伊藤迅一Ito Jinichi

作品写真:Invisible range
作品写真:Invisible range
作品写真:Invisible range

Invisible range

本|写真、紙Book|Photo, PaperH210 × W297 ×9点

私は世界観というものをテーマに据え、その最小単位である【見る・識る】ということはいったいどういうことなのかということを、写真を撮ることを通じて探求した。体験と考察の繰り返しを経て発見したものは知覚世界とは非常に狭く、認識しがたいということ。いつもの風景のなかに潜む一歩だけずれた景色や異なる見方を追うことで、自分の世界観というものはその輪郭を現すのである。

伊藤迅一

伊藤くんは「世界観(とは何か)」というある意味で大変難しい概念をテーマとして制作を行った。例えば目の前にある風景を私たちは「森」と名付けるが、その森に入った途端「森」ではない無数の表象から「森」が生成されており、そこには「森」そのものを指し示す事物はないことを知る。それは言葉による世界のカテゴリー化と知覚におけるその消失という日常的な経験でもある。彼はカメラを用いて概念化される前の知覚を執拗に記述しようと試みた。作品は彼自身の認識論が、借り物ではない最低限のテキストと説得力のある写真で骨太に表現されている。そこには身体を通した具体的な対象物に根差した彼の認識論、世界観が提示されている。とても繊細で鋭敏な知覚(視線)を私たちは感じることができる。

視覚伝達デザイン学科教授 寺山祐策

入佐巴Irisa Tomoe

作品写真:滲むことば
作品写真:滲むことば
作品写真:滲むことば

滲むことばThe word which spreads

Paper, clothH2500 × W6600 × D100mm

世の中の全ての物には、見逃されそうな価値がある。
表面的なデザインを日の当たる光だとするならば、作り手の創意工夫や長い手間ひまは影のような存在で届きにくい。
絣の小さな端切れを見た時、綺麗な紋様があると思った。
目をこらすと光の奥の影が見えてくる。
紋様が作られるまでの長い時間。
人の幸せを願う、紋様の意味。
自分ではない誰かの幸せのために、作る人達。
見逃されそうな価値を、「ことば」の紋様を編む事で、私は人に伝えたい。

入佐巴

たどたどしい手編みによるこの作品は、上手から生まれる緻密さとは反対に稚拙な編み込みゆえのズレが、魅力的な質感と空間を生み出している。入佐さんは絣文様の美しさに強く惹かれていた。それは、蚊絣、十字絣、井桁絣など幾何学形態に見られる「かすれ」の美しさである。この美しさはその布を拡大してみると良くわかるのだが、糸を染めた時に見られる染料の滲みと、形の周辺に意図的に用いられた布地に沈み込んでいくかすれの美しさによるものだ。この作品では、拡大した絣文様をなぞるように、ビットマップ状態にまで拡大したアルファベットの文字を編み込み、文字絣文様をデザインし、言葉としての意味を生じさせている。興味ある対象を調べることから始め、自身の表現にまで到達させたこの作品の制作プロセスは、作品の魅力とともに高く評価されるものだ。

視覚伝達デザイン学科教授 新島実

岩坪理央Iwatsubo Rio

作品写真:TISSUECREAM and EGYPT TRAVELOGUE
作品写真:TISSUECREAM and EGYPT TRAVELOGUE
作品写真:TISSUECREAM and EGYPT TRAVELOGUE
作品写真:TISSUECREAM and EGYPT TRAVELOGUE

TISSUECREAM and EGYPT TRAVELOGUE

イラストレーション|本、パネルIllustration |Book, panelH2300 × W7000 × D200mm

エジプトと聞いたらピラミッドとかツタンカーメンとか色々ワードは浮かんでくるけど本当はどのくらい知っている?
映画や漫画で脚色されてどこか胡散臭いなと思ったり、美術展を観に行ってもどこか辛気臭いしよく分からないままただ眺めてるだけの時とかあると思います。
古代エジプト人の自然物に対する考え方、歴史背景を知れば次にエジプト関連に触れる時にもっと楽しめるはずだと思い作りました。
古代エジプトにはエジプトの歴史があります。
歴史の流れに沿いながら目で見て楽しいようなポップアップのイラスト年表にしました。

