亀山 恵

造形研究科美術専攻油絵コース2年パリ国立高等美術学校2012年8月~2013年7月派遣

写真:亀山恵 セラミックの工房

セラミックの工房

ボザールでの生活がはじまり、約1ヶ月がたちました。まだはじまったばかりではありますが、学校や日々の暮らしの中で多くのことを感じる刺激的な毎日です。

ここボザールでは、まず最初に自分の所属先のアトリエを探すことからはじまります。新入生たちに混ざって、自分で教授に直接アポをとりに行き、プレゼンをするのですが、多くの学生たちがなかなか自分の受け入れ先が決まらず、言葉の壁のある留学生たちにとってもまた、まずはじめの難関でした。ポートフォリオを抱えて、プレゼンを繰り返すはじめの数週間は、まるで就活のような毎日でした。

印象的だったのは、所属アトリエ以外の授業の履修もまた、所属アトリエ探しと同様にプレゼンが求められ、そこで認めてもらうことができなければ、その授業をとることもできないということでした。ボザールにはそもそも、専攻という概念がなく、テクニックとポールと呼ばれるそれらの授業をとおして学生たちは様々なメディアを専門的に学び、制作することができます。それらの授業の履修もまた、プレゼンが必要なのは、それらが所属アトリエと同格の扱いであると同時に、扱うメディアを限定することなく、学生の主体性が非常に重視されることの現れだと感じました。

ここでは、受け身でいては何もできませんが、逆に言えば、自分が必要なものをつかみとるためにどれだけ行動できるかで、可能性もまた、どこまでも広がるのだと思います。私も、今は所属アトリエの他にセラミックの授業をとり、週に数回セラミック工房に通いながら制作しています。武蔵野美術大学では油絵コースに所属し、主に絵画を制作していた私にとって、本格的な立体をつくるのははじめての経験で、それはとても難しいけれど、同時に多くの新たな視点を自分に与えてくれています。

また、ここに来て私は、あたりまえとも言えるようなことに日々、気づいていく感覚があります。例えば、制作において私はどこか、ここに来さえすれば自由になれる、とわけもなく思っていたところがありました。しかし、実際は、ものを生み出す苦しみは世界中どこにいても変わらないことに加えて、生きているだけで大変なこの慣れない環境のなかでいかに集中し、自分のペースをつくっていくかなど、問題はよりふえてしまったのだとも言えます。しかし、それは、日本にいたときに想像していただけでは気づけなかった、海外で制作するということの現実でした。

私にとって、うれしい気持ちになるときも悲しいときも、それは人との関わりの中にあります。やはり言葉の壁によって、ともすれば卑屈な気持ちになったり、無駄に緊張してしまう自分がいるのですが、恐れを抱いて後ずさりしようとするその瞬間に、飛び込む勇気を、私はいつも自分に心がけています。それは、すごく些細な、例えばあいさつをするとか、そんなレベルのことからはじまります。語学を身につけるためには勉強自体もとても大事ですが、人と関わることを恐れない勇気が多くの場面で必要であることに気づきました。そして、飛び込んだその先にはいつも、どうにか歩いてる自分がいて、人と心を通わすことができたり、同時に自分のできることも広がっていくのです。

新しい環境に慣れるだけで精一杯だったこの1ヶ月も終わり、いまはだんだんとここでの自分のペースをつかんできたころにあります。アトリエで友達と、作品の話をしながら制作していると、むさびですごした夜を思い出します。それは、ここでも変わらず、心落ち着く、良い時間です。

留学は決して、魔法ではありません。ここでの生活を実りのあるものにできるかどうかは自分次第です。ここに来て私は、人と関わっていくことや限られた時間をいかにつかうかというすごく基本的なことから、今一度はじめているのだと思います。与えてもらった特別な時間や環境に感謝し、大切にしていきたいです。

山口真樹

造形研究科デザイン専攻建築コース2年ミラノ工科大学デザイン学部2012年8月~2013年7月派遣

写真:山口真樹 スタジオのグループと事例研究のために行った美術館で

スタジオのグループと事例研究のために行った美術館で

先日、MAUの建築学科とフランス国立高等美術学校とのパリでのワークショップに参加してきました。パリからミラノに戻った際に安堵してしまうほど、イタリアでの生活も慣れ、落ち着き始めています。

僕がイタリアに来たかったのは古い建物が多い点と長い間経済が不況である点から、イタリアには既存の建物を再利用していくリノベーション文化が根付いている理由からです。これは、自分の修士課程でのテーマである「時間が継承された空間設計」に深く関係しています。

新しい建物を建てるのではなく、既存の建物を継承して今の社会に適した空間にしていく事がイタリアの街づくりの基本になっています。ただ経済や環境の問題に応えるだけでなく、過去の建物のデザインの良いところを継承していき、建物を見る人が歴史の再確認をできることがリノベーションの醍醐味なんだと街並を見て日々感じているところです。日本でもスクラップアンドビルドの考え方が見直される時代になり、これからリノベーションの需要が高まることを考えると、日本に何かしら持って帰る事ができるように目をキョロキョロしながら街を歩いています。

