えてこなかったことに目を向けれるようになりました。
とはいえ、自分が見たいもの・作りたいものに正直になることで、今まで自分がプレッシャーに感じていた自分の作品を見てくれる人への責任は取りうるのだなと強く感じてもいて、自分が作りたいものがあるうちは制作を続けていきたいと思えるようになりました。

私が感じたさまざまなことは、留学生で期間も決まっていて、ある意味守られた立場で過ごした感想に過ぎないかもしれません。一人でサバイブしていくとなったら今回感じなかった厳しいことも沢山起こりうるけれど、それでもまた帰って来たいと思える実り多い半年間でした。このような機会を頂けたことに感謝し、これからも精進していきたいです。

柳瀬由梨

デザイン情報学科3年 ケルン・インターナショナル・スクール・オブ・デザイン 2018年9月~2019年8月派遣

写真:柳瀬由梨授業内で制作したドキュメンタリー

私は2018年9月から2019年7月までドイツのケルン・インターナショナルスクールに交換留学をした。この体験は私の生涯に大きな影響を及ぼすことになると確信している。日本で生きているだけではわからなかった、文字通り地球の裏側を垣間見ることができた。ドイツから見れば日本は地球の裏側だ。遠く離れた文化や思想をいかに受け入れ、理解するかが1年間のテーマだったように思う。ケルンの冬は長いが、クリスマスマーケットやカーニバルなど寒さを楽しむようなイベントに満ちている。美術館やアートイベントも充実しており、インスピレーションを得る機会に恵まれた。ケルンはドイツの中でも下町のようだと良く言われる。フレンドリーで非常に親しみやすく、自分から行動すれば必ず受け入れてくれるだろう。現地でできた友人たちとは帰国した今でもつながりを持っている。それだけ魅力のある街ということもあり、ケルンは学生が借りられる部屋が不足している。私は最初の半年間ほど定住できず知り合いのツテを辿って住居を転々とする日々を過ごした。住める部屋がなくなるかもしれないという不安が常につきまとい、辛い思いをしたが、その過程で得た繋がりや努力は無駄にならなかったと今では感じる。授業では、最初は英語が通じずに苦戦したが、自分の持つスキルを活かすようにしたら徐々にコミュニケーションも取れるようになっていった。チームに貢献できた時の喜びは計り知れない。想定外のことが当たり前に起きる留学だが、それを楽しめれば、充実した留学生活が送れるだろう。

安藤萌

建築学科4年 ミラノ工科大学デザイン学部 2018年9月~2019年8月派遣

1. 留学の話
私が武蔵美の協定留学に志願したのは大学3年生の秋頃でしたが、実のところ入学頃から大学生のうちに留学をしたいとは思っていました。建築を勉強している私にとって「美術大学」で建築を学ぶ一方で「工科大学」で学ぶ建築にも興味があったり、ずっと住んでいる街から自ら抜け出し新しい環境に身を置きたかったからです。建築を協定留学先で専攻したいとすると学部生の私はベルリンとニューヨークのどちらかの大学を選ぶ必要がありましたが、大学の環境やカリキュラム、それぞれの都市を調べていくうちに、ミラノ工科大学(ポリミ)でインテリアを学ぶということに落ち着きました。端的に説明するとしたら、ポリミが比較的自由にカリキュラムを自分で組めたり、ミラノという都市のスケールや密度、速さがちょうど今の自分に合いそうな予感がし、1年間コンフォートゾーンを抜けられそうだったからです。

2. ミラノでの生活
さて、前文でミラノが自分に合いそう!と書いてはいたものの、実はミラノに来てからは南京虫に刺されたり、思ったよりミラノの人が冷たかったり、少しアジアンヘイトを感じたり、思ったよりイタリア語が必要になったり、と最初の3ヶ月は気が滅入った生活をしていました。ただ、イタリア人の夫婦と住むことができたので、祖父母の家にいるような安心感はずっとあり、ご飯を一緒に作って映画をみたり、週末は彼らの地元に行き、彼らの友人と(イタリア語はさっぱりでしたが)過ごすこともありました。
後半の半年ほどはイタリア語もなんとなくできるようになり、多国籍な友人もでき余裕が出て来たので暇さえあればパソコンを持って旅行に出かける日々を過ごしていました。
日本に比べると滞在許可証1枚発行するのに強烈な時間がかかったり、鉄道が2時間遅延したり、混んでいるスーパーでもレジの店員同士が話していたり、とかなりのんびりなお国柄で最初の頃は慣れるのにかなり苦労しました。しかし不思議なことにこの状況にもすぐに慣れてしまい、良い意味でも悪い意味でもせっかちな性格が少しのんびりに変わった気がしました。