岩坪理央

岩坪さんは以前からエジプトに魅了されてきた。自らそこへ旅もしその圧倒的な歴史、文化の偉大さを愛 しているのだ。しかし一般的な人々のエジプトに対するイメージはハリウッド映画などによるもの(例えばミイラやオカルト)に偏向しており、これを彼女なりに刷新したいというのが本卒制の目的となった。彼女に言わせれば、例えば有名なギリシア神話でさえ元を辿ればエジプトがルーツなのだ。まずは可能な限り正確な年表を作るために約7 ヵ月、ひたすら調査と資料収集に明け暮れた。もともと独自のヴィジュアル表現を持ち、画力のある彼女はそれらを最後の2 ヵ月で一気に図像化した。結果として、とても彼女らしいPOPで楽しい立体年表と旅のガイドブックが完成した。展示では彼女が自ら作品を使ってエジプト案内しながらのパフォーマンスも素晴らしいものであった。ぜひ映像としても残して欲しいと思う。

視覚伝達デザイン学科教授 寺山祐策

北爪更Kitazume Sara

作品写真:物語を映す不思議なグラス
作品写真:物語を映す不思議なグラス
作品写真:物語を映す不思議なグラス

物語を映す不思議なグラスMysterious glass that reflects the story

映像|グラスのコップ、水、紙Video|Glass, water, paperH520 × W350 × D350mm H540 × W350 × D594mm H547 × W350 × D350mm H557 × W594 × D350mm

水の屈折を使った映像作品を作りました。
グラスに水を注ぐとあら不思議、あっという間にグラスの中の少女は姿を変えてしまうのです。
注ぐ度注ぐ度、場面が変わり、絵が動きだし、物語はどんどん進んでいきます。

北爪更

錯視現象に興味を持っていた北爪さんは様々な調査や実験の中から透明のグラスと水、そしてグラスを回 転させる、あるいは移動するという最もシンプルな仕掛けに到達した。グラスの背後に置かれた黒地のシルエットと注がれた水、そこに起こる現象のみでシンデレラの物語が紡ぎ出される。光の屈折による像の変化と物語の展開との「からみ」が特に素晴らしく、見るものを魅了する。魔術的なストーリーと視覚の不思議さが醸し出すこの作品の(意図的ではあるが)素朴なリアリティの魅力は、昨今の安易なデジタルアニメよりもはるかに強いイメージを喚起することを伝えてくれる。

視覚伝達デザイン学科教授 寺山祐策

北村真理Kitamura Mari

作品写真:デジタルブック伊勢物語
作品写真:デジタルブック伊勢物語
作品写真:デジタルブック伊勢物語

デジタルブック伊勢物語~本阿弥光悦にふれる~The Tales of Ise [Digital Book] ― Get in Touch with the World of Hon ’ami Koetsu ―

デジタルブックDigital bookH240 × W169.5mm

伊勢物語は平安時代前半に成立した歌物語で、平安の貴公子「在原業平」を中心に語られています。その魅力ゆえ、成立してから今日まで絵巻、能、調度品など様々に表現されて参りました。
私はその魅力を、デジタルブックとして編集することで表現しました。本阿弥光悦がアートディレクションした「嵯峨本 伊勢物語」を原本に、原本の美しさを味わいつつ、それを読んだり聞いたりすることのできるデジタルブックです。
「古くて新しい伊勢物語」の世界がここに広がっています。

北村真理

以前から在原業平が好きだった北村さんは卒業制作を「伊勢物語」と決めていた。写本を含め様々な元テキストの中から、本学図書館に収蔵されている(角倉素庵と本阿弥光悦によると伝えられている)「伊勢物語」全頁を基にして、彼女はデジタルブックデザインを行った。これは主に4つの階層からなる。まずは木活字で印刷された美しい原文。次に彼女によって書かれた光悦の書体に合わせた変体仮名から現代がなへの変換テキスト。そして現代語訳。さらに彼女による音声の読みが加えられている。この4つの層を読者は自由に選びながら読み進めていくことができる。デジタルブックによって古典的な書物をその姿とともに現代に蘇らせようとした彼女の試みは成功している。利便性のみならず、これはデジタルブックのあるべきひとつの形であると思う。