ミラノ工科大学ではデザイン学部インテリアデザイン学科の学部卒業制作のスタジオに所属し、この学期の課題はイタリアの社会問題に沿ったものが出題されました。 学生や移民、単身赴任など一人暮らしの人達を対象とし、元々ある既存建物をリノベーションしてシェアハウスを計画する内容です。6、7人でグループを組み、教授3人とTA(Teaching Assistant)3人が授業中に各グループの課題の進行具合をチェックしながら、アドバイスをもらって作業が進んでいきます。毎週、教室内での作業だけに限らず、今回の課題に応えるような実際にリノベーションされた建築を見学しに出かけたり、シェアハウスを運営している大家さんを学校に招き、講演会を開いたりして、机上の空論ではない、かなり現実的なコンセプトをつくることができるカリキュラムが組まれています。議論の際には同じグループの皆がとにかく喋るので、僕も負けじと無駄と思う事も喋るように心がけてます。

留学先が工科大学デザイン学部ということもあり、学部時代に学んだ事(僕は学部では工学系の大学でした)と美大で学んでいること両方が混ざった教育がなされていると感じがします。課題のアプローチについては敷地調査や事例収集のようなリサーチから問題点を見つけ出し、論理的な解答を求める力が求められるのに対し、提出する作品においては図面や模型だけでなく、コンセプトを表現するための一枚の絵や一分間動画、本などデザイン的に表現する必要があります。リサーチをしっかりしながら、理詰めで強がらず、空間に彩りを与えていくような作品にする力が問われる作業は学部と大学院で経験してきた事を整理し、自分の培ってきたことをまとまりのあるものにしてくれる良い経験になっています。

李 欣

建築学科3年プラット・インスティテュート2012年8月~2013年7月派遣

写真:李欣 学生の制作したコンセプトモデル

学生の制作したコンセプトモデル

NYにきて三ヶ月がたち、ここでの経験から、自分の勉強や生活面に大きな変化がもたらされたことを感じています。今は、様々な視点から物事を見て、異文化の中でも違和感なく過ごせることができています。

私はムサビでは建築学科に所属していますが、建築を学んでいるうちに内部空間のディテールデザインに興味が湧いてきました。スケールが大きい建築空間をデザインするときにはその構造や、現地環境などの条件を考慮することが大切ですが、生活空間に活かせる照明、材質、色彩計画の運用を学んだほうが自分の興味に合うと考え、PRATTではインテリアデザインコースに所属しています。

PRATTで学び始めてから、私のデザインに対する考え方は180度変わりました。 各Design Studioには12人位の学生が所属、授業は毎週2回あり、1学期に2つのプロジェクトがあります。授業では、教授と所属する学生との交流がとても重視されていて、意見やコンセプト、また、自分の設計理念について話す機会がとても多いです。 指導教員は、学生一人一人の授業当初からの設計コンセプトを覚えていて、それらを最後まで保てるようにサポートしてくれる存在です。また、デザインの可能性を広げてくれるだけではなく、最終プレゼンテーションの口頭表現や視覚資料の準備についても指導してくれます。

プロジェクトの流れに関してですが、最初はStudioの一人一人に敷地環境、クライアント資料などのリサーチテーマが与えられ、その後お互いに情報を交換します。 最初のコンセプトを決める段階で、私は他の学生の創造力にとても驚きました。各学生のコンセプトモデル(写真参照)には一人一人の個性が溢れていて、空間として考えると抽象的に見えるこれらのモデルを用いて、皆が自分のアイディアをスムーズに説明していきます。 毎回、授業での講評を通じ、学生のスタイルとオリジナリティがどんどん強まっていきますが、PRATTではそのプロセスがとても重視されています。最終採点のプレゼンで、独特の視点をもって制作された他の学生の作品を見て、私は自分の視野が広がるのを実感しました。また、自分自身、このような環境の中で、作品に対する自信を強く持ち、はっきり主張する勇気も身につけたことを感じています。

就職への準備として、PRATTでは授業やそれ以外の時間でもデザイン会社を見学する機会がたくさんあります。課題で日々とても忙しいのですが、私は出来るだけ授業外に、そういった機会に参加するようにしています。 学生として学んだことと現実の仕事にどのくらい差があるのか、今まで想像もできませんでしたが、これらの様々な見学の機会を通して実際に自分の目で確かめることで、デザイン業界の様子が少しずつ分かるようになりました。幸運なことに、NYで有名な建築事務所もいくつか見学でき、アジアの設計手法との違いを知ることができました。

また、PRATTでは学科と関係なく参加できるイベントなどがたくさんあります。積極的であれば、これらを通じ、多くの人と知り合う機会があり、豊富な知識が得られることもあります。

自分の文化と違う場所で、別の言語を用いながら生活するときは、常に壁を感じるものですが、克服するために努力することを、今、私はとても楽しんでいます。 PRATTでの毎日は、新しい刺激と発見に満ちていて、とても充実しています。また、この協定留学の間、大学からのサポートを受けながら、自分のやりたいことを見つけ、取り組むという、自分を成長させるための素晴らしい環境が与えられていることに感謝しています。

