松河直美

大学院造形研究科美術専攻油絵コース2年 パリ国立高等美術学校 2020年9月~2021年6月派遣

写真:松河直美

留学期間中、フランスではコロナウィルスの感染拡大により二回のロックダウンが行われました。幸いなことに、私が帰国する二週間前から閉館していた美術館やレストランの営業が再開し、私は念願であったオランジュリー美術館へ行き、貸し切り状態でモネの睡蓮の絵を見ることができました。ボザールでの学びも最後まで全力でやり切って、やっと見ることのできた本物のモネの絵やテラスで食べた仔牛のステーキは一生の思い出になりました。しかし、私がこの留学で得た最も大切なことは、人のことも絵のことも信じて向き合っていけば、必ず実を結ぶということです。

まず、人のことについてですが、私がボザールへ来たばかりの時、約三年間日本でフランス語を練習してきたにも関わらず全く言葉が通じませんでした。しかし、毎日学校が開く時間に登校して「アトリエの鍵をください」と言えるようになると少しづつ守衛さんや受付の人と仲良くなる事ができました。アトリエでも、最初は誰とも会話が続けられなかったのでずっと一人でいました。しかし、言葉が通じない分、まずは絵と行動で自分が何者なのか示していこうと決め、土日も含めて毎日アトリエへ行き制作をしていました。また、誰にどんな態度をされてもこちらから話しかけると決めて、帰宅後は次の日誰に何を言うか考え、毎日フランス語の練習をしました。こうした小さな頑張りの積み重ねで、いつの間にかアトリエでは相手から笑顔で挨拶をしてくれるようになり、私が辿々しく話していても最後まで聞いてくれるようになりました。私がボザールへ行く最後の日には、お別れ会を先生が開いてくださり、私は友達に手伝ってもらいながら今まで言えなかった事をカードに書いて渡しました。私からのメッセージを読んで泣いている学生を見た時、今までみんなの事を信じて向き合ってきて本当に良かったと思いました。また、バックグランドが異なっていても言葉が通じなくても真摯な心で人に接することを続けていけば、心を通わせる事ができることを学びました。

次に、絵のことについてです。私は留学する前、無意識のうちに完成度の高さや建前などを気にして絵を描いていました。しかし、初めて担当教授のステファン・カレ先生に作品を見てもらった時「君の絵は息をしていない」と言われて、今本当に自分が好きなことを素直な心で描かなければいけないと思い絵との向き合い方をゼロから見直すことにしました。壁画の古典技法であるフレスコ画の工房では、当初クラシックなテーマを高い技術で描けるようになろうと思っていましたが、おにぎりや花など日常に近いモチーフで自分が好きなものを描いてみました。そして、寸法や形を自分が理想とする形に近づけようと試行錯誤し続けた結果、自然と適切な下地の状態を判断できるようになったり、描写以外の肉体的に負担のかかる工程も楽しんで学ぶ事ができました。また、私が所属していたステファン・カレ先生のアトリエでは、油絵を制作していました。かつてない早さで何枚も絵を描きつつ、制作のプロセスについても先生と慎重に相談して絵のために今自分ができる事を考えては試していました。ボザールで最後に描いた絵では、自分の素直な心が確かに絵の中にある事を見る事ができ、将来も絵を描いている自分の姿を想像する事ができるようになりました。

この留学で学んだことを糧に、そして私のことを支えて下さった全ての人への感謝の気持ちを忘れずに、これからも人や絵とひたむきに生きていきます。

原田きあら

工芸工業デザイン学科4年 ベルリン芸術大学 建築・メディア・デザイン学部 2020年10月~2021年2月派遣

写真:原田きあら課題の石を家の前で砕く

コロナの影響で私の留学生活はオンラインから始まった。
授業はまるで新鮮で、毎日自分が一年生の気分だった。毎回ワクワクした。
それでも言語の壁は大きかった、会話には一度のチャンスしかない、それは言葉だけではないと強く思わされる経験だった。
ベルリンという街は不思議な街だった。
時間はゆっくりと流れながら、多くの人種を、多くの言葉や、思想を包み込んでいる。
服装、遊び、食事、全てが素朴だった。スペシャルなことが起きるわけでもない。
だが、確実にそこにはベルリンの時間があった。
私はコロナのおかげで現地人として短い間だが、生活することができた。
そして、前より、日本を好きになった。
私が留学する際に、友人が「日本でも同じことは出来るよ」と話していた。
確かに、ベルリンで授業を受ける事は日本にいる時より労力がかかった。
ビザ、住居、言語、お世辞にも簡単ではなかった。
それでも違う世界を見に行くことができるチャンスをもらえたなら、私は100%「行ったほうがいい。」と言える。

写真:原田きあら
散歩の毎日だった中での一枚。

写真:原田きあら

写真:原田きあら