視覚伝達デザイン学科教授 寺山祐策

木村美緒Kimura Mio

作品写真:norah cafe
作品写真:norah cafe
作品写真:norah cafe

norah cafe

この作品の根底には、畑と生きる祖母の生活への強い共感が横たわっている。少しずつ語られる祖母の言葉の重みや様々な資料、そして圧倒的な祖母の畑仕事への拘りと野菜料理がこの作品の枠組みを少しずつ拡大していった。「norah cafe」と題された食堂は、木村さんの祖母への共感を語らう場であり、祖母の野菜料理は中心的なメディアとして機能させられている。使用する食器類も祖母の納屋から借り受け、見立てて使用している。だから言葉が弾む。さらにこの食堂は多くの仲間によって作り上げられている。木村さんはゼミで、仲間とテーマを共有し作品を作り上げたいと言っていたが、「norah cafe」はその思いが形になっている。この作品が強い共感を得、高く評価されるのは、デザインにおけるメディアの役割を、野菜料理を作ることによって統合しているからに他ならない。

視覚伝達デザイン学科教授 新島実

團之原万葉Dannohara Kazuha

作品写真:日本湯屋物語
作品写真:日本湯屋物語

日本湯屋物語― 守貞謾稿から読み解く江戸銭湯事情 ―Bathhouse history in Japan ―The circumstance of Bathhouse in Edo period

本|紙、和綴じBook|Paper, Japanese bookbindingH297 × W420mm

模型|スチレンボード、檜材Model|Styrene board, woodH350 × W420 × D394mm

銭湯では古き良き日本の文化が未だに根付いています。
そんな銭湯の魅力を伝えたく、リサーチを重ねたところ、江戸時代の風俗事典とされる「守貞謾稿」に出会いました。
しかしこの本は、銭湯文化を始めあらゆる風俗を仔細に著していますが、現在は絶版となっており私達が身近に感じる事がありません。
そこで、守貞の言葉で綴られた銭湯についての記述を現代に生きる私の言葉で翻訳して重ね合わせ、ヴィジュアルブックを制作しました。

團之原万葉

朧げに江戸の情緒が残る東京の下町に生まれ育った團之原さんは、幼い頃から銭湯という場所に愛着を持ち続けてきた。卒業制作において日本の銭湯の歴史を調べる中で「守貞謾稿」に出会う。これは喜田川守貞による江戸後期の風俗、事物を詳細に説明した百科事典のようなもので、その中の湯屋の記述が、その平安時代の歴史から当時の具体的な大阪と江戸の差異も含めて大変興味深い内容なのだ。彼女はこのテキストを現代語に翻訳し、脚注をつけながら彼女の視点によって図版を採集、編集した書物と、当時の江戸の湯屋を再現した模型等を制作した。この本を通して私たちは江戸の庶民文化の豊かさや美しさを理解するとともに、今日にまでそれが繋がっていることを知ることができるとても素晴らしい一冊となった。

視覚伝達デザイン学科教授 寺山祐策

吉富ゆいYoshitomi Yui

作品写真:Calla Lily typeface family
作品写真:Calla Lily typeface family
作品写真:Calla Lily typeface family

Calla Lily typeface family

PaperH440 × W320 × D36mm

カラ・リリー・ファミリーは、装飾的な筆記書体からシンプルで実用的なローマン体までの6書体で構成された、オリジナルの欧文書体ファミリーです。筆記書体の魅力と可能性を探り、出自の異なる6書体を時代や書体の様式という枠組みを越えて、ひとつのファミリーとしてまとめることを試みました。ローマン体とイタリック体という組み合わせのファミリーが多く使われる現代に、新たな書体ファミリーの形を提示します。

吉富ゆい

6種の書体によって構成されたカラ・リリー・ファミリーは、個々の書体のいずれもが実用書体として使用可能な精度を保っている。しかもスタンダードでありながら、そのすべてが吉富ゆいのオリジナルである。だが評価のポイントはそれだけではない。重要なのは出自の異なる6種の書体を、一貫した書体体系としてまとめあげていることである。将来、さらにグレードアップしたこの書体が全世界に向けて発売されたら……。そんな夢と希望に満ちあふれた書体がカラ・リリー・ファミリーなのである。

視覚伝達デザイン学科教授 白井敬尚