杉浦彰彦

空間演出デザイン学科4年アールト大学美術デザイン建築学部(Taik)2012年8月~2013年7月派遣

写真:杉浦彰彦 とあるワークショップの様子

学生の制作したコンセプトモデル

八月にこちらに渡航してから三ヶ月半が過ぎました。渡航前、フィンランドというとムーミンや「かもめ食堂」くらいしかイメージがなく「ゆったりとした一年間になるのだろう」などとぼんやり考えていたのですが、実際ここでの生活を振り返ってみると、そんな前印象を吹き飛ばすかのような目まぐるしい日々です。 それは、ワークショップのスパンが大抵一週間と短かったり、ついついスケジュールに授業を詰め込みすぎてしまった自分のせいであったりするのですが、それらの根本には、純粋にものを作るのが面白いと、ここに来てあらためて思えたことが大きな原動力となっています。色々と環境が変わった中で、自分の軸が浮き彫りになってきました。

アールトに来ようと思ったのは、ムサビで舞台美術を専攻していく中でその構造が他の場所でも活かせるのではないかと興味を抱き、それを追求する場所を求めたからです。また自分の作品という「言語」が他の国ではどう反応されるのかという興味も当然ありました。 こういった理由から、こちらでは舞台ではなくEnvironmental Art(環境アート)を専攻し、必要に応じて他の分野(情報デザインや工房系など)を履修しています。実際に授業を受けてみると、こちらの授業は総じて学生の背中を押してあげるような印象を受けました。良くも悪くも競争が少ないという面はありますが、ここは何かを追求するにはすごく恵まれた環境だと思います。 学内で収まらないワークショップも多く、また、充実した設備や頼りになる工房のマスターなど、これまでは構想止まりだったアイデアを実現させ易いのも魅力です。様々な学科や設備を横断しながら、自分のテーマに多角的に迫っていけるのはなによりもやりがいがあり、とにかく今、様々な可能性を前にして興奮しています。

また、教育制度の違いからなのか、ここでは学生と社会人の境界が曖昧で、大学を中断して社会で働いてからまた戻って来た人、別の事を勉強したいと言って一からやり直してる人、など様々な年齢、背景を持った人が学部、院ともに多く見受けられます。そういったことが普通に行われている寛容な空気に触れていて、こういう生き方もあるのかと、将来に関して別の視点を持てたのは収穫でした。良い意味で肩の力が抜けた気がします。

ちなみに気になる天候ですが、この三ヶ月の間に気温がぐんぐん下がり、すでに雪も降りました。今年が暖冬だというのは少し信じ難いですが、迫り来る北国の寒い冬を楽しみつつ、残りの留学生活も最大限活用したいと思います。

湯淺里香

造形研究科建築コース2年ベルリン芸術大学(UdK)2012年4月~2012年8月派遣

写真:湯淺里香 設計計画のエスキス風景

設計計画のエスキス風景

ベルリンに来て、2ヶ月が経ちました。3月初めにこちらへ到着したときはまだ冬だったのですが、今はもうすっかり春になり、野外で時を過ごすのが気持ちいい陽気です。

私は、武蔵野美術大学では、大学院の建築科に所属しています。UDKの建築科には大学院がなく、学部の学年は1、2、3年と分かれているのですが、2年以上勉強している人は、すべて3年生という区分になります。つまり、3年生には、まだ建築を勉強し始めて3年目の人もいれば、すでに5年、6年勉強している人もいるわけです。そして私は今、この学部3年生に所属して勉強しています。武蔵野美術大学では、学部と大学院はまったく異なった活動をしているので、この学部生と大学院生が同じスタジオに所属して、同じ設計課題に取り組むという環境は、とても面白いと思っています。  スタジオは、およそ8つから選べるのですが、課題の対象敷地は、ヨーロッパだけでなく、中国や日本もあり、とてもインターナショナルで、またそれに合わせてゼミ旅行も、ヨーロッパからアジアまで幅広く訪れるようです。私は、ベルリンの過密する都市の問題に対する設計課題を選びました。ゼミ旅行はベルギーに行くので、こちらの人が今どのような建築に関心があるのか見れることを、楽しみにしています。武蔵野美術大学では、対象敷地は必ず東京近辺でしたし、ゼミ旅行も国内でした。それは、身近な建築や都市の問題を、丁寧に考えていくにはとても良いのですが、こちらのようなスケールの大きな課題もとても刺激的に感じます。  私のスタジオでは、週に1、2回のエスキスがあり、教授と講師の先生にプレゼンをします。 スタジオのメンバーの15人中、6人は交換留学生なのでクラスでは英語も話されますが、北欧やロシアから来ている交換留学生は、ドイツ語を理解できるので、主な言語はドイツ語です。ベルリンに滞在してる間にドイツ語をできるだけ伸ばしたいと思っている私にとっては、とても良い環境だと思っています。

ドイツの大学はほとんど学費がないとよく言いますが、それに加えて、交通機関も無料で、学生というだけで色々なことが優遇されます。なので、スポーツや文化的な施し物にも、日本にいるときよりも気軽に参加できて、とても充実した日々を送っています。半年という短い留学期間を精一杯楽しみたいと思っています。