3. ミラノ工科大学での勉強
ミラノ工科大学では原則学部はイタリア語の授業のみで大学院の授業が英語とイタリア語です。私は学部で行ったので、最初イタリア語の授業しか取れずかなり苦労し武蔵美とポリミに何度も連絡し1ヶ月強かけてやっとの思いで英語の授業を受講できました。
1年間で私が受講したものは、自分で問題を見つけて分析し解決していくというものが多く、講義形式のものは都市デザイン計画と照明理論だけでした。
全体を通して感じた武蔵美とポリミの違いというと、ポリミでは学部の学生はものすごく勉強することが多いので武蔵美より自由度が低い点です。私は結局大学院の授業を受けていたので、あまり感じませんでしたが、学科の学生は基本的に朝から晩まで学ぶことがかなりあり、バイトに行っている時間もありません。
グループ課題が多いポリミでは学生はほぼ全員毎日大学で作業をしていました。提出したプロジェクトはかなりの確率でキャンパスのどこかで展示をしています。武蔵美では建築は特に一定の期間外部の人に自分の作品を見てもらう機会が少ないので、自分の作品を見てもらえる、という点においてはポリミを羨ましく思いました。まとめると、私の中ではどっちのアプローチも必要な気がしており、武蔵美とポリミの両方で学べる機会をいただけて本当に刺激的な学生生活を送れました。

4. さいごに
留学に限らず、大学に入学したり社会人になったり、と新しい環境に身を置くことは私たちの人生の中で何度もやってくることだと思います。普通に生活をしているとそのような変化は多くの人は同じタイミングで起き、自らその変化を求めることは少ないと思います。私は学生というある種守られている時に、自分の判断に責任を持って留学に行くことができ、いろんな気づきを得ました。新しい価値観を得られるだけでなく、自分と向き合う時間にもなりました。留学を機に新しい自分に気付き、さらに能動的になったと感じています。自分が頑張ると周りは絶対サポートしてくれると思っているので、留学だけでなく、今後も広い視野をもって前向きにいろいろなことに挑戦したいと思っています。

今村麻衣

工芸工業デザイン学科4年 プラット・インスティテュート 2018年8月~2019年5月派遣

写真:今村麻衣コニーアイランドのビーチで友達と作品撮影

長かったような短かかったような、そんな留学から帰国して1週間、この体験談をまとめています。向こうでの生活は慌ただしくて、とても刺激的なものでした。教授のほとんどは、学外で仕事をこなすデザイナー、意見は的を得ていて、時にとても辛辣です。毎週、何度もプレゼンテーションがあり、教授からだけでなくクラスメイトからも意見をもらうのが印象的でした。日本では、教授と一対一でしか意見交換をしてこなかったので、初めて、色々な視点の意見をぶつけられました。時には、正反対の異なる意見を同時にもらうこともありました。もらった意見を自分の中でふるいにかけて、どのアイディアがベストなのかをよく考えました。その経験から、自分のしたいデザインを考え、自分自身の核が前よりもしっかり確立されたように感じます。また、驚いたのは設備の良さ、深夜まで空いているコンピューター室や職人さんが常に在中する工房。デザインは先生から、作り方は職人さんから学びました。宿題は山のようにでました。月曜の授業で宿題が出たかと思ったら、それが終わらないうちに、火曜、水曜の授業から宿題がでます。全ての宿題が終わらないまま次の週になることがほとんどでした。常に、宿題のことが頭の片隅にあって、いつ、どの宿題をするのかスケジュールをたてる毎日でした。作業量は留学する前にくらべてかなり増えたと思います。

とても忙しく、辛い時もありましたが乗り越えて来れたのは現地の友達や工房の職人さんの支えがあったからだと思います。常にスタジオや工房で作業するクラスメイトの間には強い絆がありました。クラスメイトのことは友達と呼ぶより、戦友という方が正しいような気がします。その瞬間、瞬間にしがみついて、沢山の方々に手を差し伸べてもらって、なんとか成し遂げた留学でした。嫌だったことも、辛かったことも、嬉しかったことも起きたこと全てがあっての今なんだなと。起きた全てのこと、助けてくれた人々全員に感謝しています。この経験が無駄にならないように頑張っていきたいです。

小貫光

基礎デザイン学科4年 ベルリン芸術大学 建築・メディア・デザイン学部 2018年4月~2018年8月派遣

ベルリンでの生活もついに終幕を迎えてきました。1学期4ヶ月という、案外とあっけない間でしたが、私にとっては色濃くて、半年とは思えない体験をさせていただきました。

大学生活
UDKは武蔵野美術大学とは全く違ったシステムで進んでいます。
メインの授業は毎週授業があるという形ではなく、自分のペースに合わせて先生とミーティングのアポをとって、アドバイスをもらいながら制作を進めていくという形です。必ず出席しないといけない日は1学期のうち3回だけで、そこで他の学生と意見を交換し合います。そのため、自分のモチベーション次第なところが非常に大きいです。私は自主的に課題を進めて、自分から先生とコミュニケーションをとるというやり方になかなか慣れなくて、最初はかなりストレスを抱えていました。けれど、最終的には先生に大きく背中を押してもらうことができて、日本ではできない制作スタイルを取り入れることができ、大きな収穫を得られました。
1学期を通じて最も感じたのは、UDKでは先生の意見よりも自分のやる気がどれくらいあって、自分の作品にどれだけ満足できる形で関われたかが大事なんだな、ということでした。私自身、先生に背中を押してもらいながら好き勝手に制作をして、大学生活で初めての自由を感じました。あまり制約がない代わりに自分次第な部分が大きくて苦しいこともありましたが、武蔵野美術大学とは全く違う考え方のシステムがとても新鮮で、得られるものが多かったと感じます。

多文化ベルリン
私が今回の留学のテーマの一つにしていた多文化な街について知るという観点について考えることがありました。ベルリンはいろんな国から人が寄り集まって多文化な街を作っていることで知られています。私はブラジル人のハーフとして、生まれてこのかた常に外国人扱いをされてきた身として、ベルリンがどんな風に様々な文化を受け入れる器として機能しているかに興味を持っていました。たった1学期という短い時間で、ドイツ語もまともに喋れない交換留学生が地元に溶け込むのはかなり考え難いことですが、私なりにとにかくフットワークを軽くしていろんな人と仲良くしてみました。いろんな人と関わっていく中で、ベルリンの多文化性がよく見えてきてとても興味深かったです。そもそもベルリンに住んでいる人たちの大方はドイツ人ではなく、国際的な都市です。日本ではみんなが同じ考え方を持ち、同じ文化を共有していることが当たり前ですが、ベルリンでは、さまざな服を着た人、別の宗教を持った人、別の考え方を持った人、そういった人たちが同じところで当たり前のように生活していました。それが許される環境では、抑圧されない自由なアートが生まれたりしていて、たくさんの文化を受け入れる器を持った街の素晴らしさを体験することが、今回の留学で私にとって最も貴重な体験でした。

最後に
私の経験に基づいて次の留学生の方に向けてアドバイスを少し。
ベルリンは独特のアートシーンが大きく盛り上がっている街です。毎日、何かしらのイベントが行われていて、それも実験的なものが多いです。短い間でできることは限られています。ベルリンに行って何かを作るよりも、いろんなところに出かけて、刺激を受けて、自分のスタイルについて考える方が得られるものは大きいと思います。そのために、どうせ半年で終わると思って、とにかく新しいことやいろんな人に出会うことにためらいを持たずに、当たって砕けろ精神で挑むことをお勧めします。どこに行ってもそうかもしれませんが、結局は何事も自分次第で、半年の留学生活が実りあるものになるかどうかも自分の態度次第なんだな、と実感